Hanacell

連載「旅ールのススメ」からピックアップ!ビールで味わうドイツ旅

2017年から続く本誌の人気連載「旅ールのススメ」では、ビアジャーナリストのコウゴアヤコさんのナビゲートのもと、毎回おいしいビールを求めてドイツ各地での旅が楽しめる。本特集では、そんな過去の連載の中から、おすすめのご当地ビールを現地の見どころと共に一挙ご紹介。さらにコウゴさん自身のライフワークである「旅ール」との出会いについても語ってもらった。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部、監修:コウゴアヤコ)

参考:旅ールのススメ

ビールで味わうドイツ旅

お話を聞いた方

コウゴ アヤコ

Ayako Kogoコウゴ アヤコ

1978年東京生まれ。杏林大学保健学部卒業。ビール好きが高じて2008年から1年半、ミュンヘンで暮らす。旅とビールを組み合わせた「旅ール」(タビール)をライフワークに世界各国の醸造所や酒場を旅する。ビアジャーナリストとして『ビール王国』(ワイン王国)、『ビールの図鑑』(マイナビ)、『Coralway』(日本トランスオーシャン機内誌)など、さまざまなメディアで執筆。
http://www.jbja.jp/archives/author/kogo

「旅ールのススメ」から厳選!ドイツビール12種

ビールで味わうドイツ旅

デュッセルドルフ

鮮度が命!の「古くて新しい」ビール❶ アルトビア Altbier種類:エール

アルトビア Altbier

ライン河畔に位置するデュッセルドルフは、日系企業や和食レストランが多い「リトルトーキョー」としても有名。旧市街地には居酒屋やバーが軒を連ね、「世界一長いバーカウンター」と呼ばれる。ぜひ飲みたいのが、地ビールのアルトビア。アルト(Alt)とは「古い」という意味で、これは当時新しいスタイルだった下面発酵ビールに対し、伝統的な上面発酵で造られていることから。赤みを帯びた褐色で、引き締まったホップの苦味にカラメルモルトの香ばしい甘さが特徴。

鮮度が命のアルトビールは、居酒屋では小ぶりな円筒型グラスで提供される。飲み干してテーブルに置くと「おかわり」の合図になり、コースターでグラスに蓋をするまで延々とビールが来る。旧市街の中でも人気の酒場が「Zum Uerige」。酒場の建物内で醸造された、新鮮なアルトビールが飲める。

おすすめの醸造所&ビール

Uerige Alt

Uerige Alt
Uerige Obergärige
Hausbrauerei(ユーリゲ醸造所)
創業年:1862年
住所:Berger Str. 1, 40213 Düsseldorf
www.uerige.de

ケルン

大聖堂の街に相応しい上品なビール❷ ケルシュ Kölsch種類:エール

ケルシュ Kölsch

ケルシュは、伝統と品質を守る「ケルシュ協約」に調印しているケルン近郊の醸造所で造られたビール。薄い黄金色と純白のきめ細かい泡が特徴で、フルーティーな香りの上面発酵酵母を使用し、すっきりとした口当たりに仕上がる低温長期熟成で造られる。お店では、シュタンゲと呼ばれる200ミリリットルの細いグラスに注がれる。グラスが空になると新しいビールが提供される「椀子ビール」方式は、アルトビールと同じ。

世界最大のゴシック建築であり、街のシンボルでもあるケルン大聖堂の周囲には、ケルシュの醸造所直営店が数多くあるので、ケルシュのはしごビールにぴったり。「Früh Kölsch」もその一つで、ロゴに記された三つの王冠はケルン大聖堂の聖遺物、東方三博士を示す。大聖堂のすぐ横にある直営店は多くの人でにぎわっている。

おすすめの醸造所&ビール

Früh Kölsch

Früh Kölsch
Cölner Hofbräu P. Josef Früh KG(ケルナー・ホフブロイ・P. ヨーゼフ・フリュー)
創業年:1904年
住所:Robert-Bosch-Str. 15, 50769 Köln
www.frueh.de

