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Sat, 23 November 2024

第53回 ロンドンと地方の経済格差 - スコットランド独立?

スコットランドの感情

かつてエジンバラ大学で講演を行ったことがあり、その際にスコットランドの人が、「グローバリゼーションのお陰でスコットランドの製造業はまったく生きる余地がなくなってしまった。一旦失われた技術は二度と戻ってこない」と嘆くのを聞いたことがある。彼らは「ロンドンさえ良ければ良いという考えはイングランドの横暴。さらにスコットランド主要3銀行が、イングランド銀行とは別に独自の通貨発行により得ている利益をイングランド銀行が取り上げる(担保として供出させる)ことを英国政府は法制化しようしている。この動きはスコットランドの自治権を侵害するものだ」と話していた。

スコットランドでは、今般の地方選挙において独立党が労働党を上回る得票を得たのが記憶に新しい。この地の独立問題は歴史的、政治的、また文化的など多面的な問題を持つので簡単に論じることはできないが、ここでは経済面からの現状分析と何か良い解がないか考えてみたい。

経済格差の実態

スコットランドの経済面からの主張は、 「所得格差があり、英国政府からの保障(補助金)が不十分である」という不満か、または「英国政府の施策が的外れで、自分たちの方がより効率的な施策が可能である」という自信のどちらかを軸にしている。

まず図表1で格差の実態を見ると、スコットランドはロンドンの7割近くしか所得(付加価値*が7割なので、労働への対価配分が同程度なら所得も7割になる)がない。しかし、図表2でロンドンと英国全体の指標を見ると、ロンドナーの給与は高いが、住居費、生活費の支出も多く、物価水準、さらに混雑によるストレスなどを考えると生活の質はなんとも言えない。ただロンドンだけの付加生産量だけでも英国全体の2割あり、周辺部も考え併せると英国経済はロンドンが牽引車で、その税収による分配に地方が預かっているという構造は否めまい。人口が少なく経済活動自体が小さい地方は、独自の税源が乏しいためにロンドンからの経済的な自立は望み得ない。このためロンドンからの所得移転が不可欠になるが、あまりに大きな所得移転はロンドンの活力をそぎ、英国経済全体をスローダウンさせかねない。そこで問題は所得移転の十分性と資金使途への英国政府の介入の必要性が問題になる訳だ。

地方政府、自治体の組換え提案

上下水道などの社会インフラ、教育、医療などの最低限レベルについては国民が一律なサービスを受けうることが望ましいが、現在スコットランドでこの水準が保たれていないとは考えにくい。結局問題は、各行政サービスについて「最低限」とは何かということと、それを提供するのにもっとも効率よく、住民にとって最適となる主体は誰かを、個々に検討するのが良いと考えられる。電力、エネルギー、納税者管理、年金管理など大規模な資本投下が必要なものは政府が、教育などは地方政府が、ということになろう。

重要なのは、最低限のレベルを定めるのは国家だが、行政サービスを実施する主体は、そのレベルも組み合わせも固定的である必要はないということだ。サービスを提供するための技術、装置、インフラ、人的資源はそれぞれ異なるので、地方政府でも市村レベルでも、その複数が集まってもいい。またこうした複数団体から民間会社が請け負ってもいい。結局、地方で残すべき雇用もこうして守られる。この点ロンドンは、税金、教育、上水道、下水道とどこも管掌(かんしょう)と行政単位がまちまちで非常に分かりにくいが、合理的とも言える。日本でも道州制や県や市町村の合併といった一律な対応ではなく、水道は3つの市で、高等教育は3県でなど、サービスごとの提供主体の組み換えを工夫できるのではないか。もちろんITの共同投資が鍵だ。

* 付加価値……売上から原材料費を引いたもの。また利子配当(資本への対価配分)と賃金(労働への対価配分)の総和にも等しい。

(2007年5月21日脱稿)

 

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