バイエルンの森で、放送技術の歴史を辿る

1 Juni 2018 Nr.1075 文・写真 Y. Utsumi

バイエルン州の東、チェコとの国境に面して広がる森林地帯は「バイエルンの森」と呼ばれる国立公園です。ミュンヘンから車で2〜3時間のため、週末を利用した休暇客も多く訪れます。ウェルネス・ホテルが数多くあり、森林浴を兼ねたウォーキングやゴルフ、カヌーなどのスポーツを楽しみながら日頃の疲れを癒すのにも最適です。また、古くからガラス工芸が盛んで、それらが購入できる施設も充実しています。いろいろな楽しみ方ができるバイエルンの森ですが、今回はカム(Cham)にある「放送博物館(Rundfunkmuseum)」を訪れた時の様子をレポートします。

当時の雰囲気をそのまま伝える蓄音機や、レコードプレイヤーが美しい
当時の雰囲気をそのまま伝える蓄音機や、レコードプレイヤーが美しい

カムはレーゲンスブルグから東へ約70km、森の中に位置する静かな町です。アマチュア無線を楽しむ知人に連れられて訪れた博物館はこじんまりとした建物で、運営者の方たちからの温かい歓迎を受けてガイドツアーは始まりました。展示されている機器は、ラジオやテレビ、放送用機材やアマチュア無線機、録音や再生用機器などです。1920年代から70年代のものが中心で、時代ごとに部屋が分かれています。これらの中でもノスタリジックな雰囲気を醸し出す20年代や30年代の蓄音機やジュークボックスなど、古い機械、そしてインテリアとしてのデザインの美しさには目を見張りました。木材などを使用した機械は現在でもつややかな光沢を放ち、どっしりとした雰囲気を醸し出しています。オリジナルの状態を保った古いラジオやジュークボックスから流れる音の深みと温もりに驚かされます。今では録音再生装置は小型化し誰でも所有することが可能ですが、ほんの一昔前には限られた人たちが限られた場所で楽しむことができる特別なものだったことが感じられます。人の声の録音には高度な技術が必要だったこと、また、録音技術の向上に伴い王族や政治家も肉声を録音することに興味を示していった、といったことを知ることもできました。そしてここでは、放送技術の発展には楽しい面だけではなく戦争の影があることも知ることができます。第二次世界大戦時にナチスがプロパガンダを行き渡らせるために安価なラジオ受信機やスピーカーを大量生産したこと、また、戦争で軍が使用した発信機なども見ることができるからです。そして、ドイツは敗戦国として中波の使用を禁じられてしまったという歴史も語られます。60年代から70年代の機器が展示されている部屋では、日本人にとっては昔使っていたのに似たラジオカセットや初期のウォークマン、ドイツ人にとってはさらに祖父母世代の家で見かけたラジオなどもあり、懐かしさにツアー参加者の話もはずみます。

真空管のコレクション
真空管のコレクション

20世紀初期のドイツの重厚な雰囲気に浸ることができるガイドツアーはドイツ語で10名以上のグループ向けが基本ですが、個人向けツアーが開催日もあるようです(ツアーは有料・要予約)。

放送博物館:www.chamer-rundfunkmuseum.de

Yoshie Utsumi
日独の自動車部品会社での営業・マーケティング部門勤務を経て、現在はフリーランスで 通訳・市場調査を行う。サイエンスマーケティング修士。夫と猫3匹と暮らし、ヨガを楽しむ。 2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。