太陽が足りない季節に 心と体を整えるセルフケア

真冬の底は抜け、朝が少しずつ早く明るくなってきた英国。それでも空は灰色の日が多く、太陽の気配にいつも以上に敏感になる季節といえる。疲れが取れない、気分が晴れない——そんな不調を感じる人は少なくない。その背景にあるのが、日照時間の短さだ。光不足は体内時計や気分のバランスに影響するとされ、英国では「季節性うつ」(Seasonal Affective Disorder=SAD)という言葉も広く知られている。光を上手に取り入れ、生活を整え、ときには外へ出て早春の花に春の兆しを探してみよう。本特集では、太陽が足りない季節を健やかに乗り切るためのセルフケアを紹介する。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)
参考: www.rcpsych.ac.uk、www.worlddata.info、www.nhs.uk、https://natgeo.nikkeibp.co.jp、 www.heart-center.or.jpほか
目次
英国の冬はなぜ暗い?
英国は欧州北部に位置し、赤道から5600キロ以上離れた北半球の高緯度にある。夏には太陽が沈みにくく、1日のうち16時間以上も明るい。だが、冬至のころは日の出から日の入りまで7時間余りしかなく、英南東部のロンドンでは2月19日現在、日の出が7時10分、日没が17時21分である。北部やスコットランドではさらに日の出は遅く、日の入りは早いため、自然光を浴びられる時間そのものが少なくなる。
しかし、昼の長さは地理的条件に過ぎず、実際に太陽が見えるかどうかとは別問題だ。北大西洋から吹く湿った空気と偏西風の影響で、英国の冬は低気圧や前線が頻繁に通過し、曇りや雨の日が多い。さらに、高気圧でも下降気流による雲が残りやすく、晴れ間が出にくい日が続くこともある。
つまり、昼の短さという地理的条件と曇天の多さという気候的条件が重なり、英国の冬は太陽がほとんど出ない日が多い。SAD(季節性うつ)など、光不足による心身への影響が出やすい背景には、この地理と気候のWパンチがある。日本の冬と比べても日照時間は圧倒的に少なく、意識的に外に出て光を浴びる習慣が重要となる。

冬の日光不足と向き合う
英国の冬は、昼が短く曇りや雨の日も多いため、日光不足に悩む人が少なくない。体内時計や気分に影響を与えるSADの実態とその対策について紹介する。
SADとは? 冬になるとブルーな気分
季節の移り変わりが気分に影響を及ぼすことは、昔から経験的に知られてきた。けれど、「季節性うつ」や「季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder = SAD)」という言葉が医学的に使われるようになったのは、1980年代に入ってからだ。南アフリカから米ニューヨークに移住した精神科医ノーマン・ローゼンタール氏が、1984年に論文の中でこの名称を提唱した。
寒くて日照時間の短い冬になると気分が落ち込みやすいそんな自身の体験をきっかけに、当たり前のこととして見過ごされがちだった症状に光を当てたのだ。SADとは、秋から冬に抑うつ状態が現れ、春から夏にかけて自然に軽快するという季節特有のリズムを繰り返す障がいを指す。「反復性冬季うつ病」と呼ばれることもある。はっきりした心理的原因が見当たらず、少なくとも2年以上同じ季節パターンが続くことが、判断の目安とされている。
症状 過眠と過食
SADに見られる症状は、気分の落ち込みや意欲の低下、物事を楽しめない、イライラする、人に会いたくなくなるといった、一般的なうつ症状とよく似ている。朝の方がつらく感じられるのも特徴のひとつだ。
ただし、典型的なうつ病で多い「不眠」や「食欲不振」とは逆に、SADでは眠気や食欲の増加が目立つことが少なくない。冬の間は朝なかなか起きられず、日中も強い眠気に襲われる。また、チョコレートやパン、甘い菓子など糖分や炭水化物を多く含む食品を無性に欲することもある。寒さから活動量が落ちやすいことも重なり、体重が増えやすくなる人も多い。
春になると症状は自然に軽くなり、回復に向かうケースがほとんどだが、診断を受けた人の約3分の1は、反対に気分がやや高揚する時期を経験するともいわれている。
SADにかかりやすい人 若い女性
SADは誰にでも起こり得るが、女性は男性の約3倍発症しやすいとされ、とくに10〜30代の若い世代に多い。子どもや高齢者の発症は比較的まれだが、年齢に関係なく見られる障がいでもある。
英国では約200万人がSADの可能性があると推定されている。冬場に軽い疲労感や眠気、体重増加を感じる人は少なくないが、こうした変化が長く続き、仕事や日常生活に支障が出る場合は注意が必要だ。実際、100人に3人ほどが深刻な症状に悩まされているとも報告されている。
SADの原因 日光不足
原因はまだ完全には解明されていないが、最大の要因と考えられているのが冬の日照不足だ。光を浴びる時間が減ると、体内時計を整えるホルモンであるメラトニンの分泌リズムが乱れ、眠気が強まりやすくなる。同時に、気分の安定に関わるセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質も低下し、抑うつ状態に傾きやすくなるとされる。
こうした変化に体が敏感な人ほど、症状が出やすい。また、若い女性に多い背景には、ホルモン・バランスの影響も関係している可能性が指摘されている。
冬の朝に布団から出られない、甘いものが無性に食べたくなる――そんな変化は、単なる寒さや気のせいではなく、日光不足が体に及ぼしているサインかもしれない。
SAD簡易チェック・シート
気分や睡眠、食欲などが季節によってどの程度変化するかを確認するための自己チェック法がSeasonal Pattern Assessment Questionnaire(SPAQ)だ。冬とそれ以外の季節を比べながら答えることで、光不足の影響を受けていないかを客観的に把握できる。
合計点が7点以下は「正常範囲内」、8〜11点は「SAD前の不調」、12点以上は「SADの可能性がある」とされる。自分の状態を知るための、一つの目安として活用したい。

