英国はどこまで関与すべきか
債務問題で揺れるギリシャ
財政危機に見舞われているギリシャが債務不履行状態に陥らないようにと、現在、世界各国が躍起となっている。ギリシャが加盟する欧州連合(EU)の首脳陣は、先月末、昨年に引き続き支援策を実施することに同意した。ユーロ圏ではないがEU 加盟国の英国は、ユーロを導入したギリシャにどこまで手を貸すべきなのだろうか。ギリシャにおける危機の実態に注目した。
ギリシャ共和国の基礎知識【公用語】 ギリシャ語【首都】 アテネ 【人口】 約1100万人 【歴史】 古代ギリシャのポリス(都市国家群)の発生が紀元前800年頃。全市民参加の直接民主制が採用され、これが民主主義政治の原点とされる。紀元15世紀以降はイスラム王朝のオスマン帝国の支配下に。1829年の同帝国からの独立承認後、ギリシャ王国を築いた。第一次大戦でトルコからクレタ島を奪回。1946〜49年の内戦を経て、1967年から軍事政権に。1974年に君主制を廃止し、共和制へ。1981年、欧州連合(EU)に加盟。 【政治】 カロロス・パブリアス大統領、首相ヨルゴス・パパンドレウ。議会は一院制で300議席、任期4年 【主要産業】 海運、観光、農業、軽工業、製鉄、造船 【GDP】 3575億ドル(2008年、IMF調べ) 主な貿易相手国: 輸出はドイツ、イタリア、英国、ブルガリア、米国。輸入はドイツ、イタリア、フランス、ロシア、英国。日本からは恒常的に輸入超過状態にある。 (Source: 外務省、BBCほか) |
ギリシャに対する債権を持つ国
(銀行及び民間部門の貸付と政府の貸付の総合額)
ギリシャ債務の内訳(%)
雪だるま式に増えた債務
ギリシャの債務問題解決のため、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)の首脳陣は6月24日、同国に対して総額1200億ユーロ前後(約13兆円)の第2次金融支援を実施することで合意した。
ギリシャは現在、債務不履行となる一歩手前にいると言われている。仮に同国が不履行に陥った場合、英国を含む欧州経済や世界経済全体に多大な影響を及ぼす。国内で大規模な財政削減策を実行中のこの時期に、「なぜ他国への金融支援を行わなければならないのか」と問う声も出ている。
ギリシャでは、近年、債務が雪だるま式に増えており、経済の重荷になってきた。政府が巨額の借り入れを行ったために公的部門の歳出が膨張。公務員の給料に至っては過去10年間でほぼ2倍となった。国内では脱税が多いと言われ、政府は十分な税収を得られない状態が続いた。加えて、2008年秋のリーマン・ショックをきっかけとした世界金融危機や、翌年10月の総選挙後に新政権によりこれまで旧政権が行ってきた財政赤字の隠ぺいが暴露されたことがギリシャ経済を大きく傾かせる要因となった。とりわけ、財政赤字隠ぺいの発覚は深刻である。ギリシャ政府は同国の財政赤字が国内総生産の4%程度と発表してきたにも関わらず、実はその額は同13%近くに膨らみ、債務残高も同113%に上っていたのだ。
世界各国が恐れる債務不履行
今回、ギリシャが第2回目の支援策を受けることになったのは、同国が債務を削減するために自力で資金を調達しようにも、金融市場を通じて十分な借り入れをすることができなくなったからだ。第1次支援の申請時点で年8%だったギリシャ国債の利回りは、最近では年17%台にまで上昇している。さらに6月中旬には、米格付け会社スタンダード & プアーズがギリシャの長期国債の格付けを「B」から「CCC」に3段階引き下げた。別の格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスも先月、「債務不履行に陥る可能性は50%」と発表。現在のギリシャは、昨年5月より実施されている第1次金融支援策による借り入れ分も満足に返済できない状態に陥っている。
また、財政危機は既にユーロ圏の各国で発生中だ。アイルランドはギリシャに続いて昨年11月に金融支援を申請し、今年4月にはポルトガルが続いた。支援後も両国の国債利回りは上昇し続けており、もしギリシャが債務不履行となれば、アイルランド、ポルトガルも同様に不履行に陥る確率が高くなる。
英国に与える影響
国際決済銀行によれば、ギリシャの国家債務の中で、英国の銀行が負担しているのは34億ドル(約2733億円)だ。これはドイツの226億ドル、フランスの150億ドルと比較すればやや小さい額かもしれない。しかし、ギリシャの民間銀行への債務分を入れると、英国の負担は146億ドル、ドイツは340億ドル、フランスは567億ドルにも上る。こうした各国がいつまでも資金提供を続けることなど、当然できない。英国のキャメロン首相を含め、欧州各国の首脳陣がギリシャ支援に力を入れるのは無理もない状況なのである。
Euro
ユーロ。欧州単一通貨。欧州23カ国が法定通貨として使用している。うち欧州連合(EU)加盟国は17カ国。1999年1月に決済用仮想通貨として導入され、2002年1月から現金通貨が発足した。一時はドルに次ぐ第2の基軸通貨になると言われたが、近年の通貨危機により、存続自体を危ぶむ声も出ている。独フランクフル トに本拠地を置く欧州中央銀行(ECB)が、役員会とユーロ圏各国の中央銀行総裁で構成される理事会を通じてユーロに関わる政策を決める。ECBの総裁はフランス人銀行家のジャン=クロード・トリシェ。(小林恭子)
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