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Fri, 20 December 2024

第114回 日本の民主党政権で考えておくべきこと

民主党の経済政策


民主党による政権奪取は、日本の経済
モデルの転換を象徴している [共同]

総選挙では民主党が勝利し、政権を取った。民主党と自民党の経済政策に、大きな差があるわけではない。ただ小さな違いの中に、結構重要な点が含まれている。

これまで自民党の政策は、農業や建設業など自民党の票田となる産業を別にすれば、補助金支給や減税、安い土地を提供したりインフラ整備をすることで企業活動を支援することに重点が置かれていた。そして企業が儲かることで、雇用を確保し、いずれは従業員や、取引先である企業、そしてその従業員の所得も増える、という経済循環の経路を想定していた。

これに対して民主党の政策は、どちらかといえば、企業よりも従業員=国民への直接補助や減税を行い、消費者である国民の所得を直接応援することで経済循環を起こそうとしているように見える。当然、支援を受けるのは低所得層、子育て中の人など社会的な弱者になる。これまでのいわゆる自由主義から、社会民主主義的な政策への転換と言える。

農業や建設業などの保護されている産業に対する扱いは、岡田幹事長などリベラル派の力が強くなれば厳しい対応が取られることになるし、小沢前代表など選挙派の力が強くなれば保護が続けられることになろう。自民党のように企業に期待するか、民主党のように国民に期待するかは、それこそ政策の選択の問題であり、一概にどちらが良いと言えるものではない。いずれにしても補助をもらう主体が、受け取った補助をどう生かすかで、成功もすれば失敗もする。

ここ10年ほどの企業行動

日本の企業は、バブル崩壊後のここ10年ほどの景気回復の過程で、中国を始めとした新興国向けの輸出拡大と非正規雇用の拡大による労働分配率の低減、言い換えれば賃金引下げによって、大いに資本蓄積を進めてきた。平たく言えば、中国にものを売って、その利益を労働者に分けずに安い非正規雇用を増やし、銀行に借金を返し、内部資本をためてきた。つまり、経営者や株主が豊かになってきたということである。

問題は、経営者が蓄積してきた資本を日本の成長のためにちゃんと使ってきたか、ということだ。この点には大きな疑問符がつく。日本企業は外需頼みで、従業員=労働者に我慢を強いてきたのに、技術革新を起こしていない。新日鉄、日立、東芝などの製造業も中国に追いつかれつつある。かろうじて自動車に競争力があるが、これとて中国やインドの足音が聞こえてきている。今回の選挙は、こうした企業のふがいなさに従業員=労働者=国民が、このままでは困るという意思表明をしたのだ。経済という下部構造が、政治という上部構造に変革を求めた好例である。

賢い消費者になれるのか

しかし、意思表明しただけで問題が解決するわけではない。民主党政権を作って、補助金を直接もらうことになる国民が、企業に代わって国の成長をきちんと担っていけるのかが問われるからである。もちろん国の成長の一次的な原動力が、企業の技術革新やリスク・テイクである点は、政権が代わっても、資本主義の下では変わらない。だが今度は、消費者である国民が、財やサービスの購買を通じて企業行動を変えていけるかどうかが問われる。いわば、賢い消費者になれるかどうかが焦点になるのである。

生活保護受給世帯には、真の困窮者と困窮のふりをしている者がいる。また国民に対する直接補助は、勤労意欲をそぐモラル・ハザードに陥り易い。結局、企業であれ個人であれ、政府の補助をもらったその後の行動が国や国民の幸せの行方を決めていくことに変わりはない。そういう意味では今度の選挙結果は、その波及経路の変更に過ぎない。究極的には、様々な問題を解決するのはやはり国民の努力だ。

消費者が賢くなれるのかどうか、企業がどう行動を変えるのか。サブプライム問題以降、日本の企業は海外進出か内需シフトかの選択を迫られている。また雇用所得が伸びない中、消費者の行動変化も始まっている。日本経済が、この秋から大きな転換点を迎えることは確実だと思う。


(2009年8月31日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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