自分の財産を守るには? 万が一に備えるには?
遺言書の作成と
英国における相続税について
英国日本人会紅葉会主催 講演会
2月23日(木)、ロンドン中心部にあるブルームズベリー・バプティスト・チャーチにて、20年前に発足した英国日本人会の活動の一つである紅葉会主催の2月の例会が開催。老後のために考えたい「遺言書の作成と英国における相続税について」をテーマに講演が行われた。
始めに講演を行ったのは、レスター・ドミニック法律事務所の滝本佳代子弁護士。英国法弁護士である滝本氏は、なぜ遺言書の作成が重要なのか、法的な効力を持つ遺言書とはどのようなものかといった点について説明。遺言書に沿って遺産相続をする際の煩雑な手続きや手順、遺言書がない場合のトラブルなど、事例を交えて様々な角度から遺言書の大切さを論じた。
また、英国籍のパートナーをもつ夫婦が特に気を付けたいこととして、資産を日英の双方に保有している場合の事例を紹介。遺言書がない場合には、英国で定められる相続ルールが適用されるため、日本のように相続人間で遺産協議を行うことができず、親族間でのトラブルが発生したり、裁判所への手続きが長期化するケースにもなり得ると語った。
英国と日本の相続ルールの違い
例)妻が死亡し、夫婦間に子供がいない場合
英国:夫がすべて相続
日本:夫に加え、妻の兄弟姉妹にも相続の権利が発生
遺言書が必要となるのは日本国籍保持者同士の夫婦も同様で、英国滞在中に不動産や証券などの財産を残したまま日本で死亡した場合、海外にある財産については、日本の法律による遺産分割の効力が認められない場合もあるとのこと。そのため、名義変更などにも裁判所を通した手続きが必要となり、時間も費用も掛かるため、遺産が少額の場合には手続きの費用が遺産を超える可能性もあるといった事例も示された。
滝本氏は、自分の意志にそぐわない相続やトラブルを避けるためにも、事前にしっかりと準備することの重要性を強調。まずは自身の資産が今どこに、どれだけあるのかという事実を把握し、万が一に備えて英国と日本の両方で遺言書を作成することが大切であると説いた。
次に講演を行ったのは、Lighthouse Groupに所属するファイナンシャルアドバイザーのドゥルーリー和枝氏。ドゥルーリー氏からは、英国における相続税の仕組みや節税対策についての解説があった。
相続税とは?
死亡時に死亡した方の財産に課せられる税金 税率: 課税対象額 × 40%*遺産は相続税を支払った後(死亡より6カ月以内)に被相続人へ配分
*被相続人との関係や、遺産の内容に応じて非課税枠あり
ドゥルーリー氏は、相続税の非課税枠として、1人当たり32万5000ポンドは非課税(Nil Rate Band)となると説明した後、自宅を直系の子供や孫に遺した場合、資産額に応じて追加の非課税枠を得られる「Residence Nil Rate Band(RNRB)」が、4月6日から施行される旨も言及した。
また、夫婦のDomicileによって対象が異なる事例も紹介。
夫婦のDomicileによって異なる相続税の仕組み
死亡時に死亡した方の財産に課せられる税金 同じDomicile夫婦夫婦間の譲渡・相続 ▶ 相続税対象外
異なるDomicile夫婦
Non-DomicileからDomicileへの譲渡・相続 ▶ 相続税対象外
Domicile からNon-Domicileへの譲渡・相続 ▶ 相続税対象
ポイント
Domicile: 英国定住者。主に英国人を指す
Non-Domicile: 英国非定住者。主に外国人を指す
ただし、過去20年間内に15年間(2017年4月6日より適用、それ以前は17年間)英国居住者であればDomicileとみなされる
相続税対象外の譲渡として、英国登録チャリティー団体への譲渡、確定拠出型年金、譲渡後7年を経過した資産の譲渡などが挙げられた。
ドゥルーリー氏は最後に、相続税対策として、保険金を相続税支払いに充てる終身生命保険、一定期間保有後は相続税対象外になる非上場株式・AIM株式投資、負債を増やすことにより相続税対象資産が減額されるLifetime Mortgageを利用するなどの例を引用。対策ばかりに気を取られすぎてしまうと残りの人生を十分に楽しむことができないケースもあるため、今の生活を優先に考えながら、適切な対策を取ることが望ましいと締めくくった。
紅葉会とは
毎月第4木曜日(8月と12月を除く)に月例会を開催。例会やその他の英国日本人会の活動に参加し、会員同士でこれまでに得た人生経験を分かち合うとともに、援助が必要となったときのために相互理解を深めることを目的としている。次回はグリーン・コーラスの合唱会を予定(会員以外も参加可能)。
www.japanassociation.org.uk/kouyoukai