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ロンドンのゲストハウス
Do. 21. Nov. 2019

反ユダヤ主義者の危険な暴走 ハレ・シナゴーグ襲撃の背景

極右勢力が、またもやドイツ社会に衝撃を与えた。10月9日は、ユダヤ人にとって最も重要な祝日ヨム・キップール(贖罪の日)である。この日、旧東ドイツのハレで27歳のドイツ人男性がユダヤ教の礼拝所(シナゴーグ)を襲ったのだ。

10月10日、警察に連行されるシュテファン・B(真ん中)10月10日、警察に連行されるシュテファン・B(真ん中)

犯行をネット上で「生中継」

男は数丁の銃を持ってシナゴーグに押し入ろうとした。彼は散弾銃で扉を撃ったが、施錠を壊すことができなかった。このため侵入をあきらめ、通りがかりの女性を射殺したほか、近くの飲食店にいた男性を殺害した。男はさらに2人の市民を負傷させた後、車で逃走を試みたが、警察に逮捕された。

連邦検察庁の調べによると、犯人はザクセン・アンハルト州のアイスレーベンに住むエンジニア、シュテファン・B。彼はシナゴーグに乱入して、礼拝中のユダヤ人たちを殺害することが目的だったと認めた。Bは散弾銃のほか小銃など2丁の銃と多数の銃弾を持っており、さらに彼の車からは4キロの爆薬や火炎瓶が見つかった。

彼はヘルメットに取り付けた小型ビデオカメラで、犯行の一部始終を撮影し、インターネット上の「トゥイッチ」というストリーミング・フォーラム上に配信。トゥイッチは、テレビゲームの愛好者らが自由に動画を公開できるフォーラムだ。犯人がシナゴーグの扉をこじ開けようとしている様子や、通行人を射殺する模様がトゥイッチに20分間にわたって流れた。

Bがネット上に残した犯行声明は、彼がネオナチの思想に汚染されていることをはっきり示している。彼は「ナチスによるユダヤ人大量虐殺はなかった」と語ったのだ。さらに「ヨム・キップールを選んだのは、この日には敬虔な信徒以外のユダヤ人もシナゴーグに集まると思ったからだ。ユダヤ人を1人でも殺せば、目的を達成できたことになる」と述べている。

この日ハレのシナゴーグでは、約50人のユダヤ人が礼拝に参加していた。もしもBが扉をこじ開けていたら、大惨事となるところだった。

彼の犯行は、今年3月15日にニュージーランドのクライストチャーチで起きた銃乱射事件を想起させる。この事件では、極右思想を持つ男がイスラム教徒の礼拝施設に乱入し、51人を射殺したが、やはり犯行の様子をネット上に流していた。

ユダヤ人を狙う犯罪が増加傾向

2019年は、ドイツで極右のテロが新しい段階に入った年として記憶されるだろう。これまでドイツの極右の暴力は、トルコ人などイスラム教徒に対して向けられることが多かった。たとえば1992年11月に旧西ドイツのメルンでネオナチの若者がトルコ人の住む住宅に放火し、親子3人が焼死した事件や、翌年5月にゾーリンゲンで極右勢力がトルコ人の住む家にやはり放火して、家族5人を殺害した事件などがある。旧東ドイツのネオナチ・グループが、2000年からの11年間にミュンヘンやハンブルクなどで外国人ら10人を殺害した事件でも、被害者の多くはトルコ人だった。

だがハレの事件は、人種差別主義者が初めてユダヤ人の大量殺害を試みたという意味で、極右の暴力の質を大きく変えた。ナチスは1930~1940年代に約600万人のユダヤ人を虐殺。21世紀の今、再びユダヤ人がドイツで生命の危険にさらされたのである。

実際、ゼーホーファー内務大臣はハレの事件の直後、「ドイツでは反ユダヤ主義による危険が非常に高くなっている」と指摘。大臣は「この国の極右勢力の数は約1万2000人だが、彼らの中には武器を愛好し、暴力をためらわない者が多い。今後似たような事件がいつ起きてもおかしくない」と注意を呼び掛けた。

またシュタインマイヤー大統領は、「ハレの事件の犯人は、独りでテロを実行したかもしれない。しかし彼は実際には独りではなかった」と語る。大統領は、「犯人は独りで凶行に走ったのではなく、インターネット上で極右勢力に感化され、応援されていた。反ユダヤ主義を煽る言葉は、街角やネット上に広がる一方だ」と述べ、人種差別に対するタブーの意識がこの国で減りつつあることに警鐘を鳴らした。

また近年ドイツでは、ユダヤ人が路上で唾をかけられたり、暴言を浴びさせられたりする事件が増えている。連邦内務省によると、ユダヤ人を狙った極右の暴力犯罪は2001年には27件だったが、昨年は49件に増えている。

「過去との対決」への重大な挑戦

衝撃的だったのは、犯人が武器の大半を自作していたことだ。Bは銃弾や手投げ弾も自分で作っていたという。しかもBは、過激な極右勢力として警察からマークされていなかった。このことは、警察が知らないうちに、危険な思想を持つ市民の武装化が進んでいることを示している。もちろんドイツ人の大半は外国人を差別しない、穏健な人々である。多くの人々が今回の事件を糾弾している。だがこの国では、まるでコンピューターゲームのように、大勢の人を殺す映像をネット上に流すことによって、「同志たち」から喝采を浴びたいと思う勢力が、社会の片隅に巣食い始めている。ハレの事件は、その事実を白日の下に曝した。

政府はシナゴーグなどユダヤ関連施設の警備を強化するべきだ。そして、ドイツが第二次世界大戦後から続けてきた「ナチスの過去との対決」を無きものにする思想が、なぜ今この国で広がり始めているのかについて、原因を究明する必要がある。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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