フライジング

小麦を使った南ドイツ発祥のビール❸ ヴァイツェン/ヴァイスビア Weizen / Weißbier種類:エール

ヴァイツェン/ヴァイスビア Weizen / Weißbier

ミュンヘン空港から北へ車で15分、フライジングにあるヴァイエンシュテファン醸造所は、現存する世界最古の醸造所。聖コルビニアンが725年に建てた修道院が始まりで、1040年にはここで造ったビールを巡礼者にふるまったという記録も。「修道院でビール醸造」とは意外に思えるかもしれないが、当時の欧州は衛生状態が悪く、ビールは水を一度煮沸して造るため、安全な飲み物として重宝されていた。

醸造所が建つ小高い丘は、手入れされた草花がしげる美しい場所。敷地内にはミュンヘン工科大学の醸造学科も置かれ、最先端の教育や研究が行われている。「Hefeweißbier」は、小麦の麦芽を使用し、酵母をろ過せず瓶内に残したビール。白く濁ったオレンジ色で、苦味は弱く、熟したバナナのようなフルーティーな味わいが広がる。

おすすめの醸造所&ビール

Hefeweißbier

Hefeweißbier
Bayerische Staatsbrauerei Weihenstephan(バイエルン州立ヴァイエンシュテファン醸造所)
創業年:1040年
住所:Alte Akademie 2, 85354 Freising
www.weihenstephaner.de

ミュンヘン

ビール醸造の近代化に寄与したお祭りビール❹ オクトーバーフェストビア Oktoberfestbier種類:ラガー

オクトーバーフェストビア Oktoberfestbier

1810年から続く世界最大のビール祭り「オクトーバーフェスト」。広大な敷地内に巨大ビールテントが並び、初日と2日目にはビールたるを積み込んだ馬車と共にパレードが行われる。ここで提供されるメルツェンビールは、醸造シーズン最後の3月(März、メルツ)に仕込まれ、次の醸造シーズンを迎えるオクトーバーフェストで飲み切る習慣があったことから、オクトーバーフェストビアとも呼ばれる。

このメルツェンの品質向上とビール醸造の近代化に貢献した人物が、シュパーテン醸造所のガブリエル・ゼートルマイル2世。芳醇(ほうじゅん)な香りに仕上がるウィーン麦芽で造ったメルツェンは多くの醸造所の手本となったほか、当時開発されたばかりのアンモニア式冷凍機をビール造りに応用した。お祭りではマース(Maß)と呼ばれる1リットルジョッキで提供される。

おすすめの醸造所&ビール

Spaten Oktoberfestbier

Spaten Oktoberfestbier
Spaten-Franziskaner-Bräu GmbH(シュパーテン・フランチスカーナ醸造所)
創業年:1397年
住所:Marsstr. 46-48, 80335 München
https://spatenbraeu.de

ミュンヘン

「液体のパン」と呼ばれた高アルコールビール❺ ドッペルボック Doppelbock種類:ラガー

ドッペルボック Doppelbock

中世のころ、修道士たちはカトリック復活祭までの四旬節に断食の習慣があったが、液体の摂取なら許されていたことから、栄養が取れるように麦芽のエキス濃度を高め、アルコール度数も高いドッペルボックを飲むようになった。これが1780年に聖フランシスコ会(パウラナー)によって一般にも販売されると、たちまち大人気に。ラテン語で救世主を意味する「Salvator」と名付けられたこのビールに倣い、ほかの醸造所でも「~ ator」と名の付いたドッペルボックが造られた。

毎年3月中旬〜4月上旬には、パウラナー醸造所併設の巨大なホールで「Starkbierfest」を開催。民族音楽が鳴り響くホールで、アルコール度数が高いドッペルボックが提供される。カラメルのような香ばしさと複雑な甘みを味わい、酔いが回って愉快な気分に。

おすすめの醸造所&ビール

Salvator

Salvator
Paulaner Brauerei Gruppe GmbH & Co. KGaA(パウラナー醸造所)
創業年:1634年
住所:Ohlmüllerstr. 42, 81541 München
www.paulaner.comwww.hofbraeumuenchen.de

