解職騒動から不正買収疑惑に発展
オリンパス前社長解職とその真相
英国人社長を半年で解職したオリンパスに対する株式市場の失望感は、同社の経営陣への不信感に変化した。第三者委員会は、オリンパスが過去5年間で実施した4件の買収案件は含み損を解消するために利用されていたとし、同社経営陣も過去の損失隠しを認めた。本件が、日本企業全体への国際的な評価低下につながることも懸念されている。
英CEOスピード解職と意見対立 | ||
マイケル・ウッドフォード氏 1981年、オリンパスの英国グループ会社キーメッド社入社。2011年4月1日、欧州法人社長から社長兼最高執行責任者(COO)に昇格した。10月1日、最高経営責任者(CEO)を兼任するも、同14日、取締役会で解職が決定され、業務執行権のない取締役に降格。 |
菊川剛氏 1964年オリンパス光学工業(当時)入社。2001年6月、代表取締役社長に就任。2003年、オリンパス株式会社へと社名を変更。2011年4月1日、会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。10月14日に社長兼任となるも、同26日、社長を退任し代表権のない取締役に降格。 |
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解任理由 | ||
経営陣への追及 | 企業文化の違い | |
2007年: ジャイラス社買収のFA手数料 | ||
「異常な数字」 | 「不正・違法なし」 | |
2006 〜 08年:他3社買収額 | ||
企業価値より高額 | 新規事業への投資 | |
不正疑惑問題発覚の経緯と言い分 | ||
1.不正買収疑惑報道 2011年7月、月刊経済誌「ファクタ」8月号で、オリンパスのM & Aを巡る不正疑惑問題を報道。 |
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ウッドフォード氏 | 菊川氏 | |
この報道を知り疑惑を問題視。9月から菊川会長や森副社長へ説明を要求したが、明確な回答を得られず。買収当時の経営陣の責任を問う外部調査を依頼。 | ウッドフォード前社長が、同誌の記事を利用し、自身や森副社長を追及する準備を開始したと説明。 | |
2.不当なFA手数料が発覚 ウッドフォード前社長の依頼を受け、2011年10月11日、コンサルティング会社プライスウォーターハウス・クーパース(PwC)が、オリンパスによる、ジャイラス社の買収コストが極端に大きかったと指摘。 |
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ウッドフォード氏 | 菊川氏 | |
同報告書を受け、菊川会長や森副社長の辞任を要求したところ、10月14日の取締役会で「発言を禁じられたまま解任された」と説明。 | 10月19日、一連の買収額について監査役会が不正・違法行為は認められないと結論付けたとし、「手数料や価格は適正」と説明。また、「(自身と森副社長を)悪人に仕立てた報告書を作成させ辞任を迫った」とウッドフォード前社長を非難。 | |
M & A問題を巡る関係図 | ||
外国人社長のスピード解職
10月14日に英国人のマイケル・ウッドフォード元社長がスピード解職されたことに端を発する一連の不正企業買収疑惑問題で、精密機器大手オリンパスの株価は低迷し、同社の経営が混迷している。菊川剛前会長は、同氏解職の理由について文化の違いを強調し、「日本型経営を理解せず、独断専横だった」と説明した。一方、ウッドフォード氏は、同社が過去に実施した買収案件での支払いが不適切だった恐れがあると菊川氏に指摘したことが真の理由であるとし、両者の言い分は真っ向から衝突している。
デジタル・カメラなどの映像事業の立て直しを目指すオリンパスが、英国人をトップに起用する大胆な人事に打って出たのが今年の4月。菊川氏は当時、ウッドフォード氏を抜擢した理由について、「グローバル化に踏み出すメッセージ」とし、外国人経営者によるスピード感のある構造改革への期待から、株価も堅調だった。
異常な高額報酬と企業買収の正当性
しかし、焦点は「解職騒動」から「不正企業買収疑惑問題」に発展した。事の発端は、今年7月、月刊経済誌「ファクタ」による「オリンパス『無謀M & A』巨額損失の怪」と題した調査報道を、ウッドフォード氏が目にしたことだった。同件に関して確認を求めたところ、菊川氏は「何も心配いらない」としただけで納得のいく回答が返って来なかったため、ウッドフォード氏は外部調査を依頼。すると、2007年、英医療機器メーカーのジャイラス社を約2000億円(当時)で買収した際にオリンパスが支払った、投資助言会社(FA)2社に対する報酬額約660億円が「不当に高額」であった疑いが浮上した。
また、同報酬を受け取ったとされる、米ニューヨークに拠点を置くアクシーズ・アメリカ社は数年前から閉鎖している幽霊会社である。更には、同社関連会社アグザム・インベストメント社に至っては、オリンパスからの支払いが完了した3カ月後の2010年6月、英領ケイマン諸島で免許料不払いのため登記を抹消されている。加えて、本業と関連が薄い分野の日系企業3社に関する買収額の正当性についても、ウッドフォード氏は疑問を呈していた。
組織的な犯罪である可能性
ウッドフォード氏は解職された後、オリンパスの巨額な不正支出は「組織的な犯罪である」と告発し、過去の買収活動に関する証拠書類を英日捜査局に提出した。また、米連邦捜査局(FBI)に対する調査協力を始めたことも認めていた。そんな折、第三者委員会は、有価証券投資等の含み損解消のため、長年にわたり複雑な操作で決算への損失計上を回避していたことが調査過程で判明したと発表。これを受け、11月8日、オリンパス新経営陣は、1990年代からの証券投資の損失に対する「穴埋め」として、企業買収を通じて多額の資金を流用していたことを遂に認めた。
今年9月、米「フォーブス」誌が発表した「アジアの最優良企業50社」リストは、中国企業が半数以上を占めた一方で、2005年版では13社と最多を占めていた日本企業は圏外の「ゼロ」だった。近年、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の強化に取り組んできた日本企業の名誉を挽回し、日本経済を衰退させないためにも、オリンパス問題の究明と責任追及は必須であろう。
Cayman Islands
ケイマン諸島。カリブ海の英海外領土。首府はジョージ・タウン。グランド・ケイマン島、ケイマン・ブラック島、リトル・ケイマン島の3島からなる。南東部に位置するジャマイカが1962年に独立を果たすまでは、一つの植民地として英国が統治していた。タックス・ヘブン(税金逃避地)としても知られ、所得や利益、財産、キャピタル・ゲイン、売上、遺産相続などに対して非課税が保証されることから、ケイマン諸島内では事業を行わない外国企業や海外の金融機関が資産運用会社や特別目的会社、法人事務所を設置するなどして利用。半面、租税回避やマネー・ロンダリングなどの問題も発生している。(吉田智賀子)
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