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Mon, 25 November 2024

第84回 オリンピックの後に

北京オリンピックを見て

この稿が掲載されるのは、北京オリンピックの終わり頃であろう。北京の街角やその周辺地域の事情についての報道を通して、その発展ぶりと貧富の差の大きさ、知的財産権の無視のされ方、環境問題のひどさなどを、まざまざと目にしたに違いない。しかし、中国とてこのままの状況を維持しているわけではない。形式的には共産主義の看板を掲げていても実質は資本主義なのだから、こうした不都合は、市場メカニズムにより是正されていく可能性がある。そしてグローバリゼーションの流れにもまれる中で、世界市場からの圧力、インターネットを通じた世界市民、消費者からの監視といった要素は強力な是正圧力になると思う。

足許、中国の経済成長にはブレーキがかかっている。オリンピック需要に対する反動は、既にオリンピック前から始まっていた。東京五輪のときと同じように、公共工事のピークアウトが景気を悪化させつつあるが、一方で批判の矛先が向けられてきた知的財産権への低い意識については、変化の兆しが見られる。中国の大企業が、中小企業の無軌道振りを何とかすべしと政府に申し入れ、全国人民代表大会(国会)で主要議題として取り上げられたことから、法整備が進む可能性は高い。これまで地方裁判所は、中国内の大企業や中小企業を外国企業から守る砦となっていたが、現在では中国の大企業と中小企業間の紛争が急増してきているようだ。

環境問題とて、廃油などの垂れ流しと、その結果生まれてきた障害を持つ子供たちの様子は、日本の4大公害病以前の足尾銅山鉱毒事件を彷彿とさせる。しかしながら、こうした現象は中国でも政治問題になりつつあり、政府は既に実態調査から対応策に乗り出している。

中国が欧米ルールに乗ったら

中国が、欧米ルールに乗るのは意外に早いかもしれない。中国の貧村出身者と話すと、故郷の村の一族郎党の命運が彼の肩にかかっていることが分かる。彼らのハングリー精神や努力に、日本人はついていけていない。共産党幹部の師弟とて、文化大革命で下放された幹部のそれは両親の農村での苦労を見て、共産党のヘゲモニー変遷が静態的でないことを知っている。

中国のエリートに共通するのは、国を信用せず、その代わりに自分の実力や家族を信頼しているということだ。日本人の留学生が、国や家族はもとより、自分すら信頼していないように見えるのとは対照的だ。こうしたエリートのがむしゃらな働きと対応は、次第に社会の富を増し、中間層の富裕化は、猛烈な中国の企業改革に結びつくのではなかろうか。高度成長期の日本企業と異なり、現在の中国企業は、世界の消費者やコーポレート・ガバナンスといった事項に敏感にならざるを得ない環境にある。その理由としてグローバリゼーションの中での世界の消費者の目、そしてインターネットを使った世界レベルでの情報の伝播のスピードが挙げられるであろう。

いよいよわが国は正念場

今後、中国は文字通り世界の先端工場になる可能性もある。日本の産業にとっては正念場だ。中国と日本の製造業は、中国=低付加価値品、日本=高付加価値品という図式を超えたライバルになってきている。日本の製造業が、中国や発展途上国へと100%シフトしないのは、まだ中国の安い賃金+法的・国家的リスク=日本国内の高い賃金、と裁定しているからだ。先に述べたように法整備が進み、左辺のリスクが小さくなれば、生産は一挙に中国シフトすることになろう。

そうなると日本の年金問題や財政問題は、一挙に事態を悪化する。確かに英国のブラウン政権も苦境にあるのだが、英国の産業構造を一挙に悪化させる事態は、住宅バブルの崩壊以外にはなかったという意味で、その仕組みが分かりやすい。しかし福田政権というか日本の政治は、いまや日本経済の構造はがけっぷちにいることを踏まえて行われているのだろうか、と懸念する。中国との産業競争について、過度な楽観は禁物と筆者は考える。

さらに言えば、一段と豊かになった中国人の中には、礼節を知る人が増える可能性が高い。一族郎党の幸福と金銭の追求ばかり考えている連中は、世界では好かれない。もし中国人が世界の貧しい地域で医療ボランティアなど奉仕活動を熱心にやるようになり始めたら、その時こそが、日本人のアイデンティティの危機になろう。こうしたときに備えて我々日本人が考えるべきことは非常に多いと思う。

(2008年8月5日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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