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本に紙カバーは必要なし

ロンドンで暮らし始めた当初は生活費を切り詰めた学生生活をしていたので、本屋に行くことはあってもなかなか本を買う余裕はありませんでした。でも、あるとき、チャリング・クロス・ロードにある大型書店フォイルズで、初めて本を買いました。そしてレジで代金を支払ったときのこと。何だかものたらない気がしたのです。というのも、日本の書店でなら当たり前のように聞かれる「カバーをお掛けしますか」という言葉がなかったからでした。
当時はまだ今ほどエコバッグが浸透していなかったので、確か紙袋に本を入れてもらった記憶があるのですが、日本では当たり前に付けてもらっていたブックカバーがないのに、ちょっと拍子抜けした感じがしました。もしかしたらこのお店にはないだけかも、と思いましたが、その後、ほかの書店で何度本を買ってもカバーを付けてくれる店はなく、ようやく英国には本にカバーを付ける習慣はないのだと理解しました。
ちなみに日本の書店が独自の包装紙で本を包む習慣は、大正時代に広まったといわれています。もともとは古書店の包装紙が発展したもので、書店の名前やロゴを印刷した広告としての役割があったそうです。2023年の日経新聞の記事では、日本では文庫本購入者の7割がブックカバーを求めるというデータが紹介されていました。日本でカバーを付ける人が多いのは、本を汚れから守るという実用的な理由や、電車やバスの中で自分の読んでいる本のタイトルを他人に知られないようにするため、という説があります。
一方、英国では、地下鉄や電車の中で本を読んでいる人たちは、皆、タイトルは見せたまま堂々と本を読んでいます。何を読んでいるかを見られても「それが自分らしさ」と思う人もいれば、他人の読んでいるものには関心がない、という人もいます。あるいは「自分はこんな本を読んでいるんだ(すごいだろ)」という自己顕示の気持ちがある人もいるのでは、というのが、周囲の英国人たちへのリサーチ結果ですが、理由はともあれ英国では読んでいる本のタイトルを隠したい、という意識は少なさそうです。
とはいえ、一つ面白いエピソードがあります。それは「ハリー・ポッター」シリーズが発売されたときのこと。1997年に児童書として出版された同書が大ヒットしたとき、予想外に大人の読者が急増しました。それを受けて出版社は「Adult Editions」として、中身は全く同じでカバーがモノクロ写真の落ち着いたデザインのものを出版。これは「大人なのに児童書を読んでいると思われたくない」という成人読者の心理を汲んだものでした。
日本では隠すために紙のカバーをかけますが、英国ではタイトルは隠さず、本そのものの顔(イメージ)を変えてしまったというのが面白いですね。



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