EU離脱の第2幕「自由貿易」「カナダ型」「オーストラリア型」とは? -
英政府とEUは年内に交渉合意できるか
英国の欧州連合(EU)からの離脱が実現して、3週間ほどが経ちました。来月から、いよいよ英政府とEU側は新たな関係構築に向けた交渉を始めます。
当面の懸案となるのが、貿易交渉です。ボリス・ジョンソン首相は3日、ロンドン市内で演説し、英国はEUと「カナダ型の包括的な自由貿易協定(FTA)を結びたい」と述べました。あるいは「オーストラリア型に近い」協定の締結を目指すそうです。昨年、与党・保守党の政治家らは、もし合意なき離脱になった場合は「世界貿易機関(WTO)の枠組みで」と言っていました。それぞれの言葉の意味を整理してみましょう。
まず、2018年時点で英国の貿易総額は1.3兆ポンド(約185兆円)に上りました(政府統計)。モノ(自動車、薬品など)の貿易額は8400億ポンド、サービス(金融、保険、会計、法律など)は4600億ポンド。EUとの貿易額は6419億ポンドで全体の約半分となり、対GDP比では61.3%を占めます。対EU貿易は昨年12月時点では輸出の38%、輸入の54%に上りました。EUとの貿易がいかに大きな位置を占めているかが分かりますね。
自由貿易協定(Free Trade Agreement=FTA)とは、貿易取引に対する数量制限、関税、輸出補助金などの国家の干渉を最小化あるいは撤廃し、自由に輸出入を行う貿易についての協定です。英国はこれまで、EUの関税同盟および単一市場の枠組みに参加してきました。関税同盟を結ぶことで加盟国間での関税が撤廃され、貿易の数量制限もなくなりました。加盟国以外からの輸入品には共通関税を設定しました。単一市場とは、EU域内が人、モノ、サービスおよび資金の自由な移動が可能な領域として機能することを意味します。今年年末までの移行期間終了後、英国は関税同盟からも単一市場からも抜け出ることになります。
ジョンソン政権はEUと「カナダ型の自由貿易協定」締結を目指しています。EUとカナダの自由貿易協定とは包括的経済・貿易協定(Comprehensive Economic and Trade Agreement=CETA)のことです。この協定では、取り引きする品目のほとんどが無関税となりますが、英国が強みを持つ金融を含むサービス分野では自由な相互参入を妨げる障壁が残っています。そこで、ジョンソン首相としてはサービス分野でのアクセスも含めた自由貿易協定を望んでいるのです。
もしこれがだめなら「オーストラリア型」を首相は希望すると述べましたが、現在、EUとオーストラリアの間に自由貿易協定は結ばれていません。2008年、貿易障壁を減らすための「EUオーストラリア提携フレームワーク」は合意されたものの、現状では「WTO ルール」が採用されています。ジョンソン首相が「カナダ型でなければオーストラリア型」という場合、EUと自由貿易についての合意が得られないままに移行期間を終える、という意味合いが出てきます。
WTOは貿易に関する一般的なルールを定め、多国間貿易体制の維持と強化を担う国際機関です。WTO ルールに従うならば、英国とEU間の貿易には関税がかかり、製品の承認過程や税関検査が導入されます。
EU側は無関税、数量無制限の対英貿易を目指しており、英政府もEUもFTA締結を目標に交渉を開始する予定です。でも、EU側は前提条件として英国が労働や税制、競争法、政府補助金などさまざまな分野でEUの水準に合わせることを主張しています。一方、ジョンソン首相は「FTAではEUのルールに従う必要はない」、「英国はEUより優れた規制基準を維持している」と述べています。現在の移行期間は、英政府とEU側が6月末までに合意すれば1~2年延長が可能です。ただし、ジョンソン首相は何度も「延長しない」と繰り返しており、またも「合意なき離脱」の危機となる可能性が出てきました。
WTO rules(WTO ルール)
国際組織「世界貿易機関」(WTO)の加盟国の間で、自由貿易協定を締結していない国同士の貿易に適用されるルール。164の加盟国は該当する国に対して輸入品に対する独自の関税、分量規制を設けている。英国がEUとの貿易でWTO ルールを採用する場合、EU向けの輸出物品のほとんどに関税がかかるのでEU内での英国製品の価格が上昇し、売り上げに影響する可能性がある。