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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

金利不正操作で巨額罰金
バークレイズ銀行不祥事の背景とは

バークレイズ銀不祥事英銀大手のバークレイズが、先月27日、短期金利の国際的指標となる「ロンドン銀行間取引金利(Libor)」の不正操作により、英米の捜査当局から総額2億9000 万ポンド(約360億円) の罰金の支払いを命じられた。Liborは住宅ローンなどの設定基準として使われる金利で、私たちの生活に直結する存在だ。大手銀行への信頼をさらに損なわせる不正行為に、金融当局ばかりか政治家らも強い怒りを表明している。Liborの仕組みや不正の背景に注目した。

金利不正操作事件の経緯

2005年6月 米商品先物取引委員会(CFTC)によると、このころからバークレイズ銀では、金融派生商品のパフォーマンスが自行に有利に働くようにLibor(ライボー、ロンドン銀行間取引金利)を極秘で操作していた。
2007年 8月9日 BNPパリバ社がヘッジファンド部門から資金を引き上げたことで、市場に信用不安が広がる。Liborが上昇する。
8月31日 バークレイズ銀がイングランド銀行の緊急融資枠を2週間で2度利用したことを認める。
9月 サブプライム問題で信用が悪化したノーザン・ロック銀で取り付け騒ぎ。バークレイズ銀の経営陣は、同行の財務状況が悪化していないことを示すために故意に低い金利をLiborの決定の際に申告していたとされる。
2008年 3月29日 米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が、複数の国際的な銀行が不当に低い金利をLibor用に申告しているとする記事を掲載する。
CFTCが内部告発者からの情報を受けてLibor不正操作に関わる調査を開始。
2009年10月 英金融サービス庁(FSA)が同調査に公式に参加する。カナダ、日本、欧州委員会と協力。
2011年4月20日 バークレイズ銀、RBS、ロイズ銀、HSBCなど12の大手投資銀行がLiborの不正操作を行ったとして、ウィーンを本拠地とする資産運用会社FTCキャピタルなどが訴えを起こす。
2012年6月27日 Libor不正操作で、バークレイズ銀が米英監督庁に対し、2億9000万ポンド(約360億円)の罰金を支払うことで合意する。
7月3日 バークレイズ銀のダイヤモンド最高経営責任者が辞任。前日にはエイギュアス会長が辞任予定を発表(後任者を指名後に辞任)。
7月4日 ダイヤモンド氏が下院・特別委員会で証言し、不正操作についてイングランド銀による暗黙の了解があったと示唆。

資料: 英新聞各紙

金融サービス庁が巨額罰金支払いを命じた主な金融機関

罰金対象罰金額時期罰金支払いの理由
バークレイズ銀行 5950万ポンド
(約74.4億円)
2012年
6月
銀行間貸出金利の操作未遂と不正報告
JPモルガン証券 3300万ポンド2010年
6月
顧客の資金を自社の資金として保管し、顧客保護を怠った
ゴールドマン・サックス証券 1750万ポンド2010年
9月
米証券監督機関によって詐欺罪で取り調べを受けていたことの報告を怠った
シティグループ・フィナンシャル・マーケッツ 1390万ポンド2005年
5月
ユーロ圏債権を大量に売却したことで価格を暴落させた

資料: BBC、FSA

渦中のバークレイズ銀行の前CEO
ボブ・ダイヤモンド

バークレイズ銀行の前最高経営責任者。雑誌「ニュー・ステーツマン」が選んだ「2010年の重要人物50人」の一人。米マサチューセッツ州生まれの60歳。両親は教師だった。現在は妻と3人の子供がいる。大学講師から転職し、1970年代末に米モルガン・スタンレー証券会社の債権トレーダーとして名を馳せる。92年に米投資銀行CS ファースト・ボストンに転職。バークレイズ銀行勤務は96年から。2008年、米リーマン・ブラザース証券会社が破綻した際に、その主要資産の買収で大きな役割を果たす。その後、バークレイズの投資銀行としての国際的地位が一段と上昇。昨年3月、最高経営責任者に就任。英国で最高額の報酬を得る企業トップと言われた。BBCによると、昨年の収入は給与、賞与、株オプションを含めて2000万ポンド(約25億円)に上る。7月3日に職を辞任。