レーゲンスブルク

黄金色に輝く優しいビール❻ ヘレス Helles種類:ラガー

ヘレス Helles

レーゲンスブルクはローマ時代から続くドナウ河畔の古都で、美しい旧市街地は世界文化遺産にも登録されている。ドナウ川に架かる12世紀に建てられたドイツ最古の石橋を渡り切ったところにあるのが、聖カタリーナ施療院財団が運営するシュピタール醸造所。この施療院は司教とレーゲンスブルク市民によって、病人や老人など助けを必要とする人々のために創立され、ビール醸造は1226年から行われている。現在でも醸造所の奥に礼拝堂と老人ホームがあり、併設のビアガーデンでくつろぐことができる。醸造所がわが庭にある老後生活とはうらやましい限り……。

ここで造られている「Spital Helles」は、麦の香ばしさと甘さが心地よいビール。ホップの苦みは低く、すーっと体に染み込むような優しさがある。太陽の下、ゴクゴクと飲み干したくなる。

おすすめの醸造所&ビール

Spital Helles

Spital Helles
Spitalbrauerei Regensburg(シュピタール醸造所)
創業年:1226年
住所:Am Brückenfuß 1-3, 93059 Regensburg
www.spitalbrauerei.de

ヴェルテンブルク

「暗い」けれど重くないシャープなビール❼ デュンケル Dunkel種類:ラガー

デュンケル Dunkel

ヴェルテンブルク修道院付属醸造所は、南ドイツの自然に囲まれた秘境の地にある。春から秋にかけては、ケールハイムの街からドナウ川を上るクルーズ船が就航しており、40分ほどでこの修道院に到着できる。修道院の創立は600年頃。バロック様式の教会は18世紀の名匠アッサム兄弟によるもので、兄弟の名を冠したビールも。中庭のビアガーデンでは、南ドイツの伝統料理と新鮮なビールを楽しめる。

多くの人が注文する「Barock Dunkel」は、修道院に古くから伝わるレシピに基づいて造られる。デュンケルは「暗い」、「濃い」の意味。濃色から「重いビール」と思いきや、下面発酵、低温熟成で造られるためシャープで軽やか。ロースト麦芽由来のチョコレートのような香ばしい風味とホップの爽やかな苦味が調和し、すっきりと口当たりが良い。

おすすめの醸造所&ビール

Barock Dunkel

Barock Dunkel
Klosterbrauerei Weltenburg GmbH(クロスター・ヴェルテンブルク醸造所)
創業年:1050年
住所:Asamstr. 32, 93309 Kelheim
www.weltenburger.de

バンベルク

世界遺産の街が生んだ薫製ビール❽ ラオホ Rauch種類:ラガー

ラオホ Rauch

ラオホ(Rauch)がドイツ語で煙を意味する通り、薫製ビール(Rauchbier)は強烈な薫製香が漂う。このビールが造られているバンベルクの街は、中世の街並みが残る旧市街地の景観が美しく、世界文化遺産にも登録されている。バンベルクのあるフランケン地方は、良質なホップと大麦が収穫されるビールの銘醸地。

この街で1678年からビール造りをしているヘラー醸造所では、麦芽を焙煎する際、ブナを燃える炎の上に直接さらして乾燥させている。ブナの木はフランケン地方で伐採し、3年間寝かせたものを使用。これによりビールに独特の薫製香が付く。焦げたトーストや深いりのナッツのような香ばしさと苦味が口いっぱいに広がる。好き嫌いが分かれるが、飲み進めるうちにはまってしまう人も多い。スモークしたチーズやベーコンなどとも相性抜群。

おすすめの醸造所&ビール

Schlenkerla Rauchbier - Märzen

Schlenkerla Rauchbier - Märzen
Heller Bräu(ヘラー醸造所)
創業年:1678年
住所:Dominikanerstr. 6, 96049 Bamberg
www.schlenkerla.de

