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Fri, 20 December 2024

英国クルマ今昔物語

英国で生活する上で、移動に欠かせないのがクルマ。街で見かけるクルマは、質実剛健を地で行くドイツ車や日本車、ラテン系デザインで薄暗いこの国に明るさを添えるフランス車が多数を占めているが、誰が見てもすぐにそれと判る「ミニ」や映画007にも登場した「アストン・マーチン」などの英国車もしっかりとニッチでカッコいい世界を押さえている。また、テレビで放映される自動車レースでは、フェラーリやアウディなど欧州大陸の自動車メーカーの活躍に交じり、要所々々で英国のモータースポーツの人材が登場する。こうした構図からは、英国人が綿々と作り上げてきた「英国車ブランド」の意味合いを汲み取ることが出来るかもしれない。量産大衆車メーカーは消滅してしまった英国であるが、今尚記憶に残る英国の名車とともに、英国車の歴史を振り返ってみよう。(執筆: イーストン)

 


英国の自動車ブランドといえば、高級車ジャンルではロールス・ロイス、ベントレー、ジャガーなど、SUV(多目的自動車)ではランドローバー、オープン型スポーツカーではTVRなど有数の有名ブランドがあり、現在でもロンドンの高級オフィス街メイフェアにディーラーが軒を連ねている。いずれも、日本人に人気のある高級車、メルセデス・ベンツやBMW(共にドイツ車)などとは一線を画す存在感を示しているが、その歴史はどのようなものだったのだろうか。


 

我々の自動車に搭載されているガソリンを使用した内燃機型エンジンは、その原型が19世紀中頃に発明され、20世紀初頭の量産型自動車メーカーの誕生に備え、度重なる改良が重ねられたと言われている。しかし、この発明の歴史に英国人の名前は登場しない。ここ英国でようやく自動車メーカーが登場したのは、1900年代に入ってからのことだ。米国では、ビッグ・スリーの一角であるフォードが世界初の量産ラインによる乗用車生産を開始した頃である。フォードの小型車「T型」(写真1)が世間を席巻していたが、英国自動車産業の華、ロールス・ロイス社(1904年設立)は、それとは一線を画す高価な量産車「シルバーゴースト(1906-1925)」(写真2)を生み出した。大柄ながら軽量化された車台の採用により並外れた信頼性と静粛性を実現したことからその名前が付けられたということからも分かるように、ここに英国の高性能・高級車志向の原点を見出すことが出来るだろう。

 

第一次大戦(1914-18)後まもなく、「ル・マン24時間耐久レース(1926-現在)」が始まった。このレースは、今日では世界3大レースのひとつと言われ、フランスはル・マンで開催される伝統あるレースとなっている。当時、自動車の量産開始から20年余りを経た各メーカーにとって、このレースが自動車技術を磨くための絶好の機会となっていたことは、想像に難しくない。そして、それは現代のモータースポーツの位置づけと何ら変わりないものだったに違いない。英国からはベントレー社(1919年設立)の「スピード6」などがこのレースで活躍し、第二次大戦(1939-45)までに開催された16回のレースのうち5勝している。英国車合計では6回優勝していることから、英国人が高性能車の開発に引き続き力を注いでいたことがうかがわれる。しかし、その頃の英国車の影響力は高級車だけではなく、1970年代以降は消滅の一途を辿ることになる大衆車にも及んでいた。ロールス・ロイス社と同時期に登場したオースティン社(1905年設立)が製造した小型乗用車「オースティン7(1922-39)」は、後発だったわが国の日産自動車やドイツのBMWなどが技術移転を受ける際のベース車両となったという。こうして成長期を迎えた英国自動車産業は、第二次大戦前夜には20社近くのメーカーがしのぎを削るに至っていた。


第二次大戦で中断していた英国の量産車製造は、大戦後間も無く再開され、1960年初頭まで特色あるクルマを生み出していくことになる。発売後、世界中の農場や戦場、アフリカなどのオフロードで重宝されてきたランドローバー社(1948年設立)の「ディフェンダー(1948-現在)」(写真3)もこの時期に誕生している。このクルマは、ローバー社(1901年設立)のチーフ・デザイナーが、米軍が使用していたジープをヒントに設計したものだ。今では、殆どすべての自動車メーカーがSUV(多目的乗用車)を販売し、日常生活の中にも浸透しているが、似たり寄ったりで選択に困る場合もあるだろう。そんな時は、他社とは一線を画すユニークな「ランドローバー・ブランド」のSUVを検討する価値があるかもしれない。