大手銀へ注がれる批判

近年の世界的金融危機で、税金をつぎ込んで大手銀行を救済した英国では、国民の大手銀に対する見方は厳しい。その英国で、先月末、新たな不信の種ができた。300年の歴史を持つバークレイズ銀行が市場金利を不正に操作し、米商品先物取引委員会(CFTC)、米司法省、英金融サービス庁(FSA)によって、合計2億9000万ポンド(約360億円)の罰金の支払いを命じられたのだ。それぞれの監督庁にとっては過去最高の罰金額となる。

Liborをどう不正操作したのか

問題となったのは、国際的な短期金利指標であるロンドン銀行間取引金利(Libor、ライボー)やそのユーロ版Euribor だ。総額350兆ドル(約2京7877兆円) にも上る市場規模を持つ金融商品の指標として使われており、金融派生商品(デリバティブ)、住宅ローン、教育ローン、クレジット・カードの金利の基準になる。Liborの設定に際しては、まず複数の有力銀行が翌日の銀行間市場で借り入れる金利を英銀行協会BBA に申告する(実際の作業は金融情報会社トムソン・ロイターが行う)。この申告数値を基にトムソン・ロイターがLiborを計算し、関係者に情報を流して、BBAが計算方法の詳細を発表する形を取る。

バークレイズ銀では、2005~08年にかけて、トレーダーたちが自行や他行の金利担当者に連絡を取って、自分たちが取り扱う商品のパフォーマンス向上に都合が良い数値を申告するように調整していた。また2007~09年の金融危機のころ、故意に低い金利を申告し、いかにも財政状態が良好であるかのように見せかけていたという。

度重なる大手銀行の不祥事

不正操作疑惑は数年前から一部で報道されてきたが、金融業界の監督組織FSAは具体的な行動を取ることができないままでいた。Libor は具体的な取引ではなく、有力銀行が提示する呼び値をBBA がまとめる形をとってきたため、業界による「私的な活動」という面があったことや、Libor の設定行為がFSA による刑事捜査対象になっていなかったことが背景にある。Libor市場は「少数の有力銀行に」支配され、銀行の株主には、「金融機関の経営者を監督する機会はほとんどなかった」(「フィナンシャル・タイムズ」紙)のだ。こうした事態を受けて、BBAは今年3月から、Libor設定方法の見直し作業を開始している。FSA によると、不正操作はバークレイズばかりではなく、20行ほどのほかの銀行でも行われていた。今後、詳細が明らかになりそうだ。

銀行業界では、ここ数年にわたり不祥事が続いている。支払保障保険(関連キーワード参照)では、誤販売で複数の銀行が巨額の払い戻しを余儀なくされた。またLibor不正操作問題の発覚直後には、バークレイズを含む大手銀行による金利スワップ取引における誤販売が発覚している。

オズボーン財務相がLibor問題で金融街シティの「強欲体質」を指摘したが、業界内を刷新する大きな機会がいよいよ到来したともいえる。どこまで「改革」が進み、国民の信頼を取り戻せるのか。今後の進捗に注目したい。

Payment Protection Insurance(PPI)

支払い保障保険。金融機関からの貸付や負債の返済が失職、事故、病気、死などの理由でできなくなった場合のためにかける保険。一定の期間、支払いを肩代わりしてくれるなどの利点がある。近年、十分な説明をせずに買わせる例が続出して、金融機関に対する国民の信頼感を下落させる要因の一つとなった。現在では、金融サービス庁(FSA)の指導の下、不適切に販売されたと思う利用者は補償金を受け取ることができる。補償金の支払い総額は昨年1月時点では3600万ポンド(約45億円)だったが、今年4月には5億7050万ポンドに達している。

(小林恭子)

 

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