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Wed, 06 November 2024

第166回 日本の新首相の課題

新首相の状況

この号が出る頃には、日本の民主党の代表選挙が行われ、新首班が決定しているだろう。今日は、新首相の置かれている状況と彼を取り巻く経済状況について触れたい。

まず、前回総選挙からの任期が満了するのが2013年の夏だから、新首相の在職期間は2年に満たない。短命政権が続いているので少し長いように思えるが、この非常に難しい局面で2年の間に成果を上げねばならないとすると、とても厳しい状況と言える。

まず、震災対応で言えば、第一に原子力発電所の問題はまだまだ予断を許さない。余震によっては発電所の安定が確保できないという観点から、危機管理の状況が続く。第二に復興需要を組むための第3次補正予算の成立が、参議院の野党多数により、そう簡単ではない。大連立にせよ、与野党協力にせよ、論点によってはスムーズに行くかもしれない。だが、やはり、自助を求めリベラルな自民党と、弱者救済色の強い民主党では、本質的な考え方が合っていないので調整は難航しそうだ。

次に外交も、前の鳩山・菅首相時代に、日米関係はがたがたになった。中国も弱体政権を相手にはしていない。こうした中で、沖縄の基地問題や、ロシア、韓国、中国との領土問題は攻められる一方だ。

党内基盤は言うまでもなく、小沢氏との関係に配慮しないと票が読めない状況が続く。党内の権力闘争が、マニフェストの見直しの是非と、その背景にある消費税その他の増税問題への取り組み方針をめぐってごたごたすることは確実である。

経済の不安は小さい

唯一、期待できるのが、ここ1年程度の日本経済である。震災で止まっていたサプライ・チェーンはほぼ復旧し、これから復興需要が増大する。もともとリーマン・ショックからの回復過程で日本の経済は力強さを増していた。

海外経済に不安材料があるが、憂慮するほどでもないと考えられる。まず、米国経済は不良債権問題が継続し、長期失業率が高止まるなどの傾向を見せているが、不動産価格は下がっているのではなく、底を這っている状態にあることから、一方的に悪化しているというわけではない。円高になったとしても、せいぜい70円が上限だろうと市場では見ている。ユーロも決して良くはなく、だらだらと値が下がる感じではあるが、それも不良債権問題の処理の遅れを原因とするものなので、米国同様に急激に悪化することもなかろう。いずれも10年前の日本を思い起こさせる事態なので、専門家の間では「ジャパナイゼーション」と呼ばれている。だらだらとした不景気であり、一気に景気が悪化するのではなく、「良くならない」ということに特色がある。

中国に関しては、バブルや暴動の行方が気になるが、基本的には設備投資の牽引力が強い。共産党の政策もすぐにぶれることはなさそうだ。在庫要因でアジアの半導体市場が停滞局面に入るというマイナス要素があるほか、中長期で見た対アジアでの日本の産業競争力の低下、人口減少、地方金融機関の行き詰まりといった構造問題は残っているものの、2年程度の短期では、差し迫った悪材料はないようにうかがえる。

こうした世界経済の順風は、新首相に色々な政策を打つ余地を与える。政治外交状況が厳しく、経済も構造問題が重たいだけに、循環的な経済の好調は大事な価値を持つ。経済が良いと株価が安定し、物心両面で人々が政権を支持しがちなので、思い切った政策を打ちやすい。

最大の問題は政治不信

思い切った政策を打つとなれば、必要となるのはやはり政策ビジョンであり、経済の抱える構造的な問題を分かりやすくかつ情報を偏頗(へんぱ)させることなく語ることが重要になる。

しかし、正論が必ずしも通るわけではない。民主主義の下では、他人を説得することが何より重要だ。同じことを言っても信じてもらえる人とそうでない人がいる。特に、ここ数年で政治不信は極に達しており、国民が総理を揶やゆ揄するようなことがないような状況を作れるのかどうかが重要だ。

そのためには何が必要か。言うまでもなく、人物である。頭脳や言語の明晰さは必要だが、それだけでは十分でない。国民のことを本当に考えているかどうか、そして実行する胆力と本気度が問われる。その本気度が、国民自身に自らも日本のために取り組む必要があると思わせるだけのものであるかどうか。ささいな言動にも注目したい。

(2011年8月26日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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