アインベック

マルティン・ルターのお気に入りビール❾ ボック Bock種類:ラガー

ボック Bock

ニーダーザクセン州南部の都市アインベックはハンザ同盟都市として栄えた街。古くから市民による自家醸造が盛んに行われ、アインベックのビールは高品質で知られていた。南はミュンヘンやインスブルック、北はロシアやスウェーデンにも輸出されていたという。寒い時期に好んで飲まれる高アルコールビール「ボック」は、「アインベック」がミュンヘンで訛ったものともいわれる。アインベックは、宗教改革をけん引したマルティン・ルターの大のお気に入りだったことでも有名。議会に呼び出されたルターは、異端者として処罰されかねない事態にあったが、アインベックを飲んで自分を奮い立たせたという。

「AinpöckischBier」は伝統的なレシピで造られたボックビール。ホップのグラッシーな苦さとアルコールの温かさが舌の上にどっしりと残る。

おすすめの醸造所&ビール

Ainpöckisch Bier

Ainpöckisch Bier
Einbecker Brauhaus AG(アインベッカー醸造所)
創業年:1378年
住所:Papenstr. 4-7, 37574 Einbeck
www.einbecker.de

ライプツィヒ

ゲーテの晩年を支えた黒ビール❿ シュヴァルツ Schwarz種類:ラガー

シュヴァルツ Schwarz

ライプツィヒは学問と芸術の街。街の中心にあるライプツィヒ大学では詩人ゲーテや哲学者ニーチェなどが学び、音楽ではバッハやシューマンらにゆかりが深い。ゲーテは晩年、ビールを好み、友人が書簡に「ゲーテはビールとゼンメル(丸いパン)で生きている。召使いにケストリッツァーの黒ビールか、茶褐色のビールを注文するだけなのだ」と書き残しているほど。このケストリッツァーは、ライプツィヒの南東5キロに位置するバート・ケストリッツ村にある醸造所で造られる。

艶やかな黒ビールで漆器を連想させ、ロースト麦芽由来のビターチョコレートのようなほろ苦さと上品な甘みがあり、口当たりはシャープ。ゲーテが学生時代に通い、代表作『ファウスト』のインスピレーションを得たライプツィヒの酒場、Auerbachs Kellerで歴史と共に味わって。

おすすめの醸造所&ビール

Köstritzer Schwarzbier

Köstritzer Schwarzbier
Köstlitzer Schwarzbierbrauerei GmbH(ケストリッツァー醸造所)
創業年:1543年
住所:Heinrich-Schütz-Str. 16, 07586 Bad Köstritz, Thuringen
www.koestritzer.de

ベルリン

「時間」が味に深みを与えるビール⓫ ベルリナーヴァイセ Berlinerweiße種類:エール

ベルリナーヴァイセ Berlinerweiße

ベルリナーヴァイセは、ビール酵母だけでなく乳酸菌や野生酵母によって発酵させるビールで、ベルリンで醸造されたものだけが名乗ることができる。複雑な香りとレモンのような酸味が特徴で19世紀には人気を博したが、人々の趣向の変化により、第二次世界大戦後に残ったのは2社のみに。そんな失われたベルリン独自のビール文化を取り戻すべく、2016年にベルリナーヴァイセ専門の醸造所として誕生したのがシュネーオイレ醸造所。

雪のように白いシロフクロウ(Schneeeule)のイラストと、「e」が三つ連なる醸造名が目印だ。創業者のウルリケ・ゲンツ氏は、「本物の味」を忠実に再現するため、60年ものにもなるボトルから酵母を取り出して培養した。この古い特別な酵母株によって、ビールをグラスに注ぐその瞬間まで瓶の中で発酵と熟成が続く。

おすすめの醸造所&ビール

Schneeeule Kennedy

Schneeeule Kennedy
Schneeeule Brauerei GmbH(シュネーオイレ醸造所)
創業年:2016年
住所:Edinburger Str. 59, 13349 Berlin
https://schneeeule.myshopify.com

