ピンクの世界に包まれたい ロンドンの桜の名所5選
日本人にとって、春を語る上で桜はなくてはならない存在だが、うれしいことに、ここロンドンでも桜を愛でられるスポットがある。どこか神格化された日本の桜とは異なり、細い木々が連なってまるで花束のように見えるその姿は、芝生の緑との対比もあり一層華やかで幸福感に満ちあふれている。また花曇の下で見る桜も実に英国らしく、日本のお花見とは一味違ったみやびな景観を、ぜひカメラに収めてほしい。
最終更新日:16 February 2023
チェリー・ウォークで桜に出合うKew Gardens キュー・ガーデンズ
多種多様な桜を楽しめる大本命は、ユネスコの世界遺産にも指定されている巨大な王立植物園キュー・ガーデンズだ。どの桜も見目美しく手入れされている様子は、さすが西洋の植物園といったところ。中でもパーム・ハウス前のチェリー・ウォークは、こんもりとした豊かな花房を持つ桜が多く、春らしい光景が広がる。他にも色の異なる桜が集まる日本庭園と、チューリップと桜並木が同時に楽しめるテンぺラート・ハウス前は、絶好の撮影スポット。忘れずに訪れたい。
Kew Gardens
Royal Botanic Gardens, Kew, Richmond TW9 3AE
最寄り駅: Kew Gardens
入場料: 大人£17〜(オンライン価格)
詳細はHPにてご確認ください
www.kew.org
ピクニックも楽しめる、高台の桜並木 Alexandra Palaceアレクサンドラ・パレス
ロンドン北部にあるアレクサンドラ・パレスは、コンサートや花火大会など、大きなイベントで市民に利用されているべニュー。その正面に広がる丘に沿って、かわいらしい桜並木がある。ロンドンの他の桜スポットと比べ規模は小さいものの、高台にあるためロンドンの景色を一望しつつお花見が楽しめるという特典付き。天気の良い日に、ピクニックで一日のんびりするのがお勧めの過ごし方だ。園内にはローズ・ガーデンもあるので、初夏まで艶やかな花々を楽しめる。
Alexandra Palace
Alexandra Palace Way, London N22 7AY
最寄り駅: Wood Green / Alexandra Palace
オープン: 24時間
www.alexandrapalace.com
日本を想起させる淡いピンクの花びらSwiss Cottage スイス・コテージ
ロンドン北西部、地下鉄スイス・コテージ駅を出てすぐ、図書館とレジャー・センター方面に向かって広がる桜並木は、数ある桜スポットの中でも最も日本人に馴染み深く感じられるものかもしれない。ここにはまとまった本数のソメイヨシノが植樹されており、木々の下に立つとまるで日本にいるのかと錯覚してしまうほど。薄いピンクの花びらが風に吹かれ舞い散る様子は、えも言われぬ情緒がある。近くに公園もあり、親子連れも多く、平和な雰囲気が漂う。
Swiss Cottage
London NW3
オープン: 24時間
最寄り駅: Swiss Cottage
ロンドンの風景にマッチする桜St James's Park セント・ジェームズ・パーク
ロンドン中心部のグリーン・パークと隣接するセント・ジェームズ・パークは、市民の憩いの場であり、また多くの観光客も利用するが、春は特にさまざまな種類の花が咲き誇るとあり、いつにも増してにぎやかだ。ここではバッキンガム宮殿前の広場へ続く道の途中に桜が植えられているため、英国の風景に溶け込んだ桜が撮影できる。また桜は公園中央の湖の周りにもあり、こちらは水面に向かって枝が垂れ下がり、前者とはまた違った風情ある景観が楽しめる。
St. James's Park
London SW1A 2BJ
最寄り駅: St.James's Park / Charing Cross / Green Park
オープン: 5:00~0:00
www.royalparks.org.uk/parks/st-jamess-park
空からこぼれ落ちるように咲く桜のトンネルGreenwich Park グリニッジ・パーク
