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Tue, 19 November 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 122

紅茶
Cuppa

Cuppa

「紅茶はいかが?」誰かの家を訪ねたら必ずこう聞かれます。「イエス、プリーズ。サンキュー!」そう答えた途端、その場に温かい空気が流れます。「まず紅茶を勧めること」は、英国生活での最も重要なコミュニケーション手段です。

「飲みたい」と言われたら、次は好みの飲み方を確認します。ここでは「濃いめに入れた紅茶にたっぷりのミルク」が定番。でも、よく肥えた畑の土のような焦げ茶色したブラック・ティーや、べっこう飴のような薄茶色など、飲み方は人の数だけあります。一度に大勢のお客さんが来たときには、覚えるのもひと苦労。「えーと、あなたは砂糖一つだったっけ?」と、何度も各人の好みを聞き直すはめになります。でも、遠慮する必要はありません。英国では、好きな飲み方を言うのは、万人に与えられた正当な権利なのです。例えば義妹の好みは、言われなければそれが紅茶とは思いもつかないような、乳白色のお茶。作り方は、マグにまず8分の1ほどミルクを入れ、沸騰したお湯をたっぷり注ぎ、ティー・バッグを「ちょん、ちょん」と2回軽く浸すだけ。紅茶を渡す度に、好みの味になっているか心配なのですが、「パーフェクト! サンキュー!」はきちれそうな笑顔でそういわれると、まるで大きな仕事を成し遂げたようにほっとした気持ちになります。

「ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式」(Death at a Funeral)という、コメディー映画をご存知でしょうか。亡くなった父親の葬儀の日に起こる家族のドタバタを描いた作品です。その中に‘Tea can do many things but can't bring back the dead.’という台詞が出てきます。「紅茶はいろんなことに効くけど、死者を生き返らすことはできない」と受け取れますが、私には「死者を連れ戻すことは無理でも、それ以外なら、たいていのことは紅茶を飲めばなんとかなる」というふうに聞こえました。そのくらい、私にとって英国の紅茶は魔法の飲み物という気がするのです。

この地に暮らして、悲しかったり、つらかったり、「明日、朝が来なければいいのに」と思う窮地にこれまで何度も陥いりました。そんなとき、1杯のミルク・ティーに助けられたことは数知れず。そして、気付いたこと。それは「ア・カップ・オブ・ティー?」と聞いて、紅茶を入れてくれる人がいることが、紅茶を魔法の飲みものに変えるのだということです。紅茶を入れてくれる人と入れてもらう人。そして、それをマグになみなみと注いで一緒に飲む時間。そこに紅茶のミラクル・パワーがあらわれるのです。私にとって最高の「英国の口福」は、誰かが入れてくれた1杯のミルク・ティーです。

ティー・ローフの作り方
(900gローフ型1個分)

材料

  • セルフ・レイジング・フラワー...250g
  • ソフト・ブラウン・シュガー...200g
  • サルタナ(レーズンと混ぜても可)...350g
  • 卵...2個
  • オレンジ(皮のすりおろし)...1個分
  • 紅茶(アール・グレイなどお好みで)...300ml

作り方

  1. ボウルに入れたサルタナの上から紅茶をかけて浸し、一晩置いておく。
  2. ❶にほかの材料を全て入れてよく混ぜる。
  3. ❷を型に入れて160℃に予熱したオーブンで1時間半~2時間焼く。竹串を挿してみて、生地がついてこなければ焼き上がり。バターをたっぷり塗って召し上がれ。
memo

ウェールズ地方では「バラブリス」という名前で知られるドライ・フルーツたっぷりのケーキ。紅茶の香りを楽しむにはアール・グレイなどを使用するのがお勧めです。

ごあいさつ
2015年から5年以上続いたこの連載も今回が最終回。皆さん、長い間のご愛読、ありがとうございました。このコラムを通じて、少しでも英国料理の素晴らしさを知っていただけたのならうれしいです。
マクギネス真美さんの新連載は8月から掲載予定です。乞うご期待ください!
 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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