1950年代も終わりに近づくと、オースティンやモーリス(1910年設立)など数社の統合会社BMC社(1952-66)から小型国民車「ミニ(1959-2000)」(写真4)が発売される。1950年代といえば最初の石油危機が勃発した時期で、ガソリンの燃費効率が悪い大型車の販売が滞っていた。「ミニ」はそのような問題を打破するために設計されたといわれているが、そのモダンなデザインと高性能さが受け、2000年10月に販売が終了するまで、多くのファンを生み、多様なバリエーション・モデル体系を構築している。いろいろな理由でクルマ好きを封印してきたお父様方の心をくすぐるアイテムと言えるだろう。

「ミニ」の登場と時を同じくして、ロールス・ロイス社は大型高級車シリーズをモデルチェンジした「ファントムV(1959-68)」(写真5)を発表。このクルマは、V型8気筒・排気量6リッターの超大型エンジンを搭載し、約10年の間に500台余りのみが生産された希少モデルだ。「ファントム・シリーズ」は、先に紹介した「シルバーゴースト」の後継車として位置づけられドイツのBMWグループ傘下に入った(2003年)後もロールス・ロイスの代名詞となっている。

やや後発だったジャガー社(1922年設立、45年に社名をジャガーに変更)からは、スポーツカー「Eタイプ(1961-74)」(写真6)が発売されている。ジャガー・ブランドは、XJシリーズのような高級車クラスもラインナップしているが、この「Eタイプ」はデザインと価格の両面で当時の業界を驚愕させた革命的なクルマといわれている点で特筆すべき存在といえよう。実際、今日のヨーロピアン・スポーツカーのデザイン面で与えた影響は大きく、米フォード・グループ傘下に入った(1990年)後もジャガーのフラッグシップであるXKシリーズへと受け継がれている。

 

日本の自動車メーカーが1950年代から70年代にかけて高度成長を謳歌する一方で、英国車は停滞期を迎え、かつては20社近かったメーカーも、徐々に統合されていった。すでに7つのブランドを統合していたBMC(British Motor Corporation)社は、急激な販売不振からジャガーと統合しBMH(British Motor Holdings、1966-68)を形成、それでも不十分であったために、2年後には、ローバー社とレイランド社を巻き込んだ大統合劇
が繰り広げられ、BLMC(British Leyland Motor Corporation)社(1968-1986)の誕生に至っている。しかし、BLMCはその後勃発する石油危機を乗り越えることができず、国営化の道をたどることとなる。この間、グループ内で重複するモデルの整理統合がなされたため、かつての英国車ブランドのうち、ローバー・ブランド以外の大衆車マークは消滅してしまう。


もっとも1980年代の後半になると、元気のない英国の自動車産業に外資系から救いの手が差し伸べられるようになった。米フォードは、多くの英国ブランドを手中に収め、フォード・プレミアム・カー部門を形成するに至る。こうして、ブランド・バリューのある英国車たちは、外資系メーカーの商品構成を補う形で新たな家主を見つけ、ブランド名をそのままにクルマ作りを続けることが出来たのである。

一方、大衆車を製造するローバー部門は、外資系メーカーとのシナジー効果が少ないという理由から、買い手が見つからず、2005年にはついに生産ラインの停止に追い込まれてしまった(その後、中国のメーカーに買収されることが決まったが、ローバーの商標はフォードが引き継いだため、事実上、歴史から消滅したと言っていいだろう)

今も数多くの英国車ブランドが認知されているが、それらはすべて大衆車以外のジャンルである。また、それらは世界有数の欧米メーカーには無い特徴を備えているが故に生き残っていると言えるだろう。

 

こういった生き残り組の英国車は、ユーザーの立場からみれば、高価であったり、日常生活において実用性に劣っていたりと、購入するには大いに頭を悩ませなければなければならないクルマたちばかりである。だからこそ、英国に生活するわずかな期間だけでも、思い切り英国車ブランドに悩まされてみてはどうだろうか。日本に居ては、そういったクルマに悩むことすら忘れてしまうかもしれないのだから。

 


ジェームズ・ボンドとアストン・マーチン

英国人男性の憧れと言えば、ジェームズ・ボンド。そして、そのボンドの愛車として有名なのがアストン・マーチンだ。映画007シリーズ「ゴールドフィンガー(1964年)」ではアストン・マーチン社(1913年設立)の「DB5(1963-65)」が、主人公ジェームズ・ボンドの駆る「ボンド・カー」として初登場している。同ブランドは、当時から高出力スポーツカーとして名高く、「DB5」には直列6気筒・排気量4リッターのエンジンを搭載、282馬力を発生した。その後も「リビング・デイ・ライツ(1987年)」に、英国発のスーパーカーといわれる「V8-Vantage(1977-89)」(V型8気筒、5.3リッター、315馬力)が、「ダイ・アナザー・デイ(2002年)」では「V12-Vanquish(2001-)」(V型12気筒、5.9リッター、430馬力)が登場している。このような速くてかっこいいアストン・マーチンは、サッカー選手のデービッド・ベッカムを始めとする多くのセレブリティが所有していることでも有名だ。


