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夏の日の孔雀島再訪

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天気が良いときにこそ狙って行きたい場所がある。西の郊外ハーフェル川に浮かぶ孔雀島は、私にとってそんな場所の1つだ。前回訪れてからいつの間にか11年が経っていることに気づき、まだ行ったことのない家族を連れてあの島を再訪してみたいと思った。

7月の土曜日、U2のテオドア・ホイス広場駅から218番バスに乗る。この路線がユニークなのは、一昔前に活躍したオールドタイプのバスを定期的に走らせていること。クリーム色のダブルデッカーのバスが到着すると、2階に上がって席を見つける。長大なヘーア通りを西に進み、南に折れてグリューネヴァルトの森に入ると、車窓は緑一色になる。ヴァンゼー駅を過ぎると再び森の中に入り、そこを抜けると終点。目の前に孔雀島への渡し船が停まっていた。

渡し船でファミリーチケット(8ユーロ)を買うと、島の小さな地図をもらえる。孔雀島は「ポツダムとベルリンの宮殿群と公園群」の総称で世界遺産に登録されている。船から降り、美しいバラ庭園を越えるとまず見えてくるのが、1794年にプロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世によって建てられた城だ。彼は愛人だったヴィルヘルミーネ・エンケのために廃墟風の城を造らせたそうだが、この島にいるとこんな浮世離れしたエピソードがしっくりきてしまう。

孔雀島に放し飼いされている雄のクジャク
孔雀島に放し飼いされている雄のクジャク

国王がここに城を建てる20年ほど前、ジェームズ・クックの航海により南太平洋の島々がヨーロッパに初めて紹介されている。その影響により、エキゾチックな植物や木がここに植えられた。ここにクジャクが住むようになったのも、その頃に端を発するそうだ。

島の西端の城から、同時期に建てられた北東端のマイエライ(酪農場)まで1.4キロほどなので、子連れでもさほど無理なく歩ける。1816年から1834年に宮廷庭師のレンネによって島全体が英国風の庭園に造り替えられ、それが今日の孔雀島の原型になっている。

孔雀島に新設された「コーヒーの庭」
孔雀島に新設された「コーヒーの庭」

11年前は、飲食物は持ち込まなければならなかったが、地図にカフェのマークがあるのに気づいた。しかもKaffeegarten(コーヒーの庭)とある。行ってみると、大きな芝生の向こうに山小屋風の軽食店があり、人々が自由にくつろいでいた。こういうスペースが作られたのはうれしい。冷たいアイスコーヒーのおいしかったこと。

一息ついたところで、島の中ほどにあるVoliereと呼ばれる大きな鳥小屋を見に行く。孔雀島を夏の別荘として利用していたフリードリヒ・ヴィルヘルム3世により自然動物園が造られたが、この鳥小屋は当時の名残を伝える唯一のもの。ここに飼われていたサル、カンガルー、ライオン、クマといった多くの動物は、1842年に創設されたベルリン動物園に移されることになる。

「肝心のクジャクをなかなか見ないな」と思っていたら、鳥小屋を出た道の向こうから2羽の雌のクジャクがぽつぽつと歩いてきた。さらにその先に行くと、ブルーとエメラルドグリーンの毛並みが美しい雄のクジャクが、見物客の好奇の目にさらされながらも凛とした姿を見せてくれる。孔雀島訪問の締めくくりにふさわしい、息をのむ時間だった。

インフォメーション

孔雀島
Pfaueninsel

ハーフェル川に浮かぶ67ヘクタールの島。19世紀からベルリン市民の行楽地として親しまれている。島への渡し船は4ユーロ(割引3ユーロ)。廃墟風の城は2024年まで続く改装工事のため、現在内部の見学はできない。また、島全体が自然保護区域に指定されており、自転車とイヌの持ち込みは禁止されている。

オープン:月曜〜日曜9:00〜19:00(9月)
※時期によって異なるためHPで要確認
住所:Nikolskoer Weg, 14109 Berlin
URL:www.spsg.de

218 番バス
Bus 218

S バーンのMesse Nord/ICCから孔雀島まで直行するバス路線。平日は1時間ごと、週末は30分ごとに出ており、さらに2時間に1本、ベルリンのオールドバスの愛好会が所有する1970〜80年代の2階建バスが走っている。いずれもBVG(ベルリン交通局)のAB チケットで乗車可能。所要時間は約50分。

URL:www.bvg.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
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