Hanacell

ユーロビジョン・ソング・コンテストに参加

1956年5月24日
西欧の統合をめざす動きが、政治、経済、軍事のレベルで具体的になる1950年代後半、大衆芸能にも共同のイベントがスタート。西ドイツはその初回から参加を果たした。

初回は7カ国からのスタート

当初は「Grand Prix Eurovision de la Chanson」と呼ばれ、司会も開催地の言語とフランス語のバイリンガルだったこの欧州国別対抗歌唱コンテスト。参加国が増えるに従って英語の使用が一般的になり、1973年以後は名称も「Eurovision Song Contest」に替えられた。

いまさら説明するまでもないが、コンテストでは参加国の代表歌手がくじ引きで順番に新曲を歌い、視聴者が自国以外の国に順位をつける。このアイデアを出したのは、ジュネーブに本部を置く欧州放送連合(EBU)の代表マルセル・ベイソン(1907-81)だった。時はテレビ放送の黎明期。3年前に英国エリザベス2世戴冠式の中継に成功したEBUは、このイベント放送で送信技術の限界を試したかったのだそうだ。

初回大会にはスイス(開催国)、イタリア、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、西ドイツが参加する。もうお気づきのはず。スイスを除くこの6カ国は当時すでに石炭・鉄鋼の共同体を組んでいた。そしてその6カ国による欧州共同体(EEC)が発足するのは、2年後の58年。当時の西ドイツが西欧共同の家への加入に出遅れまいと、いかに懸命にアンテナを張っていたかが、これでお分かりいただけるだろう。

コンテストは2回目から英国や北欧諸国を加え、続けて軍事独裁下にあったスペインとポルトガルも招待。さらには独自の社会主義政策を執るユーゴスラビアも取り込んで、世界最大の音楽テレビイベントへと成長する。その過程で数々の世界的ヒット曲が誕生した。

ほんの少し平和を・・・・・・

英国代表クリフ・リチャードの『Congratulations』(68年2位)、スウェーデン代表ABBAの『Waterloo』(74年優勝)、スイス代表セリーヌ・ディオンの『Ne partez pas sans moi』(88年優勝)を覚えておられるだろうか。西ドイツが送り込んだ奇想天外なバンド Dschinghis Khanの同名曲(79年4位)は、ディスコブームに乗って世界を圧巻する。そう、あの「ジング、ジング、ジンギスカーン…」である。

ABBA
1974年に優勝したスウェーデン代表ABBAのフリーダ(左下)と
アグネッタ(右下)、ベニー(左上)とビョルン

そして82年、西ドイツ代表ニコールが1位に輝いた『Ein Bisschen Frieden』(ほんのすこし平和を)は、東と西、両ドイツ人の心を代弁する歌だった。「この地上にほんのすこし太陽を、喜びを、温かさをください。歌で多くのことは変えられないけれど、私は嵐の予兆を風に感じる小鳥。ほんのすこし平和を、夢をください、人がそんなに泣かないように」

ソ連のSS-20ミサイルとNATOの核搭載パーシングIIミサイルの欧州配備によって、東西の緊張が再び高まった80年代前半。東ドイツの国民もニコールのメッセージを聴いた。公には認められずとも、西のテレビ電波は東ドイツでも一部の地域を除いて受信が可能だったのだ。子どもの頃にこの歌を毎日聴いていたと告白する旧東ドイツ人は大勢いる。

Ein bisschen Frieden, ein bisschen Liebe ──。
ベルリンの壁が崩れるのは、この7年後である。

拡大を続ける歌の共同体

現在EBUには欧州のほか、北アフリカ、中東から56カ国が加盟しており、どのメンバー国もコンテストへの参加資格を有しているわけだが、実際には欧州以外からトルコ、イスラエル、モロッコ、そしてアゼルバイジャンが参加。そして近年の開催では、ソ連崩壊以後に加わった東欧・ロシアの上位進出が目立つようになった。

それは東欧圏の隣国同士が、視聴者の電話投票とSMSによるポイントを相互に与え合う結果になっているからだ。例えば旧ソ連邦の国や、つい10年前には民族紛争の地だったバルカン諸国が、かつての仲間を上位にランクインする。

このエスニック傾向は、ドイツに住むトルコ人がトルコ代表に大量に投票することで起きる順位の偏りと同様とはいえ、古くからの参加国にすれば歯軋りしたくなるだろう。そのために西欧のメンバーは真剣な取り組みをやめてしまったとの声まで出ている。

スタートから53年。巨大な歌の共同体へと進化したユーロビジョンには、変革が急務かもしれない。

18 Juli 2008 Nr. 723

最終更新 Mittwoch, 24 August 2011 18:31  
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