聖人レオンハルトの日の「参拝行列」

7 Dezember 2018 Nr.1087 文・写真 Y. Utsumi

ドイツには古い伝統に基づく「名前の日」というものがあり、365日毎日にキリスト教の聖人の名前がついています。これは聖人を偲ぶためのもので、十字軍時代に整備確立されました。16世紀にはすべての子どもは洗礼日の名前をつけることになっていたため、当時、名前の日が持つ意味は誕生日以上に大きかったそう。近年は誕生日がより重要視されるようになり、現代ドイツでは名前の日を祝う習慣は廃れ気味のようです。

さて、11月6日は「レオンハルト(Leonhard)」の日でした。彼は農業に関連する動物たち、特に馬の守護聖人なので、この日は、カトリックの強いバイエルンでは各地で民族衣装に身を包んだ華やかかつノスタルジックな一行が、レオンハルト教会を詣でる参拝行列(Leonhardifahrt、またはLeonhardiritt)が開催されます。もっとも有名なのは今年163回目を迎えたバード・トルツ(Bad Tölz)のもので、これはバイエルンの無形文化遺産にも登録されています。収穫期を終えた馬たちの働きに敬意を評するための行事ですが、15世紀に記録を遡ることができるこの催しは、当初は教会関係者から「そもそも参拝に馬を使っているのにいかがなものか」などと、冷たく扱われたりもしていたようです。なお現代では、6日が平日にあたる場合には前後の週末にあてられることが多く、今年は11月4日(日)の開催が多かったようです。規模が大きく、多くの見学者で賑わうのはシュリーア湖のフィッシュハウゼン(Schliersee-Fischhausen)、ベネディクトボイレン(Benediktbeuren)、Pählerなどが挙げられます。また、バード・ファイルンバッハのリッパーツキルヒェン(Lippertskirchen bei Bad Feilnbach)は、オーバーバイエルンのアルプスフォールラント地方最古のものとして知られています。ほかの町や村でも大小さまざまな規模のものがあり、この聖人がバイエルン地方で長く敬愛されてきたことが感じられます。

美しく飾られた馬車が、シュリーア湖の秋の道を行く
美しく飾られた馬車が、シュリーア湖の秋の道を行く

シュリーア湖の行列は霧が立ち込める中、朝9時にスタートし馬車や騎馬の人々がレオンハルト教会まで歩を進めました。このために、参拝者は朝3時頃には起きて馬の準備をしたのだとか。民族衣装や馬車、馬の意匠がカラフルで美しく、黄葉がすすみ秋らしくなってきたバイエルンの少しくすんだ色合いの景色に華を添えます。教会に到着後は参拝者と馬、そして観客のために屋外ミサが行われました。パレードの後だからでしょうか、開放感のあるミサで自然をより近く感じ、祈りに直接触れられたように思われました。

この日はレオンハルト教会も、ドレスアップ
この日はレオンハルト教会も、ドレスアップ

なお、この日はシュリーア湖畔の野外博物館(Freilichtmuseum)は冬季休業前の最後の開館日で、入場無料でした。この地方の伝統的な家屋や工芸品、文化を知るためのさまざまな催しを、昔の農家や家畜小屋、醸造所、家具工房、鍛冶場、養蜂小屋など、当時の村を再現した広い敷地で楽しむことができました。

Yoshie Utsumi
日独の自動車部品会社での営業・マーケティング部門勤務を経て、現在はフリーランスで 通訳・市場調査を行う。サイエンスマーケティング修士。夫と猫3匹と暮らし、ヨガを楽しむ。 2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。