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春はもうすぐ?
「わー、もう売っている。買っていこうか?」。
先週、娘と一緒に近所のスーパーに出掛けたとき、店舗に入ってすぐのところに陳列されていたのがダフォディル。まだ硬いつぼみの茎が10本ほど束ねられたものを2束、ショッピング・バスケットに入れました。ダフォディルとは、日本では「黄水仙」とも呼ばれるラッパ水仙のこと。私にとってこの花は英国の春を象徴するものです。特に、1月の十二夜が来て街中からクリスマス・デコレーションが消えたあと、スーパーでこの花が売られるのを毎年心待ちにしています。というのも、このくったくなく、まぶしいほど鮮やかな黄色い花は、暗く、寒く、しとしととジメジメ雨が続く英国の1月から3月ごろまでの日々に、「春への兆し・希望」を与えてくれるからです。
湿気が少なく日本に比べて切り花の保ちがいい英国でも、この花の寿命はせいぜい1週間弱。でも安価なので、花が終わりそうになったら、また新しい束を買ってきて、何度も気軽に生け替えます。春を待ちわびながら、庭のラッパ水仙が花をつけるまではこれを繰り返すのが、私にとってこの季節の儀式のようになっています。
春に切花を買うだけでなく、この国では多くの人が秋になるとたくさんのラッパ水仙の球根を植えます。私も毎年球根を買っては植え足していて、以前住んでいた家の庭には、春になると100本くらいの水仙が花を咲かせていました。この花は、どんな植え方をしてもたいていはちゃんと咲いてくれる(手入れが簡単)。そして、球根の値段が安い、というのが人気の理由でもあります。
またスーパーの切花もとても安く、一束が1ポンド。本数は若干減ってきているかもしれませんが、この値段は何年もの間変わっていません。渡英直後から2年間下宿をさせてもらった家のランドレディーは、「cheapにcheerfulで香りも良いから、この時期にはいつもこの花をたくさん買うの」と言っていたのを、20年経った今でも思い出します。
有名な詩人ワーズワースの代表作の一つといわれる「I Wandered Lonely as a Cloud」は、別名「The Daffodils」と呼ばれるポエム。この中で、踊るように咲いているラッパ水仙の黄金の群は、この国では誰もがすぐに思い浮かべることができる光景です。
水仙といえば日本ではニホンズイセンと呼ばれるナルキッソスの方が一般的です。もちろんナルキッソスも英国でも咲いていますが、私にはやはりダフォディルこそが、この英国に欠かせない春の使者のように思えます。