米国社会の分裂
米国債務の上限引き上げ問題の裏には、米国社会の深刻な亀裂がある。すなわち、リーマン・ショック後に米国人の貯蓄は2倍になり、消費がその分減って、需要が失われた。このため、27週以上の長期失業者数は高止まったままだ(下図参照)。これが米国社会における貧富格差の固定化を生み、その苦しい状況に対して、政治的に両極端の主張がなされている。
格差を何とかしようと主張してオバマ大統領が当選を果たしたにも関わらず、リーマン・ショックによって、彼が当選したときよりもはるかに格差が拡大したのは皮肉だ。同大統領は今、格差を大胆に小さくするために社会保障政策を拡充すべきだとする民主党左派と、小さな強い政府を求める共和党右派=茶会党を両翼とする極端な主張に挟まれている状態にある。
この状況は単純な財政赤字問題などではなく、レーガン政権以来、次第に拡大していた社会の貧富の格差が行き着くところまでいったことを意味している。経済問題というよりも政治的な問題として米国社会の行方が懸念されていることを、我々日本人もよく分かっておく必要がある。米国債がデフォルトすることは常識的に考えられないが、事の本質が、これまでの政策の是非と米国社会の在り方という問題に関わっているだけに、両派とも簡単に降りられない。
米国における27週以上の長期失業者数の推移
米国の強さ
しかし、現状は米国の強みをも示していると筆者は考える。米国は、国の在り方について議会、ネットなどで議論している。これは民主主義の強みだ。中国のように、国家が一方的に密室で決めるのとは地の固まり方が違うだろう。日本のように議論以前の状態が続くのは話にもならない。
さらにこの欄でこれまで書いてきたように、米国の貯蓄が設備投資の強さにつながれば、米国の産業競争力は復活する。そして、日本の競争力を相対的に弱め、円安につながる。米国が強いのは、ITやバイオといった分野での基礎研究と自由なアイデアを企業化し、それがうまくいかない場合には容易に事業再生(連邦破産法第11章)ができるからだ。要するにやってみて、うまくいかねばやり直せる社会なのであり、そういった社会が生み出す活力は、日本に今最も欠けているものである。
そこで問題の要は、米国の貧富格差が、そうした活力をそぐところまで煮詰まっているのかどうかという点になると予想される。茶会党は煮詰まったと主張しているが、事態はそう単純ではない。米国や日本の賃金は、中国の10倍、韓国の2倍程度ある。同じ製品を作っていれば米国や日本に競争力がないのは当然であって、中国や韓国と異なる付加価値を作り出せるような人材を生かしているかどうかが重要になる。この点、米国は、世界の優秀者を集める大学教育とベンチャーを支援する金融制度があり、またリスクを取っていくことを許容する社会がある。残念ながらこの点で日本は弱く、米国に一日の長があるように思う。
貧富の格差は、アメリカン・ドリームを生み、多様化した社会が認められる限りは活力にもなる。米国の設備投資が2、3年で戻るとすると、そのときこそ米国は強く甦り、円安局面となろう。
(2011年7月29日脱稿)
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