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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

2018年サッカーW杯招致と言論の自由 -サッカーの母国イングランド落選

サッカーの母国イングランド落選
2018年サッカーW杯招致と言論の自由

サッカーの母国イングランドが、2018年ワールド・カップ(W杯)開催地投票でまさかの落選をした。予想外の結果に戸惑うイングランドの関係者の間では、英メディアによるFIFA不正疑惑報道のタイミングとあり方を疑問視する声が上がっている。

イングランド18年W杯招致投票落選まで

2007年 10月 イングランド・サッカー協会(FA)が2018年と22年に実施のFIFAサッカーW杯開催国に立候補する旨決定。
2009年 1月 招致ブックを正式にFIFAに提出。
3月 イングランド・プレミア・リーグのデイブ・リチャーズ会長がイングランドW杯招致委員会副会長に任命される。
5月 W杯招致活動開始イベントがウェンブリー・スタジアムで開催され、ゴードン・ブラウン前首相、デービッド・ベッカム選手、ウェイン・ルーニー選手らが出席。
10月 イングランド招致委員会からFIFA理事会へブランド・バッグが贈与されていたことが発覚。
11月 ジャック・ワーナーFIFA副会長がブランド・バッグをイングランドW杯招致委員会に返却。プレミア・リーグのリチャーズ会長がイングランドW杯招致委員会副会長を辞任。
2010年 5月 「メール・オン・サンデー」紙が、イングランドW杯招致委員会委員長兼FA会長のデービッド・ トリーズマン卿の元愛人メリッサ・ジェイコブスが秘密裏に録音した同卿のFIFA不正疑惑に関する音声テープを公開。トリーズマン卿は両職を辞任。また、同報道に対する抗議として、イングランドW杯招致親善大使で元Jリーグ選手のギャリー・リネカー氏が同紙へのコラム掲載を打ち切り。ベッカム選手が約1700ページにわたる招致ブックをFIFAのブラッター会長に提出。
10月 イングランドW杯招致委員会が、2022年本大会の招致を断念。「サンデー・タイムズ」紙がおとり取材を実施し、米国招致団を装い米国への投票を持ちかけた同紙の記者に対して、投票の見返りとしてオセアニア・サッカー連盟レイナルド・テマリィ会長が150万ポンド(約2億円)、西アフリカ・サッカー連盟アモス・アダム会長が50万ポンド(約6600万円)の賄賂を求める映像を公開。両者は理事職務の暫定的な停止処分を受ける。
11月 BBCは調査報道番組「Panorama: Fifa's Dirty Secrets」で、南米サッカー連盟ニコラス・レオス会長、ブラジル・サッカー連盟リカルド・テイシェイラ会長、及びアフリカ諸国代表イサ・ハヤトゥーFIFA副会長らFIFA理事3人が、1989年から10年間にわたり175回に分けて、国際スポーツ・マーケティング会社ISL(2001年倒産)から総額1億ドル(約83億円)の賄賂を受けていたと同時に、北中米カリブ海サッカー連盟ジャック・ワーナー会長が2006年独大会と10年南ア大会の入場券をダフ屋に横流しして多額の利益を取得していたと報道。
12月 18年W杯招致投票でイングランドの落選が決定。

FIFAサッカーW杯開催国

FIFAサッカーW杯開催国

1930年 ウルグアイ
1934年 イタリア
1938年 フランス
1942年
第二次大戦勃発のため中止
1948年 第二次大戦勃発のため中止
1950年 ブラジル
1954年 スイス
1958年 スウェーデン
1962年 チリ
1966年 イングランド
1970年 メキシコ
1974年 ドイツ(旧西ドイツ)
 
1978年 アルゼンチン
1982年 スペイン
1986年 メキシコ
1990年 イタリア
1994年 米国
1998年 フランス
2002年 日本・韓国
2006年 ドイツ
2010年 南アフリカ
2014年 ブラジル
2018年 ロシア
2022年 カタール

