選挙戦における政治家のテレビ討論 6月の総選挙はどうなる?
来月8日、総選挙の投票日がやってきます。
選挙戦の大きな目玉の一つが、主要政党の党首同士によるテレビ討論です。テレビを使っての選挙討論というと、最も著名な例が米国のケネディ上院議員(民主党)とニクソン副大統領(共和党)との対決(1960年)です。第1回目の討論で若くはつらつとしたケネディ氏は落ち着いて、自信をもって議論を展開した一方で、病み上がりだったニクソン氏は精彩がなく顔に汗をかいていました。このとき、「大統領選の勝負がついた」と言われています。
英国でのテレビ討論の歴史は、実は長くありません。総選挙時に党首同士のテレビ討論をすべきという声は1960年代半ばからあったのですが、2大政党の保守党と労働党の党首が合意することがなく年月が過ぎました。野党側はテレビ討論を、支持者を増やす大きな機会ととらえるのに対し、与党側はボロが出て支持者を失うことを恐れるからです。2005年、労働党、保守党、自由民主党の党首がBBCの時事討論番組「クエスチョン・タイム」にそろって出演しましたが、互いに討論する形ではなく司会者からの質問にそれぞれ答える変則型でした。
米国の大統領選のような、政治家同士が互いに討論する本格的な形で実現されたのは2010年です。与党・労働党の党首で首相のブラウン氏、保守党のキャメロン党首、自民党のクレッグ党首が参加しました(役職は当時)。3つの放送局が担当し、3回にわたって放送されました。第1回目の討論で、国民の期待度が低かった自民党のクレッグ氏が会場内の聴衆の一人一人に語り掛ける手法を使い、党の支持率を急上昇させました。総選挙の結果、保守党と自民党は連立政権を組むことになります。
2015年の総選挙では、キャメロン保守党党首が政治討論に消極的な姿勢を見せました。テレビ局側が交渉し、厳しい質問を投げ掛けることで知られるジェレミー・パックスマン氏がキャメロン氏と労働党党首ミリバンド氏(当時)をBBCのスタジオに呼び、聴衆の前で個別にインタビューする形を取りました。別の日には「クエスチョン・タイム」にキャメロン氏、ミリバンド氏、クレッグ氏それぞれが30分間、聴衆からの質問に答える形の番組が放送されましたが、互いに討論をする機会にはなりませんでした。また、ITVは主要7政党の党首を迎えて、TV討論番組を放送しました。
さて、今年はどうなるかと思っていたところ、メイ首相は当初、テレビ討論への参加を拒否します。「各地を訪ね、有権者に会う」方が良い、というのです。メイ首相が参加しないなら「自分も参加しない」と労働党のコービン党首。複数の調査で保守党の支持率は労働党に20ポイントを超える差をつけているので、メイ首相は下手に討論番組に出て支持率が下がることを懸念したのでしょう。
その後も官邸とメディア側の交渉は続き、メイ首相は限定的ですがテレビの視聴者と繋がる形に合意しました。まず、18日にはITV1で、31日にはBBC1で主要7党の代表者(党首とは限らない)による討論番組が放送されます。メイ首相とコービン氏は出演しません。
6月2日、「クエスチョン・タイム」にメイ氏とコービン氏が出演しますが、互いに討論するのではなく会場の聴衆からの質問に答えます。4日は同番組でファロン自民党党首とスタージョン・スコットランド独立党党首が同様に質問を受けます。6月6日、BBCは若年層の聴衆をスタジオに呼び、7政党の代表者が質問に答える形の番組を、ラジオとBBCのニュース専門チャンネルで生放送。その後でBBC1で放送する予定です。
テレビ討論は英国の有権者にどれほどの影響を与えるのでしょうか。BBCの調査によると、2015年の総選挙では討論番組の放送直後、38%が影響を受けたと答えました。その後の調査では、普段は投票に出掛けない若者層や初めて投票する層に大きな影響力を発揮したことが分かりました。メイ氏とコービン氏がテレビ討論番組で一騎打ちをしたら、どうなっていたでしょう?