高級家具大手「ハビタ」が倒産など
業績不振が続く英国の小売業界
高級家具チェーン「ハビタ」の倒産は、同店が英国を代表するブランドの一つであるだけに、一部の人には大きなショックを与えたが、現在の小売業界の状況を考えれば、驚くべきニュースではなかった。今回は、ハビタのみならず、大手小売店の多くが業績不振で倒産や店舗閉鎖に追い込まれている件について取り上げる。
今年に入ってからの
小売業者の倒産、店舗閉鎖など
1月 | ● 書籍・文房具小売「ブリティッシュ・ブックショップス・アンド・ステーショナーズ」が倒産。一部店舗を同業の「WHスミス」が買収。 |
2月 | ● スポーツ用品小売「JJBスポーツ」が、今後2年間で95店舗を閉鎖する と発表。 |
3月 | ● カジュアル衣料販売「ヘンリーズ・クロージング」が倒産。全店舗を閉鎖。 ● 男性用カジュアル衣料販売「オフィサーズ・クラブ」が倒産。一部店舗を同業の「ブルーズ・インク」が買収。 |
4月 | ● 酒類販売「オドビンズ」が倒産。一部店舗を同業の「ウィッタルズ・ワイン・マーチャンツ」が買収。 |
5月 | ● DIY用品小売「フォーカス」が倒産。一部店舗を同業の「B & Q」などが買収。 ● 音楽ソフト等小売「HMV」が、国内60店舗の閉鎖を発表。 ● ベビー用品小売「マザーケア」が、今後2年間で110店舗を閉鎖すると発表。 |
6月 | ● オーダー家具販売大手の「ホーム・フォーム」が倒産。 ● 高級家具「ハビタ」が倒産。ロンドン内の3店舗とハビタのブランド使用権を「ホーム・リテール・グループ」が買収。 ● チョコレート販売「ソーントンズ」が、今後3年間で最高180店舗を閉鎖すると発表。 ● 婦人服販売「ジェーン・ノーマン」が倒産。一部店舗を同業の「エディンバラ・ウーレン・ミル」が買収。 ● ディスカウント・デパート店「TJヒューズ」が倒産。 ● カーペット販売「カーペットライト」が、今年4月30日までの1年間における税引き前利益が前年比70%減であったと発表。 |
倒産に追い込まれた老舗の家具ブランド「ハビタ」(写真:左)と、
今後3年間で180店舗を閉鎖予定のソーントンズ(写真:右)
小売業界の今後に関するアンケート調査
消費者の景況感が改善すれば、 小売業界の状況は好転すると思う | |
小売業界には今後も 悪いニュースが続くと思う | |
(*)「ガーディアン」紙が6月、同紙ウェブサイト上で行った調査の結果 |
ハビタ3店舗はアルゴスと同グループに
先月6月、ハイストリート(*)でよく見かける小売大手の倒産や店舗の閉鎖などのニュースが相次いで報じられた。そのうちの一つは、老舗の高級家具大手「ハビタ」で、ロンドン内の3店舗を、カタログ販売の「アルゴス」などを所有する「ホーム・リテール・グループ」が買収し、残りの国内30店舗は、破産管財人の管理下に入ることになった。ハビタは1964年創業の英国を代表する家具ブランドであるが、近年は業績不振が続いていた。このほかにも、婦人服チェーン「ジェーン・ノーマン」が倒産したほか、チョコレート小売チェーン「ソーントンズ」が、今後3年間で最高180店舗を閉鎖すると発表。また、マンチェスターを拠点とするオーダー家具販売大手の「ホーム・フォーム」及びリバプールを拠点とするディスカウント・デパート店「TJヒューズ」が倒産するなど、小売業界の厳しい現状が浮き彫りになった。
可処分所得が大きく減少
小売業界の大手が次々と破たんしている背景には、英国の一般家庭の苦しい台所事情がある。今年1月からの付加価値税(VAT)の引き上げに、食品価格やガソリン代の高騰。政府目標の2倍以上に達しているインフレ率。上昇する物価と対照的に頭打ちの給与と雇用不安。こうした要素が合わさって、多くの消費者が、生活必需品以外の買い物を控えるようになっている。国民統計局(ONS)が6月末に発表したところによると、2011年第1四半期(1〜3月)における英国の家庭の実質可処分所得は、前年同期比で2.7%減と、1977年以来で最大の減少となった。また、調査会社「GfK NOP」は同じく6月末、同月における英国の消費者信頼感指数が、前月比4ポイント減のマイナス25となったことを明らかにしている。なお、ONSによると、英国の2011年第1四半期の国内総生産(GDP)は、前期比0.5%増にとどまった。
しかし、ハイストリートに吹く逆風は、これだけではない。インターネットの普及によるオンライン・ショッピングの利用増加で、多くの小売業者が、より安い値段で商品を提供できるネットショップに顧客を奪われている。その典型的な例と言えるのが、「アマゾン」などのウェブサイトの人気の煽りを食って低迷が続いている音楽ソフト等小売大手「HMV」であり、最近も、今年4月末までの1年間におけるグループ全体の売上が7.4%減であったことを発表したばかりである。
小売業回復はまだ先か
連立政権による公共支出削減が国民の生活に影を落とし始め、近い将来の光熱費値上がりと、来年の公定歩合引き上げが見込まれる中、消費者の財布の紐は、しばらくは固いままであろうと予想される。専門家によると、特に家庭用品、家具、大型電気製品などの価格の高い商品を販売する小売業者は、消費者の買い控えによる打撃を強く受けており、今後も倒産や店舗閉鎖のニュースが聞かれる可能性が高い。バーゲン期の現在、街では至るところで「SALE」のポスターが目につくが、英国のハイストリートに数年前の活気が戻るのは、まだ先のことになりそうである。
(*) 小売店やオフィスなどが並ぶ街の最も大きな商店街のこと。
Habitat
英国の高級家具小売チェーン。1964年、家具デザイナーのテレンス・コンラン氏がロンドンのチェルシーに第1号店を開店。その後、国内で順調にビジネスを拡大させた後、1973年、パリに初の海外店舗を出店した。1981年、ロンドン証券取引所に上場。1992年、スウェーデンのIKANOグループに売却される。更にその後の2009年、業績不振を受け、投資会社「Hilco」に売却される。本文で紹介したように、2011年6月に倒産。ロンドンのトッテナム・コート・ロード店などを含む3店舗は、他社に買収されることになった。www.habitat.co.uk
(猫山はるこ)
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