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三党連立政権は信号機かジャマイカか?

9月26日のドイツ連邦議会選挙では、社会民主党(SPD)と緑の党が躍進し、保守党が大敗。三党連立政権が誕生する公算が強いが、交渉は難航しそうだ。

1日、三者協議を終えた緑の党の共同党首ハベック氏(左)とベアボック氏(中央)、 FDPのリントナー氏(右)1日、三者協議を終えた緑の党の共同党首ハベック氏(左)とベアボック氏(中央)、 FDPのリントナー氏(右)

SPDと緑の党が躍進

選挙管理委員会によると、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の得票率は前回より8.8ポイント減り24.1%となった。結党以来、最低の数字だ。これに対しSPDは前回比で5.2ポイント増え、25.7%を記録。緑の党も5.9ポイント増えて14.8%になり、第3党の地位に到達した。第4党は、企業経営者や自営業者を支持基盤とする自由民主党(FDP)。同党は、得票率を前回よりも0.8ポイント増やした(11.5%)。

政界では、三党連立が必要になるという見方で、現在最も有力視されているのが、次の二つのパターンだ。次期連邦議会の議席数は735なので、新政権は368議席を確保すれば過半数を獲得できる。

連立パターン① 連立パターン②
通称 信号機連立 ジャマイカ連立
首相 ショルツ ラシェット
政党(議席数) SPD(206) CDU・CSU(196)
政党(議席数) 緑の党(118) 緑の党(118)
政党(議席数) FDP(92) FDP(92)
議席数 416 406

各党のシンボルカラーにより、連立パターン①は信号機連立、連立パターン②はジャマイカ国旗の3色が使われているため、ジャマイカ連立と呼ばれる。SPDのショルツ候補は、「今回の選挙ではSPD、緑の党、FDPが得票率を前回に比べて増やした。従って国民の要請に応えて、この3党が連立政権を作るべきだ」と述べている。これに対しCDUのラシェット候補は、「SPDとCDU・CSUの得票率の差はわずか1.6ポイント。得票率が2番目の政党にも、連立政権を率いる権利がある」と主張している。

鍵を握る緑の党とFDP

このため緑の党とFDPは、キングメーカーとして極めて重要な役割を演じる。方向性は異なるものの、両党とも政治経済の改革を求めている。緑の党はエコロジー国家を建設すること、FDPはデジタル化と教育改革を強調したために、特に30歳未満の有権者の間で得票率が高かった。ショルツ・ラシェット両候補の運命は、緑の党とFDPがSPDとCDU・CSUのどちらを選ぶかにかかっているのだ。現在各党は、正式な連立交渉の準備として、個別に事前協議を始めている。

SPDと緑の党は、温暖化と気候変動に歯止めをかけるための政策や、コロナ危機で拡大した所得格差を是正するための政策を重視しており、共通点が多い。両党とも、富裕層への課税強化や、法定最低賃金の引き上げを求めている点は同じだ。緑の党は、再生可能エネルギーの拡大などのために多額の投資が必要になるため、債務ブレーキの緩和を要求している。

CDU・CSUとFDPは政策面では理想的なパートナーである。両党は左派政党ほど具体的に気候保護政策をマニフェストに掲げておらず、富裕層・企業への増税に反対だ。また債務ブレーキの緩和に反対し、一刻も早く財政黒字を回復させることを求めている。

焦点の一つは、緑の党とFDPがどのようにして政策を擦り合わせるかだ。緑の党は政府主導で二酸化炭素CO2削減を加速するため、例えば気候保護省を新設して、パリ協定にそぐわないほかの省庁の法案に対する拒否権を与えることを提案している。

三党は妥協点を見出せるか?

緑の党は、メルケル政権が決めた脱石炭の実施時期(2038年)を8年早めること、全ての新築の建物に太陽光発電装置の設置を義務付けること、全国の土地の少なくとも2%を風力発電設備の用地にすること、2030年以降ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの新車の販売を禁止することなどを求めている。

これに対しFDPは、「禁止など法律による強制は、企業に過重な負担となる。気候保護対策については、企業が競争力を維持できるように、禁止措置ではなくイノベーションやCO2排出量取引制度の拡大など、市場メカニズムを重視するべきだ」と主張する。同党は内燃機関を使う新車の販売禁止に反対の立場である。さらに富裕層に対する増税に反対し、逆に企業減税をマニフェストの中で提案している。

つまり緑の党とFDPが信号機連立かジャマイカ連立を成立させるには、数々の政策について、妥協点を見出さなくてはならない。緑の党とFDPは、2017年の連邦議会選挙後の交渉で譲歩せず、ジャマイカ三党連立構想を破綻させた経験がある。ちなみに、三党連立政権が万一成立しない場合、計算上CDU・CSUとSPDは大連立によって402議席を確保できる。しかしSPD執行部はCDU・CSUとの再連立に強く反対しているので、実現する可能性は低い。一方FDPと緑の党は、連立交渉前の準備協議を入念に行っている。

世論調査機関「選挙研究グループ」が10月2日に公表した世論調査によると、「信号機連立を望む」と答えた比率は59%で、ジャマイカ連立を支持する回答者(24%)に大きく水を開けた。「ショルツ候補が首相になるべきだ」と答えた人は76%で、ラシェット候補への支持率(33%)の2倍を上回った。敗軍の将への圧力は、日一日と高まりつつある。前回の選挙時には、政権樹立までに5カ月かかった。欧州のリーダー国で空白状態が長期化するのは好ましくないので、一刻も早く新政権が誕生することを望む。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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