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Fri, 20 December 2024

子どもたちの多様な未来を考えたイングランドの初等・中等教育

個々の主体性が重んじられる学校方針

さまざまな民族が生活する英国の初等・中等教育制度は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドのエリアごとに学校の区分や評価方法が異なり、変化に富んでいる。また、公立校や私立校のほかにも、特定の宗教に特化した宗教学校やホーム・スクーリングといった多くの学びの場が提供され、子どもたちの将来を考えた教育として世界的にも評価されている。今回は、日本とは少し異なるイングランドの初等・中等教育について紹介してみたい。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.gov.ukwww.britishcouncil.jpwww.natre.org.uk ほか

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日本とこんなにも違う!イングランドの教育制度

公立校、私立校があるという大まかな体系は日本と似ているものの、その細部は大きく異なる。まずは簡単な違いから見ていこう。

学校の区分

公立校と私立校で学校の区分や名称が異なる。例えば、公立校では初等教育はプライマリー・スクール、中等教育はセカンダリー・スクールで、一方の私立校では、前者がジュニア・スクール(プレパラトリー・スクール)で、後者がシニア・スクールと呼ばれている。日本でも有名なイートン校(Eton College)といった私立校、パブリック・スクールは、このシニア・スクールの一種だ。また 3、4歳から通うプリ・プレップ・スクールもある。私立学校によっては、入学年が必ずしも一様ではない。

さらに、公立の中等教育は無試験で入学できるコンプリヘンシブ・スクールと、選抜試験を経るグラマー・スクールなどに分かれている。義務教育の最終段階となる中等教育終了時(16歳)には、GCSEという全国統一試験を受験するが、この試験結果は、その後の進学や就職に大きな影響を与える。

大学進学を望む者はシックス・フォームと呼ばれる課程に進学し、同課程での学習内容を踏まえたAレベル試験(高校卒業資格試験)を受け、その成績次第で希望の大学に入学することができる。シックス・フォーム・カレッジとして独立しているものと、中等教育機関内に併設されているものがある。

イングランドにおける学校の区分、名称

公立校 私立校
Primary Schoolプライマリー・スクール Junior Schoolジュニア・スクール● Pre-Prep Schoolプリ・プレップ・スクール● Preparatory Schoolプレパラトリー・スクール
Secondary Schoolセカンダリー・スクール● Comprehensive Schoolコンプリヘンシブ・スクール● Grammar Schoolグラマー・スクール Senior Schoolシニア・スクール
GCSE試験(義務教育終了)
Sixth Form Collegeシックス・フォーム・カレッジ Sixth Formシックス・フォーム Sixth Form Collegeシックス・フォーム・カレッジ Sixth Formシックス・フォーム
Aレベル試験
大学

教育年度

プライマリー・スクールはレセプションとYear1~6、セカンダリー・スクールはYear7~11、シックス・フォームまたはカレッジ(Sixth Form/College)はYear12~13。学校に通う年齢は地域ごとに異なり、スコットランドとウェールズが5~16歳、北アイルランドが4~16歳であるのに対し、イングランドは5~18歳と他地域より2年長い。

夏休みが終わる8月までに16歳になる場合、その年の6月の最終金曜日に学校を卒業できるが、16〜18歳の間は下記のいずれかに参加しなければならない。

②の見習い制度と③の研修制度の違いは、前者が最低1年であるのに対し、後者は8週間〜6カ月で完了すること。これらの制度は過去30年でイングランドの教育制度に組み込まれるようになった比較的新しい教育制度だ。

  1. カレッジなどでフルタイムの教育を受ける
  2. 幅広い分野における職業の見習い制度(apprenticeship)への参加。請求書や経費、税金などの会計分野、経営管理や事業開発などのビジネス分野、建物、配管などの建設分野など多岐にわたる
  3. 実務経験を伴い、英語・数学のスキルの伸ばす研修制度(traineeship)への参加
  4. パートタイムの教育または訓練を受けつつ、週20時間以上の実務作業またはボランティア活動

イングランドと日本の教育年度

年齢 イングランド 日本
3〜4 Nursery 幼稚園
4〜5 Reception 幼稚園
5〜6 Year 1 幼稚園
6〜7 Year 2 小学校1年
7〜8 Year 3 小学校2年
8〜9 Year 4 小学校3年
9〜10 Year 5 小学校4年
10〜11 Year 6 小学校5年
11〜12 Year 7 小学校6年
12〜13 Year 8 中学校1年
13〜14 Year 9 中学校2年
14〜15 Year 10 中学校3年
15〜16 Year 11 高校1年
16〜17 Year 12 高校2年
17〜18 Year 13 高校3年
*学校年度:9月〜翌8月(イングランド)4月〜翌3月(日本)

