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Fri, 04 October 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

保守党党首選、いよいよ最終戦へ、ジョンソンかハントか - 秋までに総選挙の可能性もあり?

与党・保守党の党首選がいよいよ最終段階に入りました。全国の保守党員による郵便投票の結果が7月23日に出ますので、ここで党首が決まり、この人物が英国の首相に就任することになります。

郵便投票に至るまでの過程では二桁台の立候補者が出ましたが、候補者を絞るための保守党議員らによる複数回の投票で最後に残ったのは、ボリス・ジョンソン前外相(55)とジェレミー・ハント現外相(52)でした。ジョンソン氏は他の候補者を大きく引き離してダントツの票を集めました。同居するガールフレンドとの痴話げんかの様子が「ガーディアン」紙にスクープ報道されて将来の首相となる人物として品格を問われたものの、ジョンソン氏に対する支持率が大きく下落する気配はありません。このままいけば同氏が首相になるのはほぼ確実と言ってよいでしょう。

金髪のボサボサ頭が特徴的なジョンソン氏は、名門イートン校からオックスフォード大学に進みました。「デーリー・テレグラフ」紙の欧州特派員、政治雑誌「スペクテーター」の編集長を経て、2001年に下院議員として初当選。BBCのクイズ番組に出演してジョークを連発し、人気者になりました。08年から16年まではロンドン市長として活躍し、ロンドン五輪成功の影の立役者になりました。欧州連合(EU)からの離脱の是非を巡る国民投票(2016年)では離脱派運動を主導。「英国を国民の手に取り戻そう」と繰り返し、有権者の心をわしづかみにしましたよね。失言が多い政治家としても知られ、「テレグラフ」紙のコラムの中で、目以外の全身を覆うベールをかぶるイスラム教徒の女性を「郵便ポスト」に例えたこともあります。

一方のハント氏は、同じくオックスフォード大卒。1990年から2年間、日本の学校で英語を教えたこともあって、日本語が堪能です。実業家として経験を積んだ後、05年に下院議員に初当選し、10年、キャメロン政権下で文化・オリンピック・メディア・スポーツ担当相を務めました。その後は保健相となり、テリーザ・メイ首相が主導したEU離脱案に納得がいかないとジョンソン氏が外相を辞任すると、その後釜として抜擢されました。国民投票では残留派で、これまで政府の離脱協定案を支持する立場を取ってきました。

新保守党党首の最大の課題は英国のEUからの離脱(ブレグジット)の実現です。ジョンソン氏は、現在の離脱予定日10月31日に必ずブレグジットを実現すると宣言しています。将来のEUとの関係をどうするかについて合意を得ないままの「ノー・ディール(合意なき離脱)」も辞さない姿勢です。一方のハント外相は「もし、どうしても必要なら」という条件付きでノー・ディールを支持しています。EU側と話し合いを重ねることで、メイ首相が主導した協定案の修正版でEUと合意できると言っています。

でも、ジョンソン氏が党首に選ばれる可能性が高いため、ノー・ディールが現実味をもって語られるようになりました。

少し先を見てみましょう。ジョンソン新政権が発足したとして、10月31日までに下院で離脱協定案がまとまらない場合、この日を過ぎればノー・ディールでの離脱になってしまいます。下院ではノー・ディールに対する反対論が根強く、なんとかこれを止めようとする一方で、新政府は会期を終了(prorogation)させてしまうかもしれません。閉会になると下院では法案審議ができなくなり、そこで解散総選挙の道が浮上します。強制的な閉会を避けるため、ジョンソン政権成立後間もなくして最大野党・労働党が内閣不信任案を出し、これが可決されることもあり得ます。ジョンソン政権は意外と短命に終わってしまう可能性が出てきました。

キーワード

Prorogation((議会の)閉会)

議会の会期終了のこと。次の会期開始までの期間も指す。通常、議会は最長5年間(1年の会期が5回)続き、エリザベス女王が開始時に施政演説を行う。終了は女王の演説が上・下院で読み上げられる。会期開始・終了は女王の権限となるが、実際には政府が決めており、議会が合意なき離脱を阻止しようとした場合、新首相が女王に対し会期を終了させるよう働きかける懸念がある。
 

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