ブレーメン

ドイツを代表する圧倒的な人気ビール⓬ ピルスナー Pilsner種類:ラガー

ピルスナー Pilsner

ハンザ同盟都市としてハンブルクに次ぐ港街として栄えたブレーメンには、その繁栄を物語る美しい建物が数多く残る。グリム童話ゆかりの地を結ぶメルヘン街道の終着地でもあり、市庁舎脇には「ブレーメンの音楽隊」の像が立つ。街のもう一つの名物、ベックスの前身となる醸造所Kaiserbrauerei Beck&May o.H.G.は、1873年に創業。すぐにブレーメンを代表する醸造所へと成長したが、経営者も社名も次々と変わり、2016年に業界2位の英国SABミラーを買収してビール飲料の世界シェア3割を占めるまでに。

世界90カ国以上で飲まれるドイツを代表する銘柄へと飛躍した。BECK'S Pilsは、ドイツでも圧倒的な人気を誇るピルスナー。ホップの爽快な苦みと炭酸がしっかりと感じられ、カラカラに乾いた喉にゴクゴクと流し込みたくなる。

おすすめの醸造所&ビール

BECK'S Pils

BECK'S Pils
Brauerei Beck & Co(ベックス醸造所)
創業年:1873年
住所:Beck’s und Haake- Beck Besucherzentrum Am Deich 18/19, 28199 Bremen
https://becks.de

「旅ール」を楽しむための豆知識

ビールの種類は大きく分けて3つ

❶下面発酵ビール(ラガー)

5度程度の低温で発酵させるビール。最終段階で酵母がタンクの底に沈むことから、この名称になった。すっきりと爽やかでシャープな飲み心地が特徴。

❷上面発酵ビール(エール)

15〜25度の高温で発酵させるビール。発酵中に酵母が浮上し、上面に酵母の層ができることからこう呼ばれる。フルーティーで華やかな香り。

❸自然発酵ビール

培養した酵母を使用せず、空気中に存在する野生酵母の力を利用して発酵させるビール。主にベルギーで製造されている。

「ビール純粋令」って?

ビール純粋令(Reinheitsgebot)は、1516年4月23日にバイエルン公国ヴィルヘルム4世が制定した法律。南ドイツのインゴルシュタットで公布され、ビールの品質を保証するために原料を「麦芽、ホップ、水」(1551年には原料に「酵母」が追加)に限定した。

もともとビール純粋令の狙いは、パンを焼くための小麦が不足しがちであったためビールに使わせないこと、小麦ビールの醸造権を独占することにあった。また当時、北ドイツのアインベック(p10)が評判で、一方のバイエルンでは不純物が入ったビールが横行。純粋令によってそれらを一掃し、バイエルンのビールの品質が格段に向上したのだ。1919年、バイエルン公国はワイマール共和国に組み込まれる条件の一つに、ドイツ全体でビール純粋令を採択することを挙げた。これにより、純粋令はドイツ全土で順守されるようになった。

現在もビール純粋令は、ドイツ国内の醸造者や消費者から支持されている。四つの原料しか使用しないが、組み合わせや醸造の方法を変えることで、多種多様なビールが生み出される。近年では、品種改良によってメロンやかんきつ類などフルーティーな香りのホップも誕生。ビール純粋令の伝統にのっとりつつ、醸造家たちの豊かなアイデアと絶え間ぬ努力によって、質の高いドイツビールのブランドが維持されているのだ。

ビール純粋例を制定したバイエルン公国ヴィルヘルム4世。ビール純粋令は、ドイツがビール大国となる大きな契機となったビール純粋例を制定したバイエルン公国ヴィルヘルム4世。ビール純粋令は、ドイツがビール大国となる大きな契機となった

参考:本誌1024号「ビール小話:500周年のビール純粋令」

ビールと料理のペアリング

皆さんが好きなビールのおつまみは?「 ドイツビールにはソーセージ」のイメージが強いかもしれないが、世界中には140種類以上のビアスタイルがあり、味わいもさまざま。どんな食べ物にどんなビールが合うか、ペアリングに挑戦してみよう。

