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Mon, 25 November 2024

第88回 9月の市場混乱から その2 ‐ 金融も食品も混ぜ物危険

景気後退と金融クラッシュ

今回の米国での金融クラッシュが、同国に景気後退をもたらすことは確実だ。貴重な税金も、金融機関の損失補填に使われてしまう。日本の不良債権問題のときもそうだったが、金融市場の大きなクラッシュは、金融機能のマヒを通じて経済全体に大きな悪影響を及ぼす。この危機が米国での住宅価格の下落を発端としていることは間違いない。

日本でのバブル崩壊も、地価下落が出発点だった。しかし、金融機関による増幅(レバレッジ)がなかったとしたら、経済全体にそれほど影響があっただろうか。金融機関は値上がりを期待して、土地や住宅を担保に金を貸す。その土地や住宅が値上がりしている限りは、担保価値が上がるのでまた貸金を増すことができる。しかし土地や住宅の収益性が上がるわけではないから、なんらかのきっかけで土地や住宅が値下がり始めると、借り手はこれを返せなくなる。担保権を実行しても元本割れしている状態となり、これが不良債権になるというわけだ。

日本の場合、主役は貸手の銀行とその別働隊、つまり子会社のノンバンクだった。米国のサブプライム・ローン問題では、こうした貸出債権を束にした上でそれを買い取るペーパー会社を作り、その会社の負債=見合いとなる債券をノンバンクや投資家に売っていた仲介者=証券会社(インベストメント・バンク)が主役となった。この手法を証券化といい、証券化した債券を集めてさらに何重にも証券化が行われるという手続きが取られていたのである。こうした増幅効果なくして、経済全体の悪化をもたらすほどの損失は生まれなかったと思われる。

金融の役割とは何か

マネー自身はモノ、サービスのように生活を直接的に向上させるものではなく、そうしたものに携わる生産者と消費者を仲介する道具に過ぎない。ところがその道具だけを目的とした商売で大きな損失が出て、納税者の負担となり、リアルの活動に害を及ぼしている。こうした現状を踏まえて、今後は金融機関のリスクテイクや活動を制約する規制強化論、監督強化論が強くなると思うが、角を矯(た)めて牛を殺さぬように、金融とリアル経済の関係をもっと深く研究する必要がある。

そもそも、どうして大恐慌は、金融機関の根拠なき熱狂を常に前座としているのか。それを中央銀行や政府がなぜ止められないのか。シティバンクを辞めた元頭取はその理由を「ダンス音楽がかかっている最中に、ダンスを止めることができなかった」と表現している。バブルの最中にバブルと認識できなかったか、できたとしても他人に聞いてもらえなかった、という話は日本でも同じである。皆が問題と思わないときに、1人だけ「問題である」と叫べば変人扱いされる、というのはよくある寓話でもある。だが金融機関経営でもそうなのか。株主がそれを許さないのか。

英国の経済学者であるケインズは、金融は美人投票だと言った。美醜判断は主観的なもので、主観の大勢が価値を決めていくという比喩だが、土地の価格も主観によって決められていくものなのであろうか。土地が生み出す収益を算出した価値の総和が経済的な土地の値段だといっても、その収益は将来のもので、必ず不確実性が伴う。強気の予測と弱気の予測の両方があるのだが、強気が一定期間続いたときにある日、バブルとなってしまう。

金融でも混ぜ物は危険

将来予測の不確実性が存在するのは、人間社会ではやむを得ない。とすれば、大事なのは不確実性をしっかり認識することである。証券化した債券をさらに証券化して売却すると、結局その買い手は、元の債券の見合いの資産のリスクも負うことになる。証券化が何重にも続くと、最後の買い手はどういうリスクを取ったのか認識できる情報を持てない。これまで格付会社が安全性を示していたが、金融クラッシュでその信用は裏切られた。自分で情報を吟味してリスクとリターンを判断するという作業を、プロの金融機関がしていなかったという点については、厳しく断罪されるべきだろう。

日本では食品の偽装や中国製原材料に含まれていた有害物質が問題になった。これも外見からは内容を判断できないという問題を抱えている。ほうれん草、サンマ、みかんそのものであれば青さ、目、色などを見れば新鮮さは分かる。金融もリスクとリターンを判断できるような情報開示を行い、自分の頭で判断するという原則に戻ることが、近道と思う。

(2008年9月27日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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