来年には住民投票の実施も
フォークランド諸島の領有権争いが再燃
英国とアルゼンチン間のフォークランド諸島の領有権問題が近年、再燃している。今年初めには、ウィリアム王子が空軍の軍務として同諸島に派遣され、アルゼンチンの反発を買ったというニュースなどもあったが、今回は、長い歴史を持つこの問題について探ってみる。
フォークランド諸島に関するデータ
総面積 | 1万2173平方キロメートル |
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人口 | 2995人(2006年国勢調査の結果) |
首都 | スタンリー(Stanley) |
公用語 | 英語 |
通貨 | フォークランド諸島ポンド(英ポンドと等価) |
君主 | エリザベス2世 |
行政 | 外交、軍事以外はフォークランド諸島自治政府が担う。 英国の君主の代理人として、長官(Governor)が派遣されている。 |
国内総生産(GDP) | 1億400万ポンド(2007年) |
一人当たりGDP | 3万4944ポンド(2007年) |
主な産業 | 漁業、観光業、農業 |
Source: Foreign and Commonwealth Office
英国によるフォークランド諸島の領有に関するアンケート調査結果
*2012年3月16~18日、英国人の成人1000人を対象に電話調査を実施した結果
Source: The Guardian / ICM Research
英国によるフォークランド諸島の領有に関するアンケート調査結果
1592年 | 航海中のイングランド人の船長、ジョン・デービスがフォークランド諸島を発見する。フォークランド諸島の発見を記した最も古い記録。 |
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1690年 | イングランド人の船長ジョン・ストロングがフォークランド諸島に上陸。フォークランド諸島への上陸を記した最も古い記録。 |
18~19世紀 | フランス、スペイン、英国が、フォークランド諸島の様々な場所に入植する。 |
1816年 | アルゼンチンがスペインから独立。 |
1833年 | フォークランド諸島が英国の支配下に置かれる。以降、現在まで、同諸島は英国の領土であり続けている。 |
1845年 | スタンリー(Stanley)が正式にフォークランド諸島の首都となる。 |
1965年 | 国連総会が決議第2065号を採択し、英国とアルゼンチンに、フォークランド諸島の領有権問題について平和的な解決策を探る交渉を行うよう促す。 |
1966年 | 国連の呼び掛けを受けて英国とアルゼンチンがフォークランド諸島の領権有問題について協議するも不調に終わる。 |
1982年 | アルゼンチンがフォークランド諸島を占領。英国とアルゼンチンの間でフォークランド紛争が勃発し、英国が勝利する。 |
1990年 | 英国とアルゼンチンの国交が回復。 |
1833年から英国の領土
フォークランド諸島は、南太西洋のアルゼンチン沖に浮かぶ島々である。英国は、大英帝国時代の領土の名残である「海外領土」(「関連キーワード」参照)を、世界各地の14カ所に有しており、同諸島もその一つである。
フォークランド諸島は、1833年から英国の領土になっているが、アルゼンチンは長らくその領有権を主張しており、1982年には、この問題をめぐって、同国と英国の間で「フォークランド紛争」が勃発した。この争いは、当時のアルゼンチンの軍事政権が内政問題からアルゼンチン国民の目を逸らすために同諸島を占領したことで始まったが、英国の猛反撃に遭い、敗北した。
英企業の石油試掘で争い再燃
英国とアルゼンチン間のフォークランド諸島の領有権争いが近年、再燃している大きな理由の一つとして、同諸島の周辺の海で、英企業が石油の試掘を行っていることがある。同諸島周辺では、1998年に石油が発見されており、近年の原油高を受け、2010年より、複数の英企業が石油の試掘を再開している。こうした石油の試掘は、期待外れの結果に終わっているものも多いが、少なくとも1社は、既に大量の石油の発見に成功しており、2016年よりその汲み上げを開始する予定である。
こうした事情を背景に、アルゼンチンは近年、同諸島の領有権を声高に主張し、様々な強硬手段を取るようになっている。例えば2010年2月には、アルゼンチンの領海を通って同諸島へ行く船舶に対し、アルゼンチンの許可を得ることを義務付けると発表。また、昨年末には、近隣諸国に、フォークランド諸島の旗を掲げた船舶の入港を禁止することを合意させた。
英国は交渉の意思ないとの立場
一方、英国は、国連憲章で認められた「民族自決」の原則*に基づき、島民が現状維持を希望する限りは、フォークランド諸島は英国の領土として残るべきであるとの考えを示しており、この問題に関してアルゼンチンと交渉する意思はないとの立場を取り続けている。同諸島の住民は、大半が英国からの移住者の子孫であり、英国の領土として残ることを希望している。
こうした中、フォークランド諸島自治政府は先月12日、同諸島が英国の領土として残るべきかを問う住民投票を来年前半に実施することを明らかにした。狙いは、今後も引き続き英領にとどまりたいという大多数の島民の考えをアルゼンチンに対して明確に伝え、同国の主張を一蹴することにある。住民投票実施発表の席で、フォークランド諸島議会のショート議長は、「フォークランド諸島の島民が、英国の領土として残りたいことに疑いはない」などと述べていた。一方、このちょうど2日後のフォークランド紛争終結30周年記念日には、米ニューヨークで国連の非植民地化特別委員会の特別会合が開かれ、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は、同諸島がアルゼンチンの領土であるとの主張を改めて繰り返した。住民投票実施によって、アルゼンチンのこうした主張はもはや聞かれなくなるのか。行方を見守りたい。
*各民族集団が、自らの意志に基づいて、その運命を決定できる権利。
Overseas Territories
英国が海外に有する領土で、全部で14カ所存在する。英国の女王を君主に頂くが、英国(the United Kingdom)の一部ではない。すべての海外領土には、女王の代理人として、「長官(GovernorまたはCommissioner)」が英国から派遣されている。また、海外領土はすべて、それぞれ独自の行政府と議会、法律を有している。フォークランド諸島以外の海外領土は、人口が100人にも満たないピトケアン諸島のような小規模な領土から、6万4000人もの人口を抱えるバミューダ諸島のような大規模なものまで様々である。英国の海外領土の総人口は24万4000人。(猫山はるこ)
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