❶ ビールの誕生した国・地域と、料理を合わせる

ビールにはそれぞれ発祥の地があり、その土地の水や風土がビールのキャラクターを作っている。それは料理も同じ。ドイツのピルスナーやヴァイツェンには、ドイツ生まれのソーセージやザワークラウト、プレッツェルがよく合う。旅先のレストランで、ぜひその土地の伝統料理と地ビールを一緒にいただこう。

❷ ビールの色と料理の色を合わせる

ビールの色は、麦芽をローストした時の色によって決まる。色の濃いビールはそれだけロースト香が強いので、焦げ目のついた食べ物や、色の濃い食べ物と合わせてみよう。デュンケルにはシュヴァイネブラーテン(ドイツ風ローストポーク)、アルトにはタレの焼き鳥など、濃い色のビール特有の麦芽の甘味が甘辛いソースと相性ぴったり。ピルスナーならジャガイモ、ヴァイツェンには白ソーセージやシュパーゲルとご一緒に。

❸ 味の相関関係で合わせる

上級編としては、「味の相関関係」を考えてのペアリング。例えば、苦いものに甘いもの(エスプレッソに砂糖)、甘いものに塩気(スイカに塩)といった具合に、味同士の関係性をビールと料理に当てはめてみる。以下の表を参考に、ぜひお気に入りの組み合わせを見つけてみて。

ペアリングの例

  • 酸味×塩味(塩レモンの法則):ゴーゼ×塩焼き鳥
  • 甘味×苦味(コーヒーに砂糖の法則):ドッペルボック× チョコレートケーキ
  • 甘味×酸味(蜂蜜レモンの法則):シュヴァルツ×トマト煮込み
  • 苦味×旨味(味の増幅):ピルスナー×おでん、デュンケル× ハードチーズ
  • 甘味×辛味(和らげ効果):デュンケル×麻婆豆腐
  • スパイシー× スパイシー(香辛料を補う):ヴァイツェン×鶏のハーブ焼き

参考:本誌1018号「ビール小話:ビールと料理のペアリング」

コウゴさんに聞く「旅ール」の楽しみ方ビールに旅をさせない自分から会いに行くのが旅ール

これまでドイツ各地の醸造所を切り口に、ビールのおいしさをはじめ、その土地の歴史や文化など、さまざまな魅力を紹介してくださったコウゴさん。旅とビールを組み合わせた「旅ール」はどのように生まれたのか?そのルーツと共に、旅ールの楽しみ方についてご寄稿いただいた。(文、写真:コウゴアヤコ)

南ドイツでは冬が終わると同時に、公園や広場に椅子とテーブルが並べられビアガーデンがオープンする南ドイツでは冬が終わると同時に、公園や広場に椅子とテーブルが並べられビアガーデンがオープンする

「旅ール」はこうして生まれた

ドイツ人に「どのビールが一番おいしいか」を聞くと、必ず返ってくる言葉があります。「そりゃ、自分の街のビールが一番さ!」。ドイツには街ごとに醸造所があり、みんな自分の街のビールを誇りに思っている。それって、すてきなことだと思いませんか?

何といってもビールは出来立てが一番ですから、ビールに旅をさせず、自分から会いに出かけましょう。醸造所直営の酒場で「グビグビ、プハーっ」とおいしそうに飲み干せば、地元の人が満面の笑みで声をかけてきてくれます。

私が旅とビールを結び付けるようになったのは、バックパッカーとして訪れたベルギーの首都ブリュッセルでのことでした。世界遺産にも認定されているきらびやかな広場グランプラスで、ブリュッセル固有の野生酵母を使った甘酸っぱいビールを口に含んだ瞬間、五感がビビビッと刺激され、自分も歴史に溶け込んだような気分になったのです。

グランプラスを囲むネオゴシック様式の豪華な建築物は、ビール博物館や観光案内所、カフェとして使われているグランプラスを囲むネオゴシック様式の豪華な建築物は、ビール博物館や観光案内所、カフェとして使われている

ビールを通して歴史や文化に触れる

欧州は醸造所の歴史が古く、どこもストーリー性がありますよね。例えば、現存するドイツ最古の醸造所はミュンヘン郊外にあるヴァイエンシュテファン醸造所といわれていて、1040年にはすでにその存在が確認されています。日本だと平安時代です!

