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Do. 17. Jan. 2019

ドイツ歯科事情

ドイツの歯科治療の話になると、「すぐに歯を抜こうとするから行きたくない」「ドイツ人の大きな手で歯を治療されるのは嫌だ」「全身麻酔をすることもあるから怖い」と、事実かどうかは別として、ネガティブなイメージが先行しがちです。しかし、日独どちらも世界に誇る先進国。医療の基本は同じはずなのに、なぜこんなにも認識に差があるのでしょう。当コラムでは、実際の日本とドイツの歯科治療の違いや、国民性や社会的背景も踏まえてお伝えいたします。

歯科医師 宮川順充
1971年札幌生まれ。95年歯科医師資格、2003~07年オーストリア・ドナウ大学院大学の講師およびルドルフィナーハウス病院内歯科医院(ウィーン)勤務。08年歯科医療技術インスティテュート IDEA(カリフォルニア)顎機能矯正学部門講師。09~13年ランドハウス歯科医院勤務。14年より同院の経営パートナー。 www.landhausstrasse.com

ドイツに関わる周辺諸国の歯科事情②

前回のコラムでは、ドイツから隣国の安い国へ、また逆にスイスからドイツに歯科治療を受けに来るという話をお伝えしました。

わざわざ海外に行ってまで治療を受けるということは、日本では想像がつかないかもしれません。しかし世界的にみると、この十数年「医療ツーリズム」と呼ばれる、医療サービスを受けるために海外へ渡航するスタイルが増加しています。自国でも医療機関があるのに、なぜ外国に行くのかというと、医療レベルは高く相対的に物価が安いからという理由のほかに、観光地として魅力的であることが挙げられます。特にアジアでは、シンガポール、韓国、タイ、インドといった国が医療ツーリズムに力を入れており、医療も観光資源として捉え国策として積極的に取り組んでいます。

というのも、多くの渡航患者は手術を受けて滞在が長期にわたる傾向があり、それに伴い観光や食事など多くのお金をその国で消費する「単価の高い観光客」だからなのです。また、海外の病院で治療や手術を受けるのは困難ではないかと思われますが、これらの国は空港の送迎から医療通訳、カウンセリングなどを行う専門のコーディネーターを確保・育成しており、異国の地でもスムーズに医療が受けられるような配慮が施されています。

近年では日本も医療ツーリズムに注目しはじめ、シンガポールなどに比べると出遅れているものの、厚生労働省や経済産業省、観光庁が主導でプロジェクトを推し進めています。また、2011年から「医療滞在ビザ」を解禁し、先進国としての医療技術の高さを売りにして、富裕層をターゲットに医療ツーリストの呼び込みを行っています。

さて、話は変わりドイツの歯科医療に関する医療ツーリズム事情です。ドイツの歯科医療費は決して安くはありませんが、そのクオリティーは世界中から定評があります。そのドイツの歯科治療を受けようと、10年くらい前から裕福なロシア人患者が来独するようになります。特に最近押し寄せて来ているのが、サウジアラビアをはじめとする中東諸国。

ロシア・中東系の人たちは、通常自前で通訳者を雇ってドイツの歯科医院に来院し、診査・診断を受けて治療計画を相談します。その多くの患者さんは、「すべての歯を完璧に白く美しいものにしたい」という希望なのですが、歯周病治療やインプラント、全顎クラウンなど含めると、治療費の総額は日本円で1000万円を超えることも。しかし富裕層の人々はその金額にも驚かず、「そんなものか」と治療を始めることになるのがすごいところで、歯科医院側にとってもまさにVIP患者。話だけ聞くと「患者・歯科医師ともにwin-win」と思われますが、意外なところで落とし穴があるのです。それは何かというと、「支払い」の際に起こるトラブル。

お店で買い物をするとき「モノ」に対して「お金」を払うのが分かりやすい売買の形ですが、歯科治療の場合は買い物とは大きく異なります。例えば一本のクラウン治療をする際の手順は数日かけて①歯を削る、②歯型取り、③仮歯付け、④技工所で作製したクラウンの接着、という流れになります。患者さんはもちろん④の段階で治療が完了するので、そのときが買い物でいえば支払いをするという認識になるのですが、実際には①~③の過程で90%以上のコストがかかっているのです。しかしクラウンの接着前に請求をしても患者さんの理解が得られにくく、歯科医院側も手続きが煩雑になるため、一般的に治療が終了した時点で請求書が送られることになります。しかし、その支払い手続きの慣例を悪用したのがロシア・中東のケースで、治療が終了して国に戻っても一向に治療費が支払われないという事例が多発しました。ドイツやEU圏内であれば裁判などの手段も可能ですが、それらの国は法律も異なるため、結局ドイツ側の歯科医院が泣き寝入りするということに。このような背景から、近年の歯科医療ツーリズムは国を挙げてのプロジェクトとは裏腹に、その都度現金払いという前時代的なやり取りになっているというのは皮肉なものです。

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