Wonderland(1999 / 英)
ひかりのまち
伝言ダイヤルで恋人を探すナディア。シングル・マザーとして息子を育てながら、自由に恋愛を楽しむデビー。最近、夫と微妙な距離を感じる妊婦のモリー。ロンドンに暮らす3姉妹及びその家族の愛と日常を見つめたドラマ。
監督 | Michael Winterbottom |
---|---|
出演 | Shirley Henderson, Gina McKee, Molly Parkerほか |
ロケ地 | Old Compton Street |
アクセス | 地下鉄Leicester Square駅から徒歩 |
- どうもサユリさん。その後、例のカレシとはどんな感じですか?
- うん、まずまず順調かな。
- あれっ、ラブラブだった前回とは打って変わってあっさりしてますね。営業成績でも報告してるかのような口調ですけど。
- んー、歳とともに恋してる期間がどんどん短くなっていく気がするわ。まあ最初の1カ月ぐらいかな、楽しいのは。
- うわ、さめてるなあ。ところで彼と知り合ったきっかけって何でしたっけ。
- ミートアップ・パーティー。
- これまたベタですねえ。しかし「ひかりのまち」のナディアも必死にボーイフレンドを探してますよね。伝言ダイヤルというあたりが時代を感じさせますが。
- 実は私、この映画大好きなの。マイケル・ウィンターボトム監督が手掛けた中では地味な作品だとは思うけど、とっても心に染みる一本なのよ。主役であるワーキング・クラスの3姉妹にジーナ・マッキー、シャーリー・ヘンダーソン、モリー・パーカーと実力派女優が扮していて、どこにでもいそうな等身大の女性の心の機微を見事にとらえてる。描写がとてもリアルなのよ。
- ドキュメンタリー風のカメラ・ワークと、エフェクトをかけたような、ちょっとザラついた映像も功を奏してますよね。
- うん、まず私は冒頭のブラインド・デートのシーンですっかり引き込まれちゃったわ。どうにも期待外れな相手との微妙に噛み合っていない会話とか、酔っぱらいやハイな人たちでごった返す週末のソーホーの雑多な雰囲気、そしてそんな人ごみを掻き分けて一人、ガッカリした気分で歩いていくナディア。ああ、誰でも一度はこういう気持ちになったことあるよなあって、一気に共感を覚えてしまうのよ。
- ソーホーのOld Compton StreetからDean Street界隈を始め、セントラル・ロンドンの風景があちこちに出てきますよね。登場人物たちの満たされない気分や、一筋縄ではいかない日常と相反するかのように、街はきらきら輝いていて、夢と希望にあふれているかのようです。巨匠マイケル・ナイマンによるサウンド・トラックも見事にハマっていてホロリとさせられますね。
- ちなみにナディアが働いているカフェはOld Compton Street 27番地にかつて存在した「Duke's Bar」という店です。今は「Opuz Kitchen」というトルコ料理店になっていますが。
- ナディアがやっとピンときた相手、ティムとの一件も印象的だわ。男女の関係をもった途端に突然、押し寄せてきた不安。何を言われたわけでもないのに、相手の態度や表情が微妙に変わったことを感じ取ってしまうナディア。そして帰りのバスで思わず涙……。ああ、染みるわあ。
- そう言えばサユリさんも昔、よくバスの中で泣くって言ってませんでしたっけ(笑)。
- 気持ちが落ちてるとき、バスの中って妙に泣けてくるのよぉ。窓際席で、移り変わる街の景色や行き交う人々を眺めてると、この都市で漂っている自分が浮き彫りになるようで、思いが交錯するって言うか……。
- 随分と感傷的ですねえ。はっきり言って自分に酔ってません?
- うるさいわね。人知れず泣いてるんだからいいじゃない。
- バスの中で泣いている日本人がいたら、サユリさんかもしれないので、みなさん声を 掛けてみてください(笑)。
無数の人々が往来するロンドンで、しばしば痛烈に孤独を感じながらも、自分なりの幸せを探しながら生きている人たちの物語。何か特別なことを求めてるわけでもなく、ただ普通にハッピーでいたいだけなのに、どうしてなかなかうまくいかないんだろう……。少しでもそんなふうに思ったことがある人なら、この映画を観てきっと何か感じるものがあるんじゃないかしら。ちょっと切ないけど、優しさあふれる一本よ。
< 前 | 次 > |
---|