予想外だったイングランドの惨敗

2018年FIFAサッカーW杯開催地投票で落選が決まった瞬間、イングランド元代表主将デービッド・ベッカム選手ら同W杯招致委員会のメンバーは、この予想外の惨敗に目を伏せるしか術がなかった。1966年以来2度目の開催を目指していたサッカーの母国イングランドの獲得票はわずか2票で、開催地の座はロシアに奪われた。  

婚約発表で世界を沸かせたウィリアム王子を最終プレゼンに登板させるなど、イングランドW杯招致委員会のメンバーは万全の態勢で投票に臨んだとみられていた。また同地はW杯開催に必要な大型スタジアムや宿泊施設、交通手段や治安面などを含めた、サッカーの試合を行う上での環境面で高い評価を得ており、18年W杯開催候補地として有力視されていた。

英紙のオウン・ゴール?

今回の「まさか」の落選は、英メディアによるFIFA理事会の不正疑惑報道が影響した可能性が高いとの指摘がある。つまり、味方にすべきFIFAの理事を敵に回してしまったことから、イングランドが自ら招いた「オウン・ゴール」だったとする見解である。

まず本年5月、「メール・オン・サンデー」紙が、「南ア大会でロシアが審判の買収に協力することと引き換えに、スペインは18年W杯招致の立候補を取り下げるかもしれない」と、FIFAの不正事実を認めるような発言をFA会長兼イングランドW杯招致委員長のトリーズマン卿が行ったと報じた。続いて10月、「サンデー・タイムズ」紙が、おとり取材中に票確約の合意とその見返りとして高額な賄賂を求めるFIFAの理事2人とのやり取りを撮影した映像を公開。更には、W杯開催地の選考投票を間近に控えた11月、BBCが、1989年から99年の間、FIFAの理事3人が関連企業ISLから計1億ドル(約83億円)の賄賂を受け取っていたとし、また、親英とされていたジャック・ワーナーFIFA副会長が、W杯の入場券を不法に転売し大金を取得していたとも報じた。イングランドの招致活動には同副会長の後押しが不可欠とみられていたことから、イングランドW杯招致委員会は同報道のタイミングと意図に首を捻り、「BBCは愛国心を欠く」と非難した。

W杯開催地か言論の自由か

「W杯未開催の国を選ぶという方針」に基づき決定したとされるロシア(18年)とカタール(22年)だが、事前に発表された報告書では、気候や設備施設、及び治安情勢などからサッカーの試合を行う環境面で「リスクが高い」と酷評を受けていた。また、今般の招致活動に費やした金額は、英国が1500万ポンド(約20億円)、ロシアが2500万ポンド(約33億円)、カタールが1億ポンド(約130億円)とも推定されており、FIFA理事会の投票は天然ガスと石油といった資源マネーに買収されたとの見方もある。

もし今般の投票結果が英メディアによるFIFA批判のツケであったとしたら、言論の自由の尊重と引き換えにイングランドが払った代償は大きかったとも言える。FIFA内部の腐敗体質とスポーツ精神に反した不正行為を世界に知らしめた英メディアを賞賛する声もあるが、今般の報道が真の評価を受けるのは、FIFAにフェア・プレーの精神が根付いてからになるのかもしれない。

FIFA

国際サッカー連盟。1904年5月、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、フランス、ベルギーの8カ国で創立。現在208の国と地域が加盟。本部はスイスのチューリッヒ。理事会は、会長1名、欧州8名、アジア・アフリカ各4名、北中米・南米各3名、オセアニア1名の計24名から構成され、各々1票ずつ投票権を持つ。FIFA傘下の大陸連盟は、アジア・サッカー連盟(AFC)、アフリカ・サッカー連盟(CAF)、欧州サッカー連盟(UEFA)、オセアニア・サッカー連盟(OFC)、北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)、南米サッカー連盟(CONMEBOL)の6つ。

(吉田智賀子)

 

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