第一次大戦終戦100年、赤いポピーのアートで戦没者を追悼する - 帝国戦争博物館で作品展示
最近、赤いヒナゲシを模したブローチを洋服の襟などに留めた人が目に付くようになりました。ヒナゲシは日本語では虞美人草に相当しますが、英国では一般的に「ポピー」と呼ばれていますね。このブローチには戦没者追悼の意味が込められています。
欧州で戦争とポピーの関連付けが始まるのは、第一次大戦(1914年~1918年)のころです。戦場となったフランス北部やフランダース地方(旧フランドル伯領を中心とする、オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部の地域)では、戦闘終了後、荒地にヒナゲシが育ったそうです。また、1915年、カナダ人医師で詩人のジョン・マックレーが同国人の兵士の死を悼んで書いた詩「イン・フランダース・フィールズ」には、冒頭にヒナゲシの描写がありました。これが英雑誌「パンチ」で掲載されて人気となり、ヒナゲシは亡くなった兵士の犠牲を象徴する存在となっていきます。
ヒナゲシのブローチを付ける理由は、11月に戦争関連の記念日が2つあるためです。1918年11月11日午前11時、第一次大戦で敗戦国となったドイツと勝者となった連合国との間で休戦協定が結ばれましたが、その翌年から毎年11月11日に「リメンバランス・デー」と呼ばれる戦没者追悼の儀式が開催されています。更に、英国と英連邦諸国ではこの日に最も近い日曜日(今年はちょうど11日に当たります)にも「リメンバランス・サンデー」 と呼ばれる追悼式を行なってきました。ヒナゲシのブローチの販売は英国在郷軍人会による募金活動の1つで、収益金は英軍関係者の支援に使われています。今年は第一次大戦終戦100周年に当たるため、追悼式は特に記憶に残るものになりそうですね。
「記憶に残る」と言えば、赤いヒナゲシをモチーフにした見事なインスタレーション作品が「14−18ナウ」というプロジェクトの一環で、4年前に展示されたことをご存知でしょうか。「ブラッド・スウェプト・ランズ・アンド・シーズ・オブ・レッド」(「血の広がる土地と赤い海」の意味)という題名が付いた作品には、88万8246本もの陶製のヒナゲシの花が使われました。これはロンドン塔の堀の内部に設置され、その1本1本が第一次大戦で戦死した英国・英連邦の兵士を表しています。劇場デザイナーのトム・パイパー氏が設計し、陶芸アーティストのポール・クミンズ氏が制作を担当。ヒナゲシはすべて手作りで、ボランティアたちが色を付けて、堀の指定された場所に配置しました。作品は2014年の夏から秋にかけて展示され、およそ500万人が来訪しました。展示終了後、ヒナゲシの大部分は1本25ポンド(約3600円)で販売。利益の一部は現役および元兵士を支援する慈善組織に寄付されました。その後、残った約1万1000本のヒナゲシで先の作品の一部(「ウェーブ」および「ウィーピング・ウィンドー」と名付けられた部分)が再編され、英国内の16カ所で展示。こちらは400万人の訪問者がありました。
終戦から100周年の日が迫り、「最後の」展示が始まっています。「ウェーブ」がイングランド北部マンチェスターにある帝国戦争博物館のノース館で今月25日まで、「ウィーピング・ウィンドー」も同博物館のロンドン館で同18日まで設置されています。その後は同館に保管され、必要に応じて展示されることになるようです。
デザイナーのパイパー氏は「悲劇的に命が失われたことを表しながらも、戦没者の精神とエネルギーを具体化するような」作品を意図したと語っています(「ガーディアン」紙、9月7日付)。筆者は、4年前から一連の作品をテレビで見て知っていたのですが、これまで足を運ぶ機会を逃していました。離れたところからだと、一群となった赤い花は血が流れるように見える一方で、近くに寄ってみると健気な1本ずつの花であることが分かってくるこれらの作品は、まさに一人一人の戦没者の姿を象徴していますね。今度こそ見逃さないようにと思っています。