日本車との意外なつながり

オースティン社の「A30(1951-56)」を見てみよう(写真右上)。日産自動車が1963年に発売を開始した「初代ブルーバード310型」(写真右中央)との関係がわかるだろうか。日産自動車は戦後、技術的な遅れを取り戻すため、オースティン社と技術提携を結び、1953年から「A40」、1955年からは「A50」を生産した。そして10年後の1963年に満を持して登場したのが「初代ブルーバード310型」だった。このほか、いすゞ自動車は英国のヒルマン社(1907-76)から「ミンクス(1932-66)」の提供を受け、その名も「いすゞヒルマンミンクス」(写真右下)として販売していたが、これはすでに忘却の彼方の出来事となってしまった。その後、日本車メーカー各社は、高度成長期(1950〜70年代初頭)を通じて独自の道を歩んでいくため、古き良き時代の英国車の面影は無くなってしまうが、「A30」のようなルーツがあったことは記憶にとどめておきたい。


戦後最盛期を象徴するル・マンでの活躍

世界3大レースのひとつ「ル・マン24時間耐久レース(1926-現在)」は、戦後間も無く再開された。英国車では、ジャガー「Dタイプ(1954-57)」などが活躍し、戦後10年間で6勝を挙げている。しかし、1959年の勝利を最後に英国車メーカーは勝利から遠ざかり、1988年に再びジャガーが勝利するまでに30年もかかった。こうした記録からも、英国自動車業界の戦後の浮き沈みを窺い知ることが出来るだろう。

 

 

モーガン社(1910年設立)は、クラシック・タイプの手作りスポーツカー「プラス8(1956-2004)」(写真7)で有名だ。見た目のクラシックさとは裏腹に、その性能は軽量ボディにV型8気筒・4リッターの大型エンジンを搭載し、スーパーカー並みの速さをも兼ね備えている。その後は、4シーターのクラシック・タイプ「ロードスター(2004〜現在)」に引き継がれ、斬新なデザインのスポーツカー「エアロ8(2000〜現在)」(写真8)と共にユニークなブランドとしての存在感もキープしている。

ブリストル社(1948年設立)も、手作りを続けるメーカーであるが、高性能志向はモーガンの更に上を行くスーパーカー・メーカーだ。「ファイターT(2004〜現在)」(写真9)は、昨年、市販車のエンジン出力記録を塗り替え、1012馬力という金字塔を打ち立てたことで紙面を賑わせた。エンジンは米クライスラー社のV型10気筒をベースに開発したものというから、そのチューニング力と、ボディやシャシーの設計力に秀でているというべきだろう。価格はおよそ35万ポンド(約8000万円)、生産されるのは年間20台のみという希少モデルだ。

モーガンもブリストルも所有するには極端すぎるという場合には、TVR社(1947年設立)のスポーツカー(写真10)という手もある。TVRは、2シーター・スポーツカーの製作に情熱を燃やすオーナーたちによって、様々な名車を送り出してきた。V型8気筒4リッターのエンジンを2シーターの
オープンカーに搭載し、野太い排気音で近づいてくる姿はカッコよく、1990年代後半にはロンドンのシティ近辺でも数多く見かけることが出来たので、その勇姿を覚えている方もいるだろう。90年代後半以降のモデルでは、扱いやすい直列6気筒エンジンが搭載され、スマートさが加わったと言
われている。しかし、2004年にロシア人実業家が買収して以来、販売台数が下降、組み立て工場も英国からイタリアへと移転される運命を辿っているため、英国車としてのプライドが持続するかどうか注意が必要である。

 

