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ロンドンのゲストハウス
Do. 19. Sep. 2019

欧州議会選で緑の党が大躍進、保守・社民勢力の低落続く

5月26日にドイツで行われた欧州議会選挙では、大波乱が起きた。地球温暖化や気候変動についての市民の関心の高まりを背景に、緑の党の得票率が前回に比べ約2倍に増加。同党は第2党の座についたのだ。

5月26日、ベルリンにて撮影された緑の党の議員たち
5月26日、ベルリンにて撮影された緑の党の議員たち

緑の党の票が450万票増加

緑の党の得票率は前回(2014年)10.7%だったが、今回は20.5%に跳ね上がった。同党に票を投じた市民の数は、5年前の約314万人から約768万人に急増した。緑の党が全国規模の選挙で第2党となったのは、結党以来、初めてのことである。

これに対し大連立政権を構成しているいわゆる国民政党の得票率低下には歯止めがかからなかった。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の得票率は、前回の30%から22.6%にダウン。これはCDU・CSUが全国規模の選挙で記録した過去最低の得票率である。また社会民主党(SPD)の得票率は、27.3%から15.8%に11.5ポイントも下がった。

世論調査機関インフラテスト・ディマップは、「前回の選挙でCDU・CSUとSPDを選んだ有権者のうち、約236万人が緑の党に鞍替えした」と推定している。州や市町村レベルで見てもこれらの党は大きく票数を減らした。与党は総崩れ状態と言っても過言ではない。

地球温暖化対策の重視が勝因

緑の党を選ぶ有権者が約450万人も増えた最大の理由は、地球温暖化・気候変動についての市民の危機感の高まりだ。ここ数年、ドイツでも気候変動の影響が目に見えるようになってきた。昨年の年間平均気温は過去最高に達し、干ばつで農作物に大きな被害が出た。さらに暴風低気圧のために樹木が倒されたり、降雨量の減少によりライン川の水位が大幅に下がって大型の船舶が一時航行できなくなる影響が出た。

スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが地球温暖化に抗議するために独りで始めたストライキ「未来のための金曜日」は今年1月からドイツにも広がり、選挙直前の5月24日にも約32万人の生徒が授業をボイコットしてデモに参加した。彼らは「伝統的な政府は、地球温暖化に歯止めをかけるための努力を真剣に行っていない。今日でもすでに気候に異常が見られるのならば、30年後、40年後の地球はどうなるのか」として、経済の非炭素化を加速するよう求めている。トゥーンベリさんは講演のなかで「将来、私に孫ができたときに『なぜあなたは、地球がこのような状態になる前に行動しなかったの』と問い詰められるは嫌だ」と語っている。

「2038年の脱石炭は遅すぎる」

今年メルケル政権は褐炭・石炭火力発電所の使用を2038年までに停止することを決定。しかし若者たちは、「2038年では遅すぎる」として緑の党と同様に2030年の脱石炭を要求している。彼らは「欧州議会選挙を気候保護のための選挙にする」と宣言していた。

緑の党は、地球温暖化対策の加速と強化を他党よりも強く前面に押し出して、選挙戦を展開。CDU・CSUとSPDの幹部たちは、「緑の党ほど気候保護問題を重視しなかったことが敗因だった」と認めている。

右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、二酸化炭素が地球温暖化や気候変動につながっていることすら否定し、「市民がディーゼルエンジンの車に乗る自由を守ろう」というスローガンを使用した。その結果、得票率の伸びは3.9ポイントに留まり2017年の連邦議会選挙のような大躍進を果たせなかった。

レゾのネットビデオが後押し

投票日の1週間前に、伝統政党の票数をさらに減らし、緑の党の票数を伸ばす出来事が起きた。ドイツの若者の間で人気のユーチューバー・レゾは、「CDUの破壊」というビデオをネット上に公開。地球温暖化問題は55分間のビデオの約半分を占めている。レゾはスタッフに行わせた取材に基づき「伝統政党は科学者の警告を軽視し、気候変動に歯止めをかけるための対策を真剣に行っていない。CDU・CSU、SPD、AfDを選んではいけない」と市民に呼びかけた。わずか1週間で約1000万人がこのビデオを見た。CDUは本稿を執筆している5月29日の時点でも、レゾの批判に反論していない。ドイツでは批判に反論しないことは、負けを認めたと同じことである(CDUは反論ビデオを制作したが、レゾのビデオに比べると説得力に欠けたため、公開を見合わせた)。このエピソードは、選挙戦でネットメディアが新聞やテレビを大幅に上回る影響力を持っていることを示した。つまりCDU・CSU、SPDの多くの政治家たちは今なおデジタル時代の選挙の戦い方を習得していないのだ。

政治への関心の高まり

今回のドイツの欧州議会選挙で驚異的だったのは、投票率が前回(2014年)に比べて約13ポイントも増加して61.4%に達したことだ。このことは若者たちを中心として、気候変動や右派ポピュリスト政党の伸長に危惧を抱く人々が、投票所へ足を運んだことを示している。日本に比べるとドイツの若者の間では、政治への関心が高まっている。

欧州全体でも投票率が約8ポイント増え、危惧されていた右派ポピュリスト会派の大躍進は阻止された。英仏伊で右派ポピュリスト政党が首位に立つなど楽観は禁物だが、ドイツで起きた大変化は欧州の未来にかすかな希望を与える材料となるかもしれない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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