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Tue, 24 December 2024

第108回 外国企業が不動産を買うことは問題か

外国企業による不動産買収

外国企業が国内不動産を買うことに伴うトラブルについての新聞記事が目立つ。3月には韓国企業によるマダガスカルの農地買収に地元民が反発、クーデターの原因の一つになった。中国やアラブ諸国は、自国向け輸出を企図してアフリカの農地の買収を進めており、食料の安全保障が金融市場や政府で議論されている。

日本でも対馬にある自衛隊基地の近隣地を韓国企業が買収、同国人向けのホテルが建設されており、社会問題になっている。日本の不動産業者が米ニューヨークの著名なビルを買収したときも、同国のマスコミは「米国自体が買われる」と騒いだ。中国資本が日本の企業や土地を買収しに来ることは時間の問題だろう。

この点、空港運営最大手BBAがスペインの会社、ガスなどインフラは欧州大陸の会社という例に見られるように、英国は投資歓迎のスタンスを持つ先進国である。一方、米国は港湾の運営会社をアラブ首長国連邦の国営投資会社が買うことに難色を示した。日本人もこうした問題についてどう考えるか、頭を整理しておくべきである。

外国企業による買収は問題か


巨大クリスマス・ツリーで有名なロック
フェラー・センター。日本企業が買収した際
には米国民の反発を買った。(写真:共同)
外国企業の国内不動産への投資を制限する理由として考えられるのは、軍事、食料、エネルギーなどの安全保障上の理由である。外国企業が、軍事基地の近隣地を買ってそこからスパイを行ったり軍事基地の拡張を妨げたりする、あるいは農地や油田を買って農産物や石油を国内に高く売り、自国に安く売るということは安全保障に害になるという理屈だ。このうち農地や油田については、その企業が独占企業であれば安全保障に悪影響を与えるであろうが、自由貿易の下で競争相手がいれば、もしくは採算が合わなければ長続きはしない。現在の世界を見ると、農産物でそういう商品はない。またエネルギーの分野でも、原子力や、風力などの代替エネルギーまで考えれば、独占は難しいということになる。

自由貿易が制限されてブロック経済になれば、こうした外国企業による不動産の買収問題は現実的になろう。しかしその時は、ベネズエラのチャベス大統領のように一旦外国企業に買収された土地や企業を、国家の強権を発動して格安で国有化することになるであろうから、むしろ問題は、ブロック経済化の可能性と自国のエネルギーや食料生産の自給率になる。

軍事的な問題も、技術進歩により土地自体が問題になる余地は小さいのではないか。ステルス戦闘機は垂直離発着する。軍港になりやすい天然の良港の近隣地は、機密保持のために国家に買収されることが多く、代替性がないので、問題になり得るが。そうであれば外国からの投資を制限して、国土の発展や雇用の拡大を制限するよりは、投資を歓迎しつつ、土地利用のディスクロージャーや生産物の流通促進のための規制緩和をする方が経済に資する。

発展途上国の土地買収の前提


英国のヒースロー空港はスペイン企業の
BBAによって運営されている
ただ、最近のアフリカ諸国による中国や韓国への反発は、先進国にある不動産の買収と異なり、故なしとしない。これらの中には、土地の買収にからむ、不正や不平等な契約などの例が新聞に挙げられたものがある。もともと自由貿易、自由主義といったリベラルな思想は、アダム・スミスを引用するまでもなく、公正や正義の法、秩序を前提としている。そうした前提なしに、自由貿易は成り立たない。マダガスカルのクーデターはこうした前提を無視するような、急速な社会変革に対する国民からのNOであり、もっともなことである。そしてサブプライム問題以降、こうした資本主義や自由主義のあり方自体が批判されていることも頭に入れておいてよい。自由主義とその前提の問題は、20カ国・地域(G20)を中心とする今後の世界政治を考える上で、よくよく考えておくべき問題であると信じる。


(2009年6月8日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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