18歳未満の利用防止を義務付け
日焼けサロンの規制法が成立
英国のハイストリートでは、「Tanning Shop」などの看板を掲げた日焼けサロンを見つけることが珍しくない。「1分50ペンス」などの格安料金を提示する店も目立つが、つい最近まで利用者の年齢規制がなかったため、10代の少女たちの皮膚がん発病のリスクを高めているなどとして批判されていた。
英国における悪性黒色腫の発症数
*悪性黒色腫(Malignant Melanoma)とは、最も悪性の皮膚がん。「メラノーマ」とも呼ばれる。 上記は2006年の統計。
Source: Cancer Research UK
英国における悪性黒色腫による死亡者数
*2007年の統計。Source: Cancer Research UK
皮膚がんのリスクがあるとしても、
日焼けマシンを使いたいですか?
*「ガーディアン」紙のウェブサイトが
2009年7月に実施したアンケート調査の結果。
皮膚がんに関する情報
- 皮膚がんは、「非黒色腫型(Non-Melanoma)」と「悪性黒色腫(Malignant Melanoma)」に分けられる。より深刻で、死亡率が高いのは後者である。
- 英国における悪性黒色腫の罹患率は、1970年代以降、4倍に増えている。
- 英国における悪性黒色腫の患者の特徴は、他のがんに比べて比較的年齢が低 いことであり、3分の1は50歳未満である。
- 英国の15〜34歳のがん患者のうち、最も多いのが悪性黒色腫の患者である。
- 34歳以下の世代で比較すると、女性の悪性黒色腫の患者の数は男性の2倍に 上る。しかし、男性は、症状が深刻化するまで病院に行かない傾向があるため、悪性黒色腫による死亡者の数は、女性より男性が多い。
- 英国で、過去25年間、すべてのがんの中で最も発症率が増えているのが悪性黒色腫である。
- 英国における2008年の皮膚がんによる死亡者数は約2500人。うち悪性黒色腫による死者は2000人以上。
- 全世界で見ると、悪性黒色腫の発症率が最も高いのはオーストラリアとニュージーランドである。
日焼けは富と健康の象徴
総選挙のため国会が解散する直前だった4月初旬、日焼けサロン利用の規制法として、「2010年日焼けマシン(規則)法(Sunbeds (Regulation) Act 2010)」が制定された。同法は、イングランドとウェールズを対象としており、18歳未満の少年・少女による日焼けマシンの利用を防止することを日焼けサロンに対して義務付けている。
「色白」すなわち「美」であるとの考えが浸透し、「美白」化粧品が売れる日本と違って、英国では、日焼けした肌こそ魅力的であると考えられている。海外旅行が身近になった20世紀以降、日焼けをしていることは、休暇でリゾート地へ行ける金銭的余裕があることの象徴であると見なされるようになり、現在も、透き通るような真っ白い肌が「不健康」や「貧困」を表す一方、褐色の肌は、富とグラマラスなライフスタイル、健康やバイタリティーと同義語であると考えられている。
10代少女の日焼けサロン利用目立つ
日焼けを魅力的であると捉えるのは特に若い女性に多く、一年中肌を小麦色に保ちたいばかりに、日焼けサロンに通う人が少なくない。しかし、日焼けサロンに設置されている日焼けマシンは、肌に人工的に紫外線をあてるため、皮膚がんとの関連が常に指摘されてきた。世界保健機構(WHO)の下部組織である国際がん研究機構(IARC)は昨年7月、日焼けマシンの使用による発がんリスクを、たばこやアスベストと同程度のレベルに引き上げている。
さらに英国における日焼けサロンの問題の一つは、年齢規制がないために、背伸びをしたい年頃のティーンエイジャーの少女たちの利用が少なくないことであった。がん研究の助成機関である「英国がん研究(Cancer Research UK)」が以前発表した調査結果によると、イングランドにおける11〜17歳の少年・少女の日焼けサロン利用率は平均6%であった。しかし、大人も含めて日焼けサロンの利用率が特に高いイングランド北西部リバプール市及び同北東部サンダーランド市では、15〜17歳の日焼けサロン利用率がそれぞれ50%近くに達するという統計も出ている(日焼けサロン利用率は全般に貧困地域で高い)。また、IARCの調査では、30歳以前に日焼けマシンの使用を開始すると、将来皮膚がんを発症する確率が75%も高くなることが分かっている。
無人施設の規制は後回しに
冒頭で述べた新法は、こうした状況を受け、ティーンエイジャーの日焼けサロン利用を禁止することを目的に制定された法律であった。スコットランドでは既に昨年末、同様の法律が施行されており、それに続くものとなる。
なお、新法は、従業員が配置されておらず、客が日焼けマシンに硬貨を投入することによって自由に利用できる無人日焼けサロンの規制について、将来、二次立法の制定によって実施すると規定するにとどまったため、不十分であるとの声も聞かれる。無人施設では、当然のことながら10代の少女たちの利用を防ぐことが不可能であり、せっかくの新法も効果が半減する。これについては、新連立政権による早期の対応が期待されるところである。
Instant Tan
ローション、クリームまたはスプレー状の化粧品で、体に塗ったり、吹き付けることで、日焼けした時と同様に肌の色を変えることができる。日光浴や日焼けマシンを使用し、皮膚がんを発病するリスクを冒さなくても小麦色の肌が手に入るため、若い女性などに使用者が多い。「Sunless Tanning」、「Self Tanning」、「Fake Tanning」などとも呼ばれる。インスタント・タンをエアブラシで客の体に吹き付けるサービスを提供するサロンもある。ロレアル、ランコム、クラランスなどの大手から小規模メーカーまで様々な商品が販売されている。(猫)
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