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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

テレビ局「ファイブ」の買収について

タブロイド紙抱えるメディア会社が新オーナー
テレビ局「ファイブ」の買収について

地上波テレビ局の中でも、BBCやITVなどに比べて番組の話題性が乏しく、これといった特徴に欠けるのが「ファイブ」である。そんな同局が最近、タブロイド紙などを所有する英国のメディア会社に買収された。メディア業界をにぎわしたこの買収のニュースについて、その背景などを解説する。


民放テレビ局「ファイブ」の歩み
1995年 公募の結果、「チャンネル・ファイブ・ブロードキャスティング社」が、英国第5の地上波テレビ局の放送免許を獲得。「チャンネル・ファイブ・ブロードキャスティング社」は、後にBBCの会長となるグレッグ・ダイク氏率いるピアソン・テレビ社、MAI社など4社のパートナーで構成されていた。
1997年 「チャンネル・ファイブ」が開局。開局のセレモニーには、当時大人気だったアイドル・グループ、スパイス・ガールズが参加し、華やかに行われた。開局費用は2億5400万ポンド(約340億円)だった。
1999年 視聴者数増加を狙い、深夜にアダルト番組の放送を開始。
2002年 局のイメージ刷新のため、名称を「チャンネル・ファイブ」から「ファイブ」に変更。
2005年 欧州最大のメディア・グループであるRTLグループがオーナーとなる。
2006年 デジタル・チャンネル「ファイブ・ライフ(Five Life)」及び「ファイブUS(Five US)」が開局。 「ファイブ・ライフ」は後に「ファイバー (Fiver)」に改称。
2007年 カプリンスキーBBCの看板ニュース・キャスター、ナターシャ・カプリンスキーさんが年棒 100万ポンド(約1億3300万円)の契約でファイブに移籍。
2009年 景気後退のあおりでコマーシャル収入激減。年間の営業損失額が830万ポンド(約11億円)に達する。
2010年 リチャード・デズモンド氏率いるノーザン・アンド・シェル社が「ファイブ」を買収。買収額は1億400万ポンド(約139億円)。

ファイブの代表的番組

CSI: クライム・シーン・
インベスティゲーション
(CSI: Crime Scene Investigation)

米CBSの犯罪ドラマ・シリーズ。2005年に「ファイブ」が英国での放映権を獲得。

ネイバーズ(Neighbours)
オーストラリアのソープ・ドラマ。2007年に「ファイブ」が英国での放映権を獲得。

ミルクシェイク(Milkshake)
2〜7歳を対象にした子供番組。「きかんしゃトーマス」「ペッパ・ピッグ」など子供に人気の番組を数多く放映。

ザ・ガジェット・ショー(The Gadget Show)
最新の技術を使った機器(ガジェット)を紹介する番組。

ザ・ライト・スタッフ(The Wright Stuff)
マシュー・ライト司会のチャット・ショー。平日の午前に毎日放映。

フィフス・ギア(Fifth Gear)
自動車情報番組。新車の紹介など。


主要テレビ局の年間平均視聴率(%)

BBC1 BBC2 ITV Channel4 FIVE その他
1997 30.8 11.6 32.9 10.6 2.3 11.8
1998 29.5 11.3 31.7 10.3 4.3 12.9
1999 28.4 10.8 31.2 10.3 5.4 14.0
2000 27.2 10.8 29.3 10.5 5.7 16.6
2001 26.9 11.1 26.7 10.0 5.8 19.6
2002 26.2 11.4 24.1 10.0 6.3 22.1
2003 25.6 11.0 23.7 9.6 6.5 23.6
2004 24.7 10.0 22.8 9.7 6.6 26.2
2005 23.3 9.4 21.5 9.7 6.4 29.6
2006 22.8 8.8 19.6 9.8 5.7 33.3
2007 22.0 8.5 19.2 8.6 5.1 36.7
2008 21.8 7.8 18.4 7.5 5.0 39.5
2009 20.9 7.5 17.8 6.8 4.9 42.1

