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Di. 13. Nov. 2018

腹心カウダー院内総務の失脚で「メルケル時代」終焉へ

2005年からドイツに君臨するアンゲラ・メルケル首相の時代に終わりが近づきつつある。そのことを国民に強く印象づけたのが、連邦議会でキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)の会派を13年間にわたり率いたフォルカー・カウダー院内総務の失脚だ。

メルケル首相の腹心が落選

CDU・CSUの議員たちは9月25日の投票でそれまで副院内総務だったラルフ・ブリンクハウス氏を会派のトップに選び、カウダー氏を落選させた。院内総務という役職は、首相に次いで重要なポストだ。院内総務は、政府が議会で法案をスムーズに可決できるように議員たちを統率しなくてはならないからだ。

ラルフ・ブリンクハウス氏(左)
9月25日の投票で会派のトップに選ばれたラルフ・ブリンクハウス氏(左)

カウダー氏はメルケル氏の右腕とされ、時には強引なやり方で首相の意向を連邦議会の会派に徹底させていた。彼はしばしば議員の90%の票を集めて、院内総務に選ばれていた。メルケル首相やホルスト・ゼーホーファー内相(CSU)も、カウダー氏の再選を望んでいた。ベルリンで政局を観察しているドイツ・メディアの政治記者たちの中にも、カウダー落選を予想する者はほとんどいなかった。だがCDU・CSUの議員たちの間では、支持率の低下と極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進に危機感が強まっていた。

ドイツの公共放送局ARDは、9月21日に政党支持率に関する世論調査結果を発表し、「初めてAfDへの支持率(18%)が社会民主党(SPD)への支持率(17%)を上回り、第二党になった。もしも今総選挙が行われたら、政権与党は過半数を取れない」と報じていた。AfDの支持率の上昇は、メルケル首相の政策に不満を持つ有権者が増えていることを示している。

CDU・CSUの若手議員の不満

CDU・CSUの議員たちは地元に帰るたびに、草の根の党員たちの間で政権に対する不満が募っているのを感じていた。特に若手議員たちは「CDU・CSU会派を変えなくてはならない」という機運が強まっていた。その中でブリンクハウス氏は、院内総務選挙に立候補した後「これまでCDU・CSU会派は首相の意向を忠実に実行するだけの道具になり下がっていた。今後は独自の意見を持ち、時には首相の路線にノーと言うべきだ」と述べて議員たちの心をつかんだ。ブリンクハウス氏は経済問題に精通した政治家で、2016年に欧州中央銀行の金融緩和政策を批判したことがあるが、ほとんど注目されたことがない政治家。つまりほぼ無名だった議員によって、メルケル政権を支える影の黒幕が政治の表舞台から追い落とされたのだ。

カウダー氏落選は、メルケル首相にとっても敗北を意味する。今後はCDU・CSU会派の意見の調整がこれまでよりも難しくなるからだ。スイスの日刊紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」は、9月25日付の電子版で「カウダー失脚は、CDU・CSU議員たちのメルケル氏に対する宣戦布告だ。メルケル氏は自分の党の議員たちに頼ることすらできなくなった。メルケル時代の終わりが近づいてきた」と論評した。

大連立政権内部の不協和音

今年3月の政権発足以降、メルケル氏は失点続きだ。大連立政権の「金属疲労」を象徴する出来事が、次々に起きている。今年7月には「EU加盟国ですでに登録された難民のドイツへの入国を拒否するべきか否か」という問題をめぐり、メルケル首相とゼーホーファー内相が全面衝突した。首相が閣僚罷免権の行使までちらつかせ、大連立政権は崩壊の一歩手前まで追い込まれたが、オーストリア国境付近に難民審査センターを設けることでかろうじて合意した。

今年8月下旬には旧東独のケムニッツで、難民による殺人に抗議するデモが行われ、ネオナチなど一部の参加者が暴徒化して外国人を追いかけたり、ユダヤ・レストランに投石したりした。メルケル首相は外国人がドイツ人に追いかけられる映像について、「ドイツでこのような事態は絶対に起きてはならない」と強く批判した。しかし、連邦憲法擁護庁の長官だったハンス= ゲオルク・マーセン氏は、この映像について「捜査を撹乱するために偽造された可能性がある」と信憑性に疑問を投げかける発言を行い、首相の発言に挑戦し、右派勢力を擁護しているかのような印象を与えた。マーセン氏はメルケル首相の難民政策に批判的な意見を持っていた。メルケル氏はマーセン氏を憲法擁護庁長官のポストから外し、内務次官の役職を与えるという内務大臣の提案を承認。だが内務次官の給与は憲法擁護庁長官よりも高いために、事実上の「昇進」だった。このため社会民主党や国民から抗議の声が上がった。メルケル氏はやむなく承認を取り消して、マーセン氏を給与が同額の内務省顧問のポストに付けることを決めた。このことについてメルケル氏は、「市民の常識に反する決定だった」と述べ判断を誤ったことについて謝罪した。

メルケル辞任論が浮上か

10月14日のバイエルン州議会選挙ではCSUが歴史的な大敗を喫すると予想されている。投票直前にARDが発表した政党支持率調査ではCSUの支持率は33%という史上最低の水準に下がっていた。今年12月のCDUの党大会では執行部が改選されるが、この場でメルケル氏の党首辞任を求める動きが表面化する可能性もある。欧州で最も政治が安定した国と言われたドイツで、刻一刻と不透明感が強まりつつあるのは、残念なことだ。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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