社会に出る前の大切な準備期間初等・中等教育の大きな特徴

一定の年齢を迎えると「学科試験によって評価される」という日本と同じ制度のほかに、学びの方向性や多様な考え方に対応した教育制度が存在する。

授業であらゆる人間関係について学ぶ

公立校のカリキュラムには、日本と同じようにプライマリー、セカンダリー・スクールで学ぶ、政府制定の学習プログラムを含む「ナショナル・カリキュラム」があり、科目は英語、数学、理科、歴史、アートとデザイン、音楽、体育、市民権、コンピューティングなど多岐にわたる。それに加え、人間関係についての教育(Relationships education)、性と健康の教育(Sex and Health education)宗教教育(Religious education、RE)が含まれるのが特徴だ。

人間関係の教育は、まずプライマリー・スクールで友情や家族関係など、人間関係を築くための根幹部分を学び、続くセカンダリー・スクールで人間関係と性教育( Relationships and SexEducation、RSE)という踏み込んだ内容に変化する。

友人や未来の同僚との関係から、結婚生活を送るために必要な献身的な関係について学び、健全な人間関係が精神的な健康をもたらすことを理解した上で、安全な性交渉に関する科学的な知識、またセクシュアリティーに関する事実やそれに対して定められた法律など、自分がなんらかの形で不利益を被ったときに、どこへ助けを求めたらいいのかを具体的に教えることを目的としている。

宗教教育(RE)は、子どもたちが新しい世界を作っていくだけでなく、宗教と世界観についてついての基礎知識を取得し、またその理解を深めるために設定されているカリキュラムの一つ。

多様な人種が交わる英国社会において、自身の信念や価値観に自信を持たせつつ、他者の宗教的および文化的な違いを尊重できるような、思いやりのある社会づくりに貢献するための教育とされている。これらのルールは、学校によっては一定の年齢になれば生徒自身で学びを継続するかどうかの選択をすることができる。

授業であらゆる人間関係について学ぶ

大学に行く前に将来を決める生徒たち

日本の学生の中には、とりあえず良い大学に入学してから将来何になりたいかを考える人も一定数いるのではないだろうか。一方、イングランドの学校では、日本の高校生にあたる年齢から進路を見据えたプログラムに専念するための環境が整えられている。代表的なものはカレッジというシステム。米国では大学(University)をカレッジとも呼ぶが、イングランドでは、大学入試の準備期間に、16歳で義務教育を修了した後2年間通う場所のことを指す。

セカンダリー・スクール内に、シックス・フォームの体制が整っていれば、義務教育後もAレベルを引き続きそこで学ぶことができ、校内にシックス・フォームがない場合は、独立したカレッジに行くことになる。カレッジでは、調理やアート、ファッション関係などアカデミック分野とは異なる、より専門的なファンデーション・コースを受講することができる。アカデミックの道に進むか、それとも専門的な職業訓練を始めるかを16歳の時点でもう決めるのだ。

また、生徒のなかには大学入学までの1年を使って、学生生活では得られない経験や学びを獲得するためのギャップ・イヤーを利用する場合も。自分が何を目指したいのか、20代を迎える前に理解できている生徒が多いようだ。

大学に行く前に将来を決める生徒たち

ドロップアウトしたらどうなる?

セカンダリー・スクールの生徒は、16歳になれば学校を卒業することができるが、18歳の誕生日までは何らかの形で教育または職業訓練を受けなければならない。また、カレッジの過程で中退したとしても、18歳まではフルタイムの職業に就くことは法律で禁止されている。ただし、学習障害がある、いじめにあった、などの大きな理由でどうしても学習の継続が難しい場合は、学校のキャリア・アドバイザーに相談したり、場合によっては転校という形も認められているので、一概に悪いことだとはされていない。

Early Years Foundation Stageとは

生まれてから5歳までの幼児の発達を助けるアーリー・イヤーズ・ファウンデーション・ステージ(EYFS)という枠組みがある。これは、主に遊びを通じて、コミュニケーションと言語スキルの発達、身体の発達、個人として、また人間関係のなかの感情の発達、読み書き能力の修練、算数や事物への理解、芸術とデザインの表現の発達を促し、後の教育へのスムーズな移行を助けるためのもの。

2021年9月に内容が変更され、より言語や読み書き能力の向上が重要視されるようになった。無料のナーサリーは3歳から、特定の収入に満たない家庭などは2歳から開始できる場合も。両親が共働きの場合、プライベートのナーサリーなら生後3カ月から預けることが可能。

