「紳士のスポーツ」で汚職が発覚
クリケットの八百長問題
「紳士のスポーツ」とも言われるクリケットで、八百長にかかわったパキスタン人選手らに対して、11 月上旬、英高等法院が有罪判決を出した。元々は英国で発祥したスポーツであるクリケットは、現在ではインド、パキスタンといったインド亜大陸の諸国を始めとする世界各国で本国以上の人気を集めている。クリケットの歴史と八百長事件の経緯に注目した。
クリケットの基本的なルール
❖ 半径約70メートルのフィールドで行う。
❖ ボーラーが投げたボールをバッツマンが打ち、打ったボールがフィールドを転がる間に
2人のバッツマンが走ることで得点となる。
❖ ボーラーは肘を伸ばして投げる。
❖ バッツマンは全方位、どこに向かって打っても良い。
❖ バットは平たいオール型を使う。
❖ バッツマンが空振りなどした結果、ボーラーが投げたボールがウィケット(バッツマン
の後ろに立つ3本の棒)を壊すとアウトとなる。またバッツマンが打ち上げたフライを
フィールダーがノー・バウンドでキャッチしたり、ボールを打った後に走り出した
バッツマンがウィケットの内側にあるクリース・ラインを越える前に、ボールを取った
フィールダーが投げ返したボールがウィケットを壊すことでもアウトとなる。
パキスタン選手による八百長事件の経緯
2010年 | ||
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7月 | 国際クリケット評議会(ICC)が、イングランド地方で行われた国際選手権での八百長疑惑に関し、パキスタン人選手らを聴取する。 | |
8月 | 日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」がおとり取材を敢行。スポーツ・エージェントのマザール・マジャードがロンドンで開催のクリケットの国際試合での八百長工作に対する賄賂として現金を受け取る様子を撮影した動画を同紙ウェブサイトに掲載。このとき、マジャードは八百長に関わる数人のパキスタン人選手の名前を挙げた。後に、ロンドン警視庁がマジャードを逮捕。 | |
9月 | 疑惑がかけられたモハメド・アジフ、サルマン・ブット、モハメド・アミールの3選手は身の潔白を表明するも、ICCは3人を出場停止処分にする。3人はこの処分の撤回を求めて訴えを起こす。 | |
10月 | アジフが処分の撤回を求める訴えを取り下げる。またブットとアミールによる処分解除の訴えが裁判所によって却下される。 | |
2011年 | ||
2月 | ICCが3人の選手の試合出場を数年間禁止する。 | |
11月 | ロンドンのサザーク高等法院が、マジャード、アジフ、アミール、ブットらを、試合での不正行為などで有罪とする判断を下す。後日、マジャードには禁錮2年8カ月、アジフには同1年、ブットには同30カ月、アミールには6カ月の実刑が下った。 |
紳士・淑女のスポーツ
野球の原型とされるクリケットは、11人で構成されたチーム同士が、緑の芝生の中に作られたフィールドの中で対戦する球技だ。この競技が生まれたのは、16世紀のイングランド南部においてだったと言われている。やがて19世紀に大英帝国がその領地を世界中に拡大していくにつれて、クリケットも世界各地に広まっていった。現在ではとりわけインド、パキスタン、オーストラリア、ニュージーランド、西インド諸島、南アフリカ共和国、ジンバブエなどで人気が高い。競技人口の多さでは、サッカーに次いで世界第2位である。
またクリケットは、その紳士的なファッションでも注目を集めている。選手のユニフォームは原則白で、男性の場合は白い襟付きのポロシャツに白いスラックス、女性は下に白のキュロット・スカートなどを着用。手には白い手袋をはめ、足には白い脛すねあてを履き、頭にはひさしのついた白い帽子かハンチング帽を被る。白色のユニフォームで全身を固めた選手たちが球を追うこの球技は、公正さを重要視する「紳士・淑女のスポーツ」として認知されてきたのである。
国際試合での八百長疑惑が発覚
ところが、2010年夏、クリケットの試合中に八百長が行われたとの疑惑が発覚する。大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(現在は廃刊)は、ロンドンに住むスポーツ・エージェントのマザール・マジャードに、パキスタンの選手たちに反則投球を行わせたら、15万ポンド(約1800万円)を払うと持ちかけた覆面取材を敢行。そして、同年8月にロンドンで開催されたパキスタン対イングランドの国際選手権において、パキスタン選手たちは、同紙に事前に告げられていた予定通りに反則投球を行ったのである。さらに、お金を受け取ったマジャードの様子を映した画像が同紙のウェブサイトなどに掲載されてしまう。マジャードはこのとき受け取ったお金を使って、同試合の出場選手であるモハメド・アジフに6万5000ポンド(約788万円)、サルマン・ブットに1万ポンド、モハメド・アミールに2500ポンドを払ったと後に説明している。
疑惑がかけられた3選手は身の潔白を主張したが、国際クリケット評議会は今年2月に、試合出場を5年間禁止する罰則措置を下した。また今月上旬には、賄賂受領目的で故意に反則投球を行ったことなどへの共謀罪で、マジャード、アジフ、ブット、アミールの4人を有罪とする判決が高等法院から出されている。
マフィアのメンバーになる選手も
パキスタンのスポーツ紙「ドーン」の記者によると、パキスタン選手の多くが不正行為への誘惑を受けているという。また、クリケットはほかのスポーツ競技同様に賭博の対象になっており、胴元が巨額のお金を選手に渡して反則投球などを依頼したり、また著名な選手たちが巨大な八百長マフィアのメンバーになっているとの現状を伝えている。
ほかにこうした違法行為に手を染める選手がどの程度いるのか。そして、英国を含む他国ではこのような不正行為は行われていないのか。今回の事件は、パキスタンのみならず、クリケットという球技自体への信頼を大きく揺るがせる結果となった。
It's not cricket
「それはフェアじゃない」の意。直訳は「それはクリケットではない」となるが、クリケットは公正なルールを順守する紳士のスポーツであると見なされていることから、「クリケットではない」と言うことで、「スポーツマンらしくない」「スポーツマンにふさわしくない」「スポーツマンシップに反する」との意味になる。ちなみに、これまでに「It's not cricket」という名がついた英映画が2つ(1937年、49年)公開されている。前者はクリケット狂いの英国人の男性と結婚したフランス人女性の話で、後者はクリケットが絡んだスパイ作品となっている。(小林恭子)
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