ロンドン南西部の王立公園、グリニッジ・パークには、濃いピンクの色合いが美しい桜並木がある。場所は公園の中央あたりで、ローズ・ガーデンのそばにあるジョージアン邸宅、レンジャー・ハウスに向かう道の途中だ。厚みのある八重桜が手毬のように密集して咲き、それらが頭上を覆い尽くす様子は一見の価値あり。桜の上背はそこまで高くないので、カメラを地上低くに構え、見上げるようにするとよりきれいな写真が撮影できるはず。
Greenwich Park
London SE10 8QY
最寄り駅: Greenwich
オープン: 2023年3月 6:00~19:00
*4月以降の詳細は、HPにてご確認ください。
www.royalparks.org.uk/parks/greenwich-park
桜はロンドン市内の随所で見られます
ロンドンの桜 お花見スポット
行く前に知りたい桜のプチ知識
おすすめの時期
その年の気候によって異なるが、ロンドンの場合、3月の中旬から4月上旬に開花する桜が多く、遅咲きの品種は5月上旬でも咲いているものがある。ロンドンにはさまざまな桜が植樹されているので、同じ地域に咲いていてもピークが異なり、例えば日本のように、地域ごとにパッと咲いて一斉に散る、ということがない。そのため、長期間にわたり桜を楽しむことができる。各情報データに撮影日を記載したので、参考にしてみてほしい。
桜の見分け方
英国でピンク色の花が咲く木を見たとき、「多分桜だけど何となく違う気がする」と感じたことがある人は、多いのではないだろうか。恐らくそれは、アーモンドやプラムなど、見た目がそっくりの花を見ているせいかも知れない。
桜の特徴を簡単に挙げると、
①花柄(花と枝をつなぐ茎部分)が長い、
②花びらの先が2つに割れている、
③幹に縞模様がある、などがある。
これに対しアーモンドは、枝から直接花が咲き、桜より10日~2週間ほど開花時期が早い。また、プラムは花が咲くと同時に葉も芽吹く。花びらではなく、その枝ぶりや花の付き方に注目すると判断しやすい。
桜でつながる日英の絆
桜の繁栄に貢献した英国人桜守
近年日本の各地で見られるソメイヨシノ。この桜は明治以降に主流になった品種であるが、英国ではこの桜を見る機会はあまりなく、むしろそれ以前に親しまれていた日本古来の品種が多く植えられていることに、日本人である私たちは驚いてしまう。一体誰が英国で桜を保護し、後世へ伝えたのか。その答えは、ロンドン生まれの英国人、コリングウッド・イングラム(1880~1981年)が握っている。イングラムは、日本から持ち帰った桜を自宅の庭で育てた桜の研究家で、日本国内で既に絶滅したと言われていた真っ白な大輪一重の桜、「太白(たいはく)」を1932年に日本へ里帰りさせ、再び甦らせるなど、数々の功績を残した偉大な人物だ。なお、太白桜は現在キュー・ガーデンズなどで見ることができる。
イングラム氏の興味深い人生については、阿部菜穂子さんが弊誌に執筆した「知られざる英国人桜守、『チェリー・イングラム』を追う」で詳しく紹介しています。また、阿部菜穂子さん著「チェリー・イングラム 日本の桜を救ったイギリス人」(岩波書店)の英語版「'Cherry' Ingram The Englishman Who Saved Japan’s Blossoms」が2019年3月にChatto & Windus社より発売されました。
桜の植樹プロジェクトが始動
このように、桜を通じた文化交流が日本と英国の間で続けられてきたが、2019年、民間企業が中心となって行う桜植樹のプロジェクトが本格的に始動。これは、正式に国交を開いて160年以上になる日英が、これまで築き上げてきた二国の友好関係と、今後のさらなる発展を願い、2020年から2021年にかけて、スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、イングランドの英国全域で行う試みだ。
王立公園を始め、学校や公共の場などに、一カ所につき1~100本、合計でおよそ4000本の桜が新たに植えられた。数ある桜のなかから、おなじみのソメイヨシノに加え、ピンク色が美しい八重桜の紅豊、前述のイングラムが復活させた真っ白な桜、太白桜の3品種が植樹されるという。色とりどりの桜が、英国の人々を喜ばせる存在になるまで約30年。その間、地元のコミュニティーが木々の成長を見守ることで、桜が次世代へと続く日英の友好の架け橋となる。
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