小型の2シーター・スポーツカーに惹かれる方は、「ロータス(1952年設立)」の動向が気になるかもしれない。1970年代の日本でスーパーカー・ブームを経験している男性にとっては、車高の低いフォルムの「ヨーロッパ(1966-75)」(写真11)が記憶に残っているのではないだろうか。かつて、モータレースの最高峰であるフォーミュラー・ワンでも活躍したロータスは、今日でも2シーター・スポーツカー「エリーゼ」や「イクシージ」を製造し、一般道路用とモーター・スポーツ用のクルマを提供している。また、往年の名車「ヨーロッパ」の名を冠せられた「新・ヨーロッパ」(写真12)が発売され、更に今年2007年には「新型エスプリ」が発表されるというから、男女を問わずロータス・ファンの気持ちに火が点いてしまうこと間違いなしである。もうひとつ忘れてはならないメーカーに、ロータスからすべての権利を買い取って、かつての「ロータス7」の製造を続けているケータラム社(1973年設立)がある。週末に郊外へドライブに行くと、必ず1度はすれ違う気になるクルマ、と記憶されている読者もいるかもしれない。今では、各種ラインナップを揃え、年間約500台を生産している数少ない純英国メーカーでもある。部品を購入して自分で組み立てることもできるので、プラモデルに夢中になった少年時代を持つ男性にとっては夢のようなクルマに違いない。

 

ロンドン北方にあるシルバーストーン・サーキットでは、ロータス・イクシージでトレーニングを受けることが出来る(半日コースで155ポンド〜)。しかも、半日集中トレーニング・コース(275ポンド)なら日本人インストラクターがいるので、言葉の心配いらず。爽快で質の高いアドバイスを受けながらのドライビング体験ができること確実(事前に、インストラクターの中納さんに直接予約要)。その他、ケントにあるブランズハッチ・サーキットでもフォーミュラ車などのドライブ体験ができる。

Silverstone Circuit
Northamptonshire, NN12 8TN
Tel: 0870 458 8270
www.silverstone.co.uk/html/dr_lotus.php
*中納さん連絡先: Tel: 01908 690 010(日本語でOK)
または、http://formulaford.jp/school

Brands Hatch Circuit
Fawkham, Longfield, Kent, DA3 8NG
Tel: 0870 850 5015
www.motorsportvision.co.uk


毎年6月にチチェスター近郊の私邸内で開催される超ビッグ・イベント。ヒル・クライム(上り坂)のタイム・トライアルとなっているが、実際は、有名なドライバーがフォーミュラ車から二輪車までを含むクルマを駆り、パフォーマンスを見せてくれるショー・レース的要素が強い。パドックと称されるテントを訪れれば、それらの名車とメカニックの姿を間近に見ることが可能だ。運が良ければ、新旧のF1ドライバーと写真に収まることができるかもしれない。人気イベントなので、今すぐチケットを予約しても早すぎることはない。特に観客席を確保したい場合は、2月頃には予約終了となってしまうので急いだ方が良いだろう。9月に開催されるクラシック・カーのレース、グッドウッド・リバイバルにも注目したい。

Goodwood House
Goodwood, Chichester, West Sussex PO18 0PX
Tel: 01243 45 5000
6月22日(金)〜24日(日)9:00〜(レース終了まで)
入場のみ: £25〜47(子供無料)
スタートライン・スタンド席£45〜82(子供は約半額)
www.goodwood.co.uk/fos


ソールズベリーの西に位置する英国最大の自動車博物館。外見的にはビューリーにやや劣り寂れた感じもするが、一度館内へ立ち入れば、その品揃えには圧倒されること間違いなしだ。ヨーロッパの赤いクルマばかりを一堂に集めたコーナーでは、英国とイタリアの名車を堪能できる。敷地内にはショート・サーキットを併設しており、イベントの無い日には、自分のクルマを走らせることも可能だ。

Haynes International Motor Museum
Sparkford, Yeovil, Somerset BA22 7LH
Tel: 01963 44 0804
毎日10:00-16:00
ファミリー(大人2名&子供3名)£22
www.haynesmotormuseum.com


マナーハウスと併設されるビューリー自動車博物館は、サウスコースト「サザンプトン」近郊にあるテーマ性の高い施設だ。1890年代の車から最近のレース・カーまで幅広く取り揃え、映画007に登場した様々な自動車を展示するコーナーもある。施設内には、モノレールやラジコン・コーナーなどもあり、奥様やお子様連れにも優しい。また、春から夏にかけては「オート・ジャンブル」や「ボート・ジャンブル」と呼ばれる催し物が定例となっており、大陸からの出展者もいる賑やかな雰囲気を楽しむことも可能だ。今すぐ、ホームページをチェックしてみよう。

Montagu Ventures Ltd.
John Montagu Building, Beaulieu, Brackenhurst, Hampshire SO42 7ZN
Tel: 01590 61 2345
毎日10:00-17:00
ファミリー(大人2名&子供3名)£40
www.beaulieu.co.uk

 

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