Early Years Foundation Stageとは

子どもたちがストレスなく学ぶために選択肢の多い学校選び

多種多様な民族が混在して暮らすなか、子どもたちに居心地の良い学習環境を与えるのは大切なこと。イングランドでは各家庭や子どもたちのニーズに合わせた学校が選べる。

さまざまな学校の種類

公立校といっても、運営団体や方針の違いなど、さまざまなタイプの学校が存在する。代表的なものは以下のような学校だ。

Community Schoolコミュニティー・スクール

地方自治体が運営する学校で、企業や宗教団体の影響を受けず、政府制定のカリキュラム「ナショナル・カリキュラム」に従う、いわゆる一般的な公立校のこと

Foundation School / Voluntary Schoolファウンデーション・スクール、ボランタリー・スクール

地方自治体から資金提供を受けているが、教育方法を変更するといった自由度が高く、また宗教団体の代表者の支援を受けている場合もある

Academyアカデミー

非営利のアカデミー・トラストによって運営されており、地方自治体から独立して運営。運営方法を自由に変更できる裁量があり、独自のカリキュラムがある。コミュニティー・スクールより、自由度が高い

Grammar Schoolグラマー・スクール

地方自治体、財団法人、またはアカデミー・トラストが運営する。学力に基づいて生徒を選択し、入学するための試験(11プラス)がある

Faith Schoolフェイス・スクール(宗教学校)

「ナショナル・カリキュラム」に従うが、入学条件や職員のポリシーは特定の宗教に従う。イングランドでは英国国教会、カトリック教会系の学校が多い

Faith Academy宗教アカデミー

「ナショナル・カリキュラム」を教える必要はなく、独自の入学条件を持つ

Free Schoolフリー・スクール

地方自治体による運営ではなく、政府からの資金提供を受けている。全ての生徒に開かれている学校なので、グラマー・スクールのような学問的な選考プロセスはない。また、スタッフの給与と条件を独自に設定、学期と登校日の変更、「ナショナル・カリキュラム」に従う必要はない。非営利目的で運営されており、慈善団体や大学、私立校、コミュニティーや信仰グループ、企業のほか教師や両親が設立することができる

個々の主体性が重んじられる学校方針

早いうちから自分の将来を考え、そのために必要な教育を学んでいく生徒たちは、皆明確な意見を持ち、学校側もそれらが実現できるようサポートしている。例えば給食。近年英国では肉料理だけでなく、ベジタリアン・フードを好む子どもが増えているが、英中部オックスフォードのスワン・スクール(The Swan School)では、ランチを完全にベジタリアン向けに変更した。これは、教師陣による「環境と持続可能性」を学ぶための教育の一環だそう。

また、英南西部デヴォンにあるティヴァートン・ハイ・スクール(Tiverton High School)では、2022年9月の授業に備え、全ての生徒がズボンを着用するジェンダー・ニュートラルなポリシーを導入した。こうした動きには賛否両論があるものの、その取り組みは頻繁にメディアに取り上げられている。

公立校の学区「キャッチメント・エリア」と優先制度

一般的なプライマリー、セカンダリー・スクールにおいては、公立校への入学条件の一つとして、日本の学区に相当する「キャッチメント・エリア」が定められている。イングランドの義務教育における各公立校のレベルにはかなりの差があることから、イングランドで子育てを行う家庭はこのキャッチメント・エリアを重視する傾向にあるが、各学校ではあらかじめ定員数が決められているため、人気校への入学は非常に厳しいものになる。

また、申請する子どもたちが学校の定員数より多ければ、キャッチメント・エリアをさらに狭い範囲に限定する「カットオフ・ディスタンス」の適用も珍しくない。入学にはハンディキャップの有無、さらには兄弟姉妹がすでに通学しているか否かも加味される。また学校によっては、学力や信仰を優先の入学条件としていることがある。

特殊なプライベート校とホーム・スクーリング

上記のような公立校以外にもさらに幅広い学びのスタイルが子どもたちに用意されていることを最後に紹介したい。まず、私立校の「シアター・スクール」。通常の学校より芸術活動に力を入れており、ダンスや演技を専門的に学びつつ中等教育も受けられるという学校だ。

また、ホーム・スクーリング(家庭教育)も政府から認められている教育法の一つ。新型コロナウイルスの影響で、2021年の調査では家庭教育に登録された子どもの割合が過去2年に比べ92パーセントも増加した。どんなタイプの子どもたちも、居心地よく学ぶ権利が均等に与えられている。

個々の主体性が重んじられる学校方針

 

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