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Sat, 28 December 2024

第58回 ニュー・ケインジアンの試される時

物価上昇続く

英国の物価上昇率がじわじわ上がってきている。国家統計局(ONS)の発表によれば、消費者物価(CPI)は5月に2.5%、6月には2.4%上昇している(グラフ参照)。イングランド銀行(BOE)が目標とする0~2%の物価上昇率を上回っていることから、BOEによる金利の連続的引き上げは不可避だ。

物価の理論と対応

1108こうした現象をどう読み、どう対応するのか。今一度、「物価上昇率はどうして決まるのか」という基本的な問いから考えてみるのが有用だ。答えは需要と供給の一致点にあるというのは今も昔も変わらない。ただその答えを支える理論は進化した。ケインズが第二次世界大戦後の復興を訴え、あまりにも景気が悪く、物価が下がり続ける際には政府が需要を創出し、需要と供給のバランスを回復し、物価上昇を図ることが適当と主張してこの理論が主流となった。

しかし1970年代に政府の財政赤字が大きくなる一方でインフレが問題となると、財政支出を行い景気が良くなっても、人々が物価上昇を予想し物価が上り、名目で経済成長しても、物価上昇分を除いた実質成長は変わらないというマネタリズムの考え方が強くなり、これを背景にサッチャー、レーガン政権が緊縮財政とそれを前提にした民間活力の活用、すなわち規制緩和(構造改革)を行った。この間に物価と経済成長はトレードオフであるとの考え方が主流になり(フィリップス・カーブという)、現に先進国ではそうした事象が広く見られた。

そして今では、より現実的に企業や個人が将来を読んで行動しているという前提を基礎に理論を組み直すニュー・ケインジアンが学界の主流になっている。期待=将来予測が人々や企業の行動を決めており、その行動は 供給サイドや需要サイドのショックによって変化するというもので、不確実な世の中で予測の役割を重視している。ニュー・ケインジアンによれば、企業の製品供給は企業の予想する将来のコストと需要(どれだけ売れるか)を前提にどれくらい儲けを増やすか(マークアップという)で増減が決まるし、消費者側は将来どれくらい収入が増えるかを考え、それからその収入増が本当にまともなものか、言い換えれば働いた結果当然報いられるべき付加価値の上昇分に値するかを予想して、現在の買う量を決めることになる。要するに需給両側で将来を読んで今を決めるのだが、その将来予想が相関しており、経済の行方を決めるということだ。

現在の英国の状況とは

では、この経済理論が現在の英国にはどのように当てはまるのか。企業の将来予測は、中国やインドの需要増加のため原油価格の上昇が続くのでエネルギーや資源価格は上昇継続する一方、中国製家具の値上げにみられるように中国での人件費上昇から中国製品もこれ以上値段が下がることはないとの見方である。また2000年入り後の好景気から賃金も一段と上がっていくと予想し、さらに英国内での住宅関連の製品の需要が根強く、今のうちに値上げをして利益を確定させたいという気持ちのようだ。一方、消費者の方は賃金の上昇が金融関係から関連業界、裾野へ広がり、来年も4%くらいは上がるのではないかとの期待が定着している。

この期待に大きな問題がある。期待が期待を生む形で、物価に上昇圧力が高まっている。ではどうすればよいか。ニュー・ケインジアンによれば、企業、消費者両サイドの期待を減らすショックがあるのかどうか、なければ政策対応が必要になる。まず、金融市場でサブプライム*問題を理由にクラッシュがあれば需要は冷え込むであろう。テロや戦争もそうである。しかし、こうしたショック自体が予測不可能だし、人為的に制御することも無理なので、やはり常道は財政金融政策だ。ただブラウン氏の住宅供給政策は住宅価格を一服させる効果はあるが、財政拡大でインフレ促進になる恐れがある。

財政縮減余地が政権からみて小さいとなると、問題はBOEの金融政策になる。今の金融市場では、サブプライムでクレジット市場を中心に危機が迫りつつあるとの悲観論も多い。引き金として注目を浴びるのは、グローバライゼーションの下ではBOEのみならず、異常な低金利を続ける日銀の金利引き上げのペースである。

*通常より金利を高くした貸し倒れの危険性が高い不動産ローン。本欄第51回参照。

(07年7月29日脱稿)

 

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