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Oliver Was­ser­mann
So. 23. Sep. 2018

メルケル政権は旧東独の混乱を放置してはならない

旧東独、特にザクセン州の社会的・政治的混乱は年々深刻化する一方だ。特にメルケル政権がこの地域での極右勢力の拡大に対抗して有効な対策を何一つ取っていないことが気になる。

極右が路上で外国人を「追跡」

8月末にザクセン州のケムニッツで起きた騒擾(そうじょう)は、同州と旧東独に対するイメージを一段と悪化させた。

ケムニッツでは8月25日に市民祭が開かれていたが、26日の未明に同市の路上で数人の男たちの間で口論が始まった。その結果ドイツ人3人が刃物で刺されて重傷を負い、その内1人が病院で死亡した。警察は現場から逃走した23歳のシリア人と22歳のイラク人を殺人の疑いで逮捕して、取り調べている。

8月27日午後に右派団体「ケムニッツのために」が殺人に抗議するためのデモを実施。地元の警察は参加者を約1000人と推定していたが、実際には他都市のネオナチもツイッターによる呼びかけに応じて参加し、約6000人に膨れ上がった。一部の参加者は路上で外国人を追い回したり、暴力をふるったりした。右派のデモ隊は警官隊や左派のデモ隊と小競り合いを繰り返し、警察官2人を含む20人の負傷者が出た。

8月27日、ケムニッツにて行われた右派団体による抗議デモの様子
8月27日、ケムニッツにて行われた右派団体による抗議デモの様子

警察の対応に不備

ケムニッツの警察当局は「デモの参加者の数を少なく見積もっていたため、動員した警察官の数が少なすぎた」と対応に不備な点があったことを認めた。

ケムニッツには社会主義時代に作られた有名なカール・マルクスの像がある。この前で撮影された映像を見ると、一部の右派勢力は右手を高く掲げるナチス式の敬礼(ヒトラー・グルス)を行っている。これはドイツの刑法によると国民扇動という違法行為である。しかし近くにいる警察官たちは、ナチス式の敬礼をしている男たちを見ても、逮捕はおろか全く反応していない。ドイツは法治国家であるはずだが、この日ケムニッツでは違法行為が野放しになっていた。

独政府は暴力を糾弾

メルケル首相は8月28日の記者会見で、殺されたドイツ人の遺族に弔意を表した。その上で、「ケムニッツの路上で外国人が追いかけられ、ヘイトスピーチが叫ばれた。これはドイツの町で起きてはならないことだ」と述べてネオナチの暴力を強く糾弾した。

フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー大統領も死者の家族、そして友人たちに対し追悼の意を表す一方で、「極右勢力は殺人事件による市民の動揺と悲しみを悪用して、外国人に対する憎しみを煽り立てた。私は極右による暴力を強く非難する」と述べた。

ネット世界には誹謗中傷やフェイクニュースが飛び交った。「警察はケムニッツの外国人に対し、危険だから屋内にいるように勧告している」というデマが流れた。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は血の付いたナイフのイラストとともに「ケムニッツのような事件はどこでも起こり得る」というメッセージをツイッターで発信し、市民の不安を煽る。右派団体「ケムニッツのために」は、2人の外国人に対する拘留命令の文書の映像を一時ツイッターの中で公表。そこには容疑者や被害者の氏名などが克明に記されていた。この文書は警察官、検察官、判事、弁護士しか見ることができないものだ。そのような文書がネット上で公表されたことは、司法関係者の間にも右派勢力と繋がりがある者がいることを示唆しており、不気味だ。

ザクセン州では、このほかにも極右勢力をめぐるトラブルが発生している。8月16日には、ドレスデンで右派勢力の反メルケル・デモを取材していた公共放送局ZDFのカメラクルーが、参加者から「撮影をやめろ」と言いがかりをつけられ、口論になった。記者とカメラマンはその後45分間にわたり警察官の尋問を受け、取材を妨害された。後になって言いがかりをつけた参加者は、ザクセン州刑事局の事務職員だったことが明らかになった。彼は非番の時に個人として反メルケル・デモに加わっていた。ザクセン州の警察は、「対応に手落ちがあった」としてZDFに謝罪した。

ザクセンではAfDが事実上の第一党

旧東独では、極右政党に対する市民の支持が西側より強い。去年9月の連邦議会選挙でAfDは12.6%の得票率を記録し、一挙に第3党になったが、ザクセン州では27%の有権者が同党を選び、AfDは首位の座に立った。AfDは旧東独全体でも22.5%という高い得票率を確保し、第2党の地位にある。ザクセン州では来年9月1日に州議会選挙が行われるが、AfDがトップに立つ可能性が強い。それ以外の政党がAfD抜きで連立政党を組めるかどうかが焦点である。

旧東独では今でも「我々は統一によって貧乏くじを引かされた」として伝統的な政党や中央政府に恨みを抱く市民が多い。今年6月の旧東独の失業率は6.6%で、旧西独(4.7%)を上回っている。旧東独の外国人の比率は約2%と全国平均よりも低いのだが、難民や外国人に対する反感は旧西独よりも強い。難民に対する暴力は、メルケル政権への攻撃でもある。

メルケル政権は、旧東独で市民との対話の機会を増やすべきだ。そして彼らの批判や不満に耳を傾け、対策を講じるべきだ。さもなければ、旧東独でのAfD支持者は今後も増える一方だろう。今のままではフランス同様に極右勢力の支持率が約20%に達して社会民主党(SPD)を追い抜き、第2党になる可能性もある。政府は今の状態を放置してはならない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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