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Sun, 06 October 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

メイ政権を揺るがせる保守党のEU懐疑派、
リースモッグ議員に注目
- 次期首相候補という噂も

英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)まで、残るところ8カ月となりました。EUとの離脱交渉は10月までに終了している必要があるそうですが、「間に合うの?」と疑問が生じるような大迷走が続いています。

7月6日、メイ首相は公式別荘「チェッカーズ」に閣僚全員を招集し、交渉に向けての政府の基本方針について合意を取り付けました。でも、その2日後にはこれまで交渉の最前線に立ってきたデービッド・デービスEU離脱担当相が辞任し、翌日には離脱派を代表するボリス・ジョンソン外相も辞任。チェッカーズ合意がEUとの協調を優先した「ソフト・ブレグジット(穏健な離脱)」路線を明確にしたため、強硬派のデービス氏やジョンソン氏は閣内にとどまることが困難になったのです。

メイ首相は、関税同盟からも単一市場からも抜け出る、つまり「ハード・ブレグジット(強硬離脱)」を実現することを宣言していたのですが、40数年間も続いてきたEUと英国の関係を完全に断ち切るのは実際的ではなく、スムーズな離脱を求めるビジネス界からの意向もあって、強硬派からすれば「妥協」にも見えるソフト・ブレグジット的なチェッカーズ合意を選択せざるを得ませんでした。

現在、メイ首相にとって、無視できない存在となったのが、平議員のジェイコブ・リースモッグ氏(49)です。

英南西部ノース・イースト・サマセットの選挙区を代表するリースモッグ氏は、2010年に下院議員として初当選。見た目は英国の絵本「ウォーリーをさがせ!」の主人公で眼鏡と頭髪が特徴的なウォーリーにそっくりです。父親は「タイムズ」紙の元編集長で、一代貴族となったウィリアム・リースモッグ氏、母は保守党政治家の娘ジリアン・シェイクスピア・モリス。裕福な家庭に生まれ、幼少時は乳母に育てられた「乳母っこ」です。

名門イートン校からオックスフォード大学に進学し、大学の保守党系グループに所属。卒業後は投資銀行に勤務後、友人らと投資会社「サマセット・キャピタル・マネージメント」を立ち上げました。1997年と2001年に下院選挙に挑戦しましたが、夢はかなわず、当選したのは2010年です。

その政治信条は党内でも最右派で、筋金入りのEU懐疑派です。敬虔なカトリック教徒で、同性婚には反対の姿勢を取りました。富裕な家庭で育ち、名門校で勉強したリースモッグ氏は、上流階級に特有なアクセントの英語で、かつ一般的には使わない難しい言葉を使って話します。「18世紀の価値観を持った議員」と呼ばれることもあるのですが、テレビの風刺番組に出演した際には、その古風な様が逆におかしみを誘い、「面白いやつ」として国民に名前が知られるようになっていきます。

ただ、リースモッグ氏は単なる「面白いやつ」ではありませんでした。党内にある「欧州調査グループ」を率いる人物でもあるのです。このグループは、BBCによると、約60人の保守党議員が参加しているようです。最近では、「国民全員が恩恵を受ける」ブレグジットが実現されるよう、政府にロビー活動をする組織になっています。メイ政権のブレグジット交渉に不満を持つ保守党議員たちが、政権への不信任案を出すには、48人の議員の署名が必要ですが、もしこのグループがリースモッグ氏の指揮の下でメイ首相に反旗を翻したら大変です。

12日に政府が発表した離脱方針の詳細をまとめた白書については、「これでは国民が選択した離脱にならない」と一蹴しています。16日には離脱に向けての関税法案が下院で可決されましたが、リースモッグ氏率いる強硬派による修正を受け入れた法案でした。リースモッグ氏の影響力は無視できないほど大きくなっており、「将来の首相候補」という声が真実味をもって響くこのごろです。

キーワード

欧州調査グループ(European Research Group)

保守党内の調査組織の一つで、ブレグジットを調査対象とする。1992年ごろ、マーストリヒト条約の締結を通して、英国が欧州統合の動きに深く結びついていくことを懸念したマイケル・スパイサー下院議員により結成。総人数は現閣僚を含む約40~60人と推測されている(BBCによる)。
 

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