なぜBBCだけが伝えられるのか
民意、戦争、王室からジャニーズまで
発行元: 光文社新書
定価: 本体1078円(税込み)
2022年に開局100年を迎えた、BBCこと英国放送協会。本書は、英国メディアに詳しい在英ジャーナリストの小林恭子氏が、BBCが黎明期を経てラジオからテレビ、そしてデジタル・サービスへと歩みを進める歴史を、綿密なリサーチと独自の切り口で紹介した1冊だ。2度の世界大戦による危機、時の政権からの圧力、そして王室との確執など、数々の困難をくぐり抜けてきたBBCの歴史は、社会や権力との距離に悩まされるメディアの歴史にほかならないと同氏は言う。ますます多様化する視聴者の期待にBBCはどう答えを出していくのか。公共放送のあり方を再確認する。
本書には「階級社会の英語事情」や「バラエティの笑いと差別」など、BBCを語る上で欠かせない英国独自の文化を補足した4本のコラムが含まれている。ここには「BBCとNHK」と題した、日英の放送局の特性を比較したコラムもあり興味深い。表現の自由と編集権の独立を守るため、BBCとNHKは国からの独立性をどのように確保しているのか。また、政府から独立した最高意思決定機関の有無などを解説。同氏は、全ての政治報道がBBCのようであるべきとは思わないとしながらも、BBCの根幹には、権力を監視して公共の利益のために情報を提供するという、ジャーナリズムの基本姿勢があると評価している。
さらに、第7章「ポスト放送の世紀へ」では、「現在進行形の犯罪―英国からのジャニーズ告発」として、ジャニー喜多川氏の性犯罪を描いたBBC制作のドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」についても言及。日本国外で制作された1本の番組が、日本社会の闇を暴き出し、日本の中に変化のうねりが生まれた様子を伝えている。
テクノロジーの発展でメディアにアクセスする方法が変わりつつある昨今、公共放送がこれからどこへ向かうべきなのかを、BBCの100年をたどりながら考えさせてくれる1冊だ。
*人気連載コラム「小林恭子の英国メディアを読み解く」もご覧ください
目次
第1章 「放送の世紀」の幕開け
英国民とBBC
〔コラム①〕放送界の2人の巨人
――リースとベアード
第2章 「戦争の道具」としてのメディア
第二次大戦とBBC
〔コラム②〕階級社会の英語事情
第3章 「消費ブーム」にテレビは
戦後社会とBBC
〔コラム③〕バラエティの笑いと差別
第4章 「不和と対立の時代」
サッチャー政権とBBC
第5章 「SNS時代」のジャーナリズム
デジタル革命とBBC
第6章 「国民と王室の絆」
ダイアナ元妃、エリザベス女王とBBC
〔コラム④〕BBCとNHK
第7章 「ポスト放送の世紀」へ
ジャニーズと戦争とBBC
おわりに
BBCの基本情報
主な参考文献