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Fri, 20 December 2024

第24回 T. S. エリオット

T. S. エリオット

小さなところで言えば、同期入社の誰よりも早く出世がしたいなどという気持ち。大きなところで言えば、歴史に名を残したい、不世出の英雄でありたいなどという欲望。競争心や名誉欲は人間の業のようなものだろうが、エリオットはそれを諸悪の根源、万難のもとと断じた。

俺が俺が、という肥大した自我。周囲の者に抜きん出て、自分の能力を光り輝かすのだという自惚(うぬぼ)れ。尊大にして過剰な自意識は、他者へのやさしい眼差しを失いがちだ。傲慢が昂じれば、自他の間のバランスが崩れる。はた迷惑とはよく言ったものだ。

向上心や向学心を、否定はしない。今日よりも明日、明日よりも明後日と、自らにより上のレベルを課して努力を続けることは、人として尊い行為である。語学が上達したい、ピアノがうまくなりたい、いい絵を描きたい……これらはすべて、自らに鞭を打つようにして精進を重ねる努力を必要とする。ひと筋の道を懸命に進む人は、みな美しい。

だが、「important」でありたいと望む欲心は、道を究める純粋さに比べると、ずいぶんと生々しく、俗臭芬々としている。自己満足で終わるならともかく、大物志向とは、他者を圧し、高みの座に君臨するのが条件のようなものだから、必ずや周囲を巻き込む。勝手な野望に巻き込まれた方にしてみれば、たまったものではない。

わけても、政治家がこの手のトラウマに捕らわれると、ろくなことがない。イギリスがアメリカに与し、虚構の根拠にすがってまで何故イラクに侵攻したのか、そこには複合的な要因が絡むだろうが、ブレア前首相が歴史に残るような「偉業」を目して「英断」に及んだという面もあったように思う。そもそも戦争や紛争がからむと、イギリスの政治家の頭には、どうしても第2次世界大戦を勝利に導いたチャーチルの亡霊が現れるものらしい。私はこれを「チャーチル病」と称したく思うのだが、45分でイギリスを攻撃してくる大量破壊兵器に備えるとしたあたり、ナチスドイツに対して妥協を拒否した大政治家に自己をなぞらえようとしたような気がしてならない。自己の責任に於いて兵を進めたイラクが今もあのような惨状でありながら、首相を退陣してなお、今度はパレスティナに平和特使としての場を求めるなど、この人の病根は深い。

自分を天下の大人物と誤認した誇大妄想的な幻影は、危険である。独りよがりの使命感もまた危ない。20世紀の2つの大戦の辛酸をなめたエリオットの言葉は、21世紀の現代にも、なお命を失ってはいない。

 

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