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Sun, 24 November 2024

第78回 政治行政情報の偏りと投票行動の限界

最大の経済問題は政治

この欄で年初に書いたように、今年の最大の経済問題は政治だ。米国のサブプライム問題も、結局は新大統領が公的資金をどれだけ入れるかの決断に依存するだろうし、チベットを前哨戦とした中国周辺部(飢える北朝鮮、対中輸出減速の台湾、軍事政権がハリケーンに対する援助を拒否し、鎖国するミャンマー)の政治的安定と中国本体のオリンピック前後からの景気減速も、人民解放軍と農民の格差拡大に対する不満を胡錦濤氏が注意深く処理できるか否かに大きく依存する。欧州ではブラウンとサルコジ政権の失速、日本は言うまでもなく総選挙が近い。

ただ政権党や権力側に対する対抗側にも、実は政治経済問題に妙案があるわけではない。まず米国ではオバマ、クリントンいずれも経済政策に特色がない。中国も共産党が政権を失ったら、次の政権は分裂か群雄割拠しかあるまい。英国のキャメロン保守党党首やフランス社会党も経済政策では新味がない。日本も民主党と自民党との大きな政策の差を指摘することは難しい。むしろ高齢化に伴う年金財政の破綻と若年失業問題には、共通して解がない。

マルクス主義の実践がソ連、東欧、中国で絶え、その配当を謳歌したネオコン、新自由主義の行き過ぎもサブプライムによる景気減速で傾きつつある。この間、ブレアの新自由主義の下での第三の道も、財政赤字が徐々に拡大していった。結局はサッチャー元首相の作った財政ポケットを活用した住宅建設など単なるばら撒きだったのか、整然とサッチャー政権の行き過ぎを是正したと評価されるのかどうかが今後、ブラウン政権終了後、はっきり歴史に問われることになろう。結局、選挙でどの政党に投票しても大差ないので、有権者は気まぐれで目先や気分を変える。先日のロンドン市長選挙も同類と見たがどうか。


政治行政情報の偏り

しかし政治はトータル、全般的なものだ。だから、全論点についてバランスよく考えていくことが市民に求められている。それを可能にするための最低条件としては、第一には政治や行政の情報をもっと広く、かつ分かりやすく公開することだと思う。今では日英とも情報公開法があり、公開請求はできる。また各省や議会のHPが充実していて、探そうと思えばある程度の情報は探せる。それでも忙しい生活の中で、全体像を進行形で把握するのは容易ではない。テレビやネットのニュースは論点と事件とゴシップを追うのに精一杯だ。サッカー・ボールを追うのでなく、後衛の位置から球技場=政治全体を見渡し、その鳥瞰を与えるのは新聞の役割のはずなのだが、果たして英国の新聞ですらそれが十分なのか。

米国にコングレショナル・クオータリー(www.cq.com)というHPがあり、米国議会の動きを論点ごとに分けて、各省や民間の調査、議会での議論の進捗状況、各委員会を構成する議員の背景と金の動きまでカレンダーつきで踏み込んで情報を与えている。主に圧力団体の人が、どの議員をシンパにすべきかを考える材料提供をしているのだが、それがそのまま政治過程の「見える化」になっている。しかも一部無料で、その部分だけでもある程度のことは分かる。また全体像を1秒で知りたい人は1秒で、1時間の人は1時間で論点がつかめる。そうした情報を市民が得て、初めて日本の民主党のつまみ食い的な主張の一貫性を問題にできるのだろう。一貫性や全体的な整合性こそ市民は選挙や公開討論で問うべきだし、それでこそ真の2大政党制が実現できる。

1票の妥当性

第2の論点は、1人1票で十分かどうかだ。複雑な論点をジグザグに包含した党議拘束のある政党所属議員を、1票で1人選ぶ仕組みの是非から問われてしかるべきだと思う。ITを使えば、政治上の論点50個に対して候補者は50の考え方と理由を提示し、それに有権者は賛否を投じるような仕組みを容易に構築することができる。それで各論点についての得票数の総和が多い人が当選すると、候補者はどの論点が自分の当選に寄与したのかよく分かり、投票行動にその民意の制約を受けることになるだろう。

代議制は市民の中から選良された議員による自由な議論の中から方向性を決めていくことに価値を見出したのだが、IT技術によりこれを直接民主制的に運用することが可能となりうる。自由な議論を代表レベルで行うのか、国民レベルで行うのかといった憲法学上の論争を現実の政治に生かすためにも、まずは第一の条件である政治経済にかかる基礎情報の提示がなされれば、より議論が深まる余地があるのではないか。これこそ英国にせよ、日本にせよ、政治経済建て直しの鍵となるであろう。

(2008年5月14日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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