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ジャパンダイジェスト
Do. 20. Feb. 2020

新型肺炎の脅威とドイツ経済

新しい年を迎えたばかりの世界を、未知の病の影が覆っている。昨年12月に中国・武漢で発生した新型肺炎は瞬く間にほかの地域に広がった。空の旅が当たり前になったことと経済のグローバル化により、新型コロナウイルス2019-nCoVの感染者は中国以外の国々でも増えつつある。

1月29日、封鎖された武漢市で建設が進められている仮設病院1月29日、封鎖された武漢市で建設が進められている仮設病院

SARSを上回る感染者数

中国の保健当局、国家衛生健康委員会によると、2月4日の時点では、中国で約2万人が感染し、425人が死亡した。これは2003年に中国や香港に広まった新型肺炎SARS(重症急性呼吸器症候群)の感染者の数を大幅に上回る。

このほか2月3日の時点で、日本、米国、シンガポール、オーストラリアなど23カ国で183人の感染者が見つかっている(そのうちフィリピンで1人が死亡)。ドイツではこれまでに12人の感染が確認された。中国では感染者の数が毎日急激に増えている。だがウイルスの潜伏期間は最長14日間で、この間にも他人にウイルスが感染することから、医療機関が確認した感染者の数は、氷山の一角とみられている。

武漢など数都市を「封鎖」

中国政府はウイルスの拡大を防ぐために、SARSの時よりも厳格な対策を取った。中国は武漢と他地域を結ぶ交通を遮断し、武漢市民が市外に出ることや、他地域からの市民が同市に入ることも禁止した。さらに湖北省のほかの数カ所の都市でも事実上の「封鎖措置」が取られている。これらの街では合計約5000万人の市民が足止めを食っている。このため日本、米国、ドイツなどの政府はチャーター機などを武漢に送り自国民を「救出」した。

感染症のために百万都市の住民が事実上の隔離状態に置かれるというのは、歴史上例がない。中国政府が今回の事態をいかに深刻に見ているかを示している。武漢では患者の数に比べて医療施設が不足しているため、新たな病院が建設された。

だが、新型肺炎発生のタイミングは非常に悪かった。この時期は中国の春節(旧正月)の休日のために、多くの市民が国内外へ旅行するからだ。武漢市が封鎖される前に、住民1100万人のうち500万人がすでに同市を離れていたという情報もある。つまり新型肺炎の拡大は目に見えない所で進んでいる可能性が高い。

このコロナウイルスの発生源は、武漢の海鮮市場で食用に売られていた野生動物とみられている。動物の体内にあったコロナウイルスが、「種の壁」を乗り越えて人間に伝播し、人間から人間へ感染するようになった新種の病原体だ。このため、治療薬もワクチンもまだ開発されていない。

パンデミックの脅威

WHOは、ウイルスが複数の国々、複数の大陸に広がって多数の市民を感染させる現象を「パンデミック」と呼んでいる。1918年のスペイン風邪、1968年の香港風邪、2003年のSARSや2009年の豚インフルエンザ(H1N1)はその例だ。

WHOは、1月30日に武漢発の新型肺炎を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」と認定し、各国にウイルス拡大防止のための対策を取るよう求めた。2月3日の時点では、WHOはこの肺炎をパンデミックとは呼んでいない。だが米国・国立アレルギー感染症研究所のフォーシ所長は、2月3日付のニューヨークタイムズ紙に対し「このウイルスの感染力は非常に強く、患者数は毎日急増している。パンデミックに発展することは、ほぼ確実だ」と語っている。

世界経済にも悪影響?

新型肺炎の流行が長期間にわたった場合、世界経済にも深刻な影響が出る可能性がある。すでに多くの企業が中国への出張を延期、または中止するよう社員に命じている。ドイツだけではなく、世界中の多くの企業にとって中国は最も重要な市場の1つ。世界中で毎年販売される車の3台に1台は中国で売られ、ドイツのフォルクスワーゲン・グループでは2台に1台に達する。世界銀行によると中国の経済成長率は2007年には14.2%だったが、2018年には6.6%に低下した。新型肺炎のために企業活動に支障が出た場合、経済成長率をさらに圧迫する可能性がある。

金融市場にも新型肺炎の影響が出始めた。1月27日には、ドイツの株式指数市場(DAX)で「新型肺炎が経済に悪影響を与えるかもしれない」という懸念が広がり、株式指数が2.7%下落した。2月3日には、上海株式市場でも株価が一時8.7%下落した。

ドイツ保健当局の素早い対応

ドイツではまだ感染者数が少ないため、医療関係者は余裕を持って感染者の治療にあたっている。保健当局はバイエルン州で見つかった最初の感染者の感染経路も直ちに特定し、この人物が接触した人々に対する検査を実施。連邦健康省も、「事態は深刻だが、われわれは万端の準備を整えている」と述べている。

だが武漢など中国の都市では医師や看護師たちが不眠不休で、病院に押し寄せる患者たちの治療にあたり、未知の病原体と闘っている。街からの脱出を政府によって禁じられた「封鎖都市」の市民たち、特に幼い子どものいる親の不安はどれほどであろうか。一刻も早く治療薬やワクチンが開発されて、感染者数や死者数の増加に歯止めがかかることを祈りたい。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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