Incendiary
ブローン・アパート(2008 / 英)
ロンドンのイースト・エンドで暮らす若い母親は、夫と息子がサッカー観戦に出掛けている間に、恋人と情事を楽しんでいた。ところがそのスタジアムで爆破テロが起こり……。
Photo: Yuichi Ohara
監督 | Sharon Maguire |
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出演 | Michelle Williams, Ewan McGregor, Matthew Macfadyenほか |
ロケ地 | Brunswick Estate |
アクセス | 地下鉄Angel駅から徒歩 |
- 今週は「ブリジット・ジョーンズの日記」のシャロン・マグワイア監督が、英国人作家クリス・クリーヴの小説「息子を奪ったあなたへ」を下敷きにして作り上げたドラマです。とその前に、お帰りなさい、デカ長。長々と休んでどこ行ってたんですか。
- 恋の逃避行じゃい。
- またまた。どうせ奥さんとケンカでもして、いじけて毎日パチンコでもしてたんじゃないんですか。
- パチンコって、ここは日本か! ふん、なんとでも言うがいい。まったくもって男は寂しい生き物よ。この映画を観てまた実感してしまったわい。
- あー、言いたいことは分かります。この映画、爆破テロ事件が題材になってますが、メイン・テーマは女性の生き様ですよね。
- ミッシェル・ウィリアムズ演じる主人公の「若い母親」——一般女性の代表的存在として、あえて名前が付けられていないんですが——は、警察の爆弾処理班で働く夫と4歳の息子とともに、シティに程近いイースト・エンドのカウンシル・フラットに居を構えているのですが、夫は仕事のストレスで常にピリピリ、生活もすれ違い気味。最愛の息子を生き甲斐にしている良き母親でありながら、女の部分が満たされていないという状況なんですよね。
- そんなわけである夜、一人で近所のパブに出掛けていき、ナンパしてきた男と情事に至っちゃうんだな。
- それがユアン・マクレガー扮する大衆紙の記者。お互いご近所さんといえども彼女がイースト・エンダーであるのに対し、彼はシティ側の人間。小金持ちでやや軽卒な、いかにもロンドナーという感じの男です。
- 彼らの居住地界隈はイズリントンの「Brunswick Estate」で撮影されてますね。
- さらに数日後、アーセナルの大ファンである夫と息子が、試合を観にスタジアムへ出掛けている間、またまたユアンと情事に耽る彼女。ところがお楽しみの最中にテレビから流れてきたのは、夫と息子が観戦に出掛けたスタジアムが大規模なテロに見舞われている衝撃映像でした。ちなみにこちら、レイトン・オリエントFCのホームである「The Matchroom Stadium 」です。
- で、ここからサスペンスが展開するのかと思いきや、さしてそういうわけでもなく、彼女の心の旅が始まるんだな。所々でオサマ・ビン・ラディン宛てに言葉を綴る描写もあり、テロで家族を失った人間の心情も伝わってくるにはくるんだが……。彼女の心を占めているのは息子オンリー。夫のことは一切思い出さんのだ。冷たいのぅ。
- 旦那さん、仕事で疲れてはいましたが、子供には優しかったし、全く思い出さないというのはちょっと極端ですよね。しかもこの映画、いろんな要素を盛り込み過ぎじゃないですか。一人の女性の、母として、また女としての姿、罪悪感、彷徨、そして再生までを描くに当たり、テロを題材にする必要があるのかどうか、少々疑問です。
- フラットの場所が第二次大戦における爆撃の跡地だったりとか、戦争の歴史を匂わせる要素もちりばめてはいるが、中途半端な感じは否めないよな。終盤で明かされるテロに関する「真実」も、社会全体にとって重要な真実なのに、彼女個人の心情を左右する要素としてしか描かれていないし。
- 監督は「どんな女性でも彼女に共感できると思う」と言ってますが、実際どうなんでしょう。女性の意見が聞きたいですね。
ミッシェル・ウィリアムズは米国人だが、以前に英国人を演じた経験もあり、発音の良さには定評があるんだよな。今回も早々に現地入りして地元民の会話を聞く機会を設け、下町英語を習得したらしい。しかし「ブローン・アパート」っていう邦題はどうなんだ。カタカナだとアパート=住居の印象が強いけど、それも狙った上なのか……? うーん、いろんな意味で腑に落ちない映画だ。
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