Source: Broadcasters' Audience Research Board

視聴者シェアは地上波で最低

7月末、地上波民放テレビ局「ファイブ(Five)」が売却され、大きなニュースとなった。これまで同グループを所有していた欧州最大のメディア会社、RTLグループが、リチャード・デズモンド氏率いるノーザン・アンド・シェル社に売却したもので、買収額は1億400万ポンド(約139億円)であった。

「ファイブ」は1997年に開局。番組構成は娯楽系が中心で、自社制作番組のほか、「CSI: クライム・シーン・インベスティゲーション」や「ネイバーズ」、「ホーム・アンド・アウェイ」などの海外の番組を数多く放送している。テレビ局別に平均視聴率を調べる統計では、開局以来、地上波5局の中で常に最下位にとどまっていることが示されており、だいたい4〜6%台で推移している。

ファイブは、2008年から始まった不況の影響によるコマーシャル収入の減少で大きな打撃を受け、昨年の営業損失額は830万ポンド(約11億円)に上っていた。昨年には、やはりコマーシャル収入の低下に悩むチャンネル4との合併話も出ていたが、実現には至らなかった。こうした背景から、RTLグループはファイブの売却先を募ることになり、先月末、ノーザン・アンド・シェル社との交渉がまとまったのである。

2000億ポンドの経費削減策

リチャード・デズモンド氏は、1974年にノーザン・アンド・シェル社を創設。ポルノ雑誌の発行で成功し、財を成した。2000年にはタブロイド紙「デーリー・エクスプレス」、「デーリー・スター」などを発行するエクスプレス・ニュースペーパー社を買収している。

大胆なコスト削減策を実行してきたことで知られるデズモンド氏だが、その評判に違わず、「ファイブ」でも、買収から間もない8月中旬、早くも2000万ポンド(約26億円)の経費削減に踏み切ることを明らかにした。今後、社員300人のうち60〜80人が解雇され、役員は9人中7人が社を去ることになるという。

「トップ・オブ・ザ・ポップス」が復活か

しかし同氏は同時に、今後5年間、計15億ポンド(約2000億円)を「ファイブ」に投資し、番組制作及び宣伝等に充てることも明らかにした。また、2002年に「チャンネル・ファイブ」から「ファイブ」に変更されていた局の名称を、再び「チャンネル・ファイブ」に戻すとの発表もあった。

「ファイブ」の今後の番組についてデズモンド氏は、「コロネーション・ストリート」や「Xファクター」、BBCの時事番組「パノラマ」など他局の人気番組を放送したいとの希望を語っている。また、チャンネル4での放送が今シーズンで終了した実験ドキュメンタリー番組「ビッグ・ブラザー」や、2006年に終了したBBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」を「ファイブ」で復活させることを目論んでいるとも伝えられている。

更には、ノーザン・アンド・シェル社が発行する芸能誌「OK!」のテレビ番組版を制作するのではなどといった推測もある。地味でマイナーな存在の同局であるが、これを機に、BBCやITVといった大手テレビ局と肩を並べる存在となれるのか、デズモンド氏の手腕に期待がかかっている。

Richard Desmond

メディア会社ノーザン・アンド・シェル社所有者。1951年、ロンドン生まれ。中学卒業後、新聞社にクラシファイド欄担当として入社。その後21歳までにレコード店を2店所有。1974年にノーザン社創設。米男性誌「ペントハウス」英国版の出版権を獲得したほか、複数のポルノ雑誌を発行し、成功を収める。同社は2000年、エクスプレス・ニュースペーパー社を買収。また、「Television X」などのテレビのアダルト・チャンネルを所有している。昨年の「タイムズ」紙の長者番付によると、デズモンド氏の資産総額は9億5000万ポンド(約1268億円)。

(猫)

 

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