伝統と進化、 舞台美術家を目指す学生たち

ゼンパーオペラに州立劇場、オペレッタ劇場、ブールバール劇場と多くの劇場を抱えるドレスデンでは、演劇が街の重要な文化産業にもなっています。そのような背景から、大学には舞台美術家を養成するための専門課程があり、毎年優秀な舞台美術家の卵を輩出しています。

18世紀半ばから続いている長い歴史を持つドレスデン造形美術大学には、全部で8つの課程が設置されていますが、そのうちの4つは舞台美術科に関する高等教育課程です。1960年代に開設され、現在まで欧州の大学の中では唯一のものです。大学のカリキュラムに則りながら、実践的かつ専門性の高い知識や技術を学べるとだけあって、毎年多くの希望者が入学願書を提出します。

専門課程は、マスク扮装、舞台衣装、舞台美術、舞台造形の4専攻で、それぞれ8学期制で成り立ちます。入学は毎年10月ですが、その年の1月には願書の提出が終わり、その後希望専攻の分野別実技試験が行われます。それに合格すれば晴れて入学が許可されますが、更に5カ月に及ぶ基礎実習への参加が課せられます。学生たちは、大学の勉強が始まる前から知識技術会得に向けた専門性を磨くのです。卒業までの間、彼らは大学で解剖学から人体デッサン、素材学、洋裁、芸術史に芸術哲学まで幅広く理論を学び、並行して数々の実践の場を経験します。例えば、1年に1回音楽大学の学生と協同して発表する場が設けられ、演出も舞台も音楽もすべて学生たちの手によって創りあげ られます。また、ドレスデンの劇場とも提携し、学生たちはアシスタントとして実際の舞台づくりを手伝うこともあるのだそうです。こうして、大学や現場で磨かれた知識と技術は、最終的に卒業制作へと実を結び ます。この際に学生は、一人で計画から制作、演出までこなし、学んできた集大成として作品を披露するのです。

宮殿広間に展示される学生の作品は、どれも完成度が高い
宮殿広間に展示される学生の作品は、どれも完成度が高い

4月、市内グローサー ガルテンの庭園宮殿で 行われていた舞台衣装専 攻の学生の作品展を見に行ってきました。バロック彫刻が並ぶ広間に、絵画に 描かれている歴史上の人物 の衣装が、寸法や素材などについて丁寧に分析され、 再現されていました。広間では、コルセットや襟(ひだ)の習作も展示され、まるでその時代にタイムスリップしたかのような雰囲気です。

在校生が制作したマスクと衣装。オープンキャンパスにて
在校生が制作したマスクと衣装。オープンキャンパスにて

何百年にもわたり受け継がれてきた舞台の伝統と斬 新なアイデアのはざまから生み出される学生たちの作品は、舞台芸術の進化の形を映し出していました。

勝又 友子
東京都出身。ドイツ、西洋美術への関心と現在も続く職人の放浪修行(Walz ヴァルツ)に衝撃を受け、2009年に渡独。ドレスデン工科大学美術史科在籍。