SADの症状に対処するために実行できる 6つのセルフケア
冬に気分が落ち込みやすい人や、英国で初めて短い日照時間を経験している人は、自分でも気づかないうちに心身のバランスを崩していることがある。健やかに春を迎えるためにも、日々の生活の中でセルフケアを意識したい。今から始めるのはもちろん、10月下旬など、本格的な冬が始まる前から準備しておくとより効果的だ。
1. 毎日外に出る
15~20分の自然光を浴びるだけで、体内時計を整えメラトニンの分泌をコントロールするのに役立つ。これにより、エネルギーのレベルが上がり、睡眠の質も向上する。職場や自宅ではできるだけ窓の近くに座り、自然光を取り入れることを心がけよう。
2. 運動は薬
曇天が続く冬はセロトニンの分泌量が少なくなるが、1日約20分、あるいは週150分ほどの定期的な運動はセロトニンの最適なレベルを維持するのに役立つ。激しい運動である必要はない。スクワットや壁を使った腕立て伏せ、椅子に座ったストレッチなど、シンプルなものから始めたい。簡単なものなら続けやすい。YouTubeなどで自分に相性の良いエクササイズ動画が見つかるはずだ。ゆっくりと体をほぐし、背中や首などの緊張を和らげよう。早歩きの散歩も効果がある。

3. トリプトファンを含む食材
この時期に食欲が増すのは、セロトニン不足を補おうとする体の反応ともいわれる。日中は脳内でセロトニンの生成を促し、夜になると睡眠を促すメラトニンに変化する必須アミノ酸、トリプトファンを含む食材を意識して摂取したい。牛乳、チーズ、ヨーグルト、豆乳、納豆、豆腐、卵、肉類、魚類、ナッツ類、バナナなどが代表的な食品だ。ビタミンB6(マグロ、ニンニク、鮭、ゴマ、抹茶など)やビタミンB12(青魚、カツオ節、イカ、レバーなど)と一緒にとると吸収が高まる。
4. 時間通りに就寝する
規則正しく深い睡眠は、気分の安定に直結する。就寝時間と起床時間を一定に保ち、就寝前は照明を落としてリラックスするようにしよう。アルコールや夜遅い食事を避け、スマートフォンやテレビの画面も就寝1時間前にはオフにする。脳が休まり、自然な眠りにつきやすくなる。

5. ビタミンDを補給
近年の研究では、ビタミンD不足がうつ病や不安の症状増加と関連していることが明らかになった。英国では6人に1人がビタミンD欠乏症に罹りかん患しており、特に肌の色が濃い人や屋外で肌の大部分を覆っている人、1年中日焼け止めを塗る習慣がある人は、ビタミンD欠乏症のリスクが高いといわれている。英国では、秋から冬にかけて1日10マイクログラム(400IU)のビタミンDサプリメントの摂取が推奨されている。
6. つながりを保つ
気分が沈むと人との交流がおっくうに感じられることがある。でも、孤立は落ち込みを深める要因になる。電話やビデオ通話のやり取りだけでも構わないので、家族や友人と連絡を取るようにしたい。誰かと他愛ない会話をするだけでも十分な効果がある。

ライトボックス療法とは
屋外の自然光を模倣し、強い光を放つ照明機器。SADの症状緩和に用いられ、「SADランプ」「ライトボックス」とも呼ばれる。基準となる1万ルクスは室内照明の約20倍、晴れた朝の屋外とほぼ同じ明るさで、室内にいながら自然光に近い刺激を再現できる。朝起きてから1時間以内に20〜30分、顔から40〜60センチほど離して使用する。紫外線はできるだけ抑えられており、光源を直接見つめ続ける必要はない。緑内障や白内障、糖尿病による網膜症など、過去または現在に眼の疾患がある人は、使用前に眼科専門医へ相談を。処方箋なしで購入できる手軽さはあるものの、医療従事者の助言やメーカーのガイドラインに従って使うのが望ましい。一方、北アイルランドでは公共図書館でライトボックスの貸し出しが行われ、利用希望者が多いという。この療法が生活の中に根づいた選択肢になっていることがうかがえる。





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