天災や戦争などで幾度も閉鎖の危機にさらされながらも、努力の末に現在に受け継がれてきた一杯のビール。昔の人からのバトンをもらっているかのようです。何百年も前の旅人も、私たちと同じようにビールを楽しんだのでしょう。

また、デュッセルドルフにある酒場「Zum Schiffchen」には、ナポレオンが座ったという席があります。当時の店主はどんな気持ちでナポレオンを迎えたのかしら。旅ールは距離(横軸)だけでなく、時間(縦軸)も探求できるという究極のツールなのです。そうやってビールを探求することで、私は街の文化や人々に敬意を払うようになりました。

「Zum Schiffchen」にて、1811年にナポレオンが座った場所「Zum Schiffchen」にて、1811年にナポレオンが座った場所

自分の世界を広げてくれる「旅ール」

さらに、仕事関係ではない友だちができるのも旅ールの「効能」の一つです。各地で開催されるビールイベントやビール醸造所を巡るようになると、そのたびに顔見知りが増えたり、醸造家の人たちと仲良くなったりと、どんどん縁がつながっていきます。

州立ホフブロイ醸造所直営レストランにて。民族音楽が演奏されてお祭り気分!州立ホフブロイ醸造所直営レストランにて。民族音楽が演奏されてお祭り気分!

お気に入りの醸造所を見つけてしまえばもう「沼」です(笑)。季節ごとの限定ビールの発売やビールイベントの開催を、指折り数えて待つようになります。

ビールに会いにいく「旅ール」は、あなたの世界をさらに広げてくれるかもしれません。次の休日はドイツニュースダイジェストを持って、ぜひビールに会いに旅に出ませんか?

コウゴさんが選ぶドイツでの思い出「旅ール」

レーゲンスブルク古き良き田舎町の小規模醸造所

ドイツのビール文化の根幹を支えているのは、田舎に古くからある家族経営の小規模醸造所だと私は考えます。それを実感したのは、レーゲンスブルク郊外のラーバー村にあるミヒャエル・プランク醸造所(Privatbrauerei Michael Plank)でのこと。1617年の創業以来、代々長男がミヒャエル・プランクの名前と共に醸造所を世襲し、現当主で16代目です!直営のガストホフとビアガーデンには村の人たちが自然に集まっておしゃべりをしていて、まるで公共のリビングルームのよう。

親日の人が多く、すぐに笑顔を向けてくれました。ローカルな醸造所ながら、世界的なビアコンペで何度も受賞しており、ドイツビールの基盤の強さを感じました。

ガストホフの壁一面に飾られたビアコンペの賞状は今も増え続けている。田舎では、穏やかな時間と人の温かさが最高のおもてなしガストホフの壁一面に飾られたビアコンペの賞状は今も増え続けている。田舎では、穏やかな時間と人の温かさが最高のおもてなし

ベルリンクラフトビールの飲み歩き

世界的に流行しているクラフトビール。ドイツでもベルリンやハンブルク、ミュンヘンを中心に次々と醸造所がオープンしています。なかでもベルリンにあるレムケ醸造所(Brauhaus Lemke)はそのリーダー的存在。

ハッケシェ・ヘーフェに近いSバーン高架下にある醸造所併設のレストランでいただく樽熟成ビールの豊潤なこと!食事とのペアリングを楽しむなら、クロイツベルク地区でガストロノミーを併設するベルロ醸造所(BRLOBrwhouse)へ。ベルリンには伝統的なベルリナーヴァイセを復刻させたシュネーオイレ醸造所(Schneeeule Brauerei)や、同社が手掛けるクラフトブランド「アナログビア」(Analog.Bier)など、飲みたいものがありすぎて困っちゃう。はしご酒がテッパンです!

クラフトビールとは米国の西海岸に端を発する。ドイツでは2010年以降の潮流クラフトビールとは米国の西海岸に端を発する。ドイツでは2010年以降の潮流

 
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