ユーロ問題と英国
英国内ではあまり選挙と結び付けて取り上げられていないように思うが、総選挙とその後の英国を考えるときに避けて通れないのが、ユーロ問題である。ギリシャ財政危機とその救済が問題となる中、英国民としては、ユーロに加盟していなくて良かったと改めて感じたことだろう。独仏のように、ユーロを守るためにギリシャなどへの援助を求められることがなく助かった、やはり通貨政策の独立性が必要であると、かねてからの主張の正しさを誇らしく思っているに違いない。
実際、英国経済が不調になると、ポンドが安くなることで、英国の輸出競争力がある程度高くなる一方、輸入品は高くなり、国民生活は切り詰めを求められる。その一方で海外からの投資は増え、徐々に金利が上昇し、景気回復につながっていく、というのが政府の描く景気回復のシナリオである。
しかし、ギリシャ経済の破綻を契機とするユーロの動揺は、この回復シナリオに大きな影を投げかけている。まず、英国民の投資が、ユーロ圏において非常に多くなされている。スペインの別荘を持つ英国人の何と多いことか。つまり、ユーロの下落は、大きなマイナスの資産効果として英国経済に打撃を与える。欧州との貿易関係に与える影響も大きく、何よりも欧州連合(EU)の一員である英国にとって、ポンド自体の信認問題にも及びかねない。そしてユーロ、ポンドの危機は、世界経済の二番底へと直結する。
ユーロ暴落、ポンド連れのリスク
ユーロが暴落するリスクはどこにあるのか。それは、スペインにある。ご承知のように、ギリシャは国債の償還資金を得るために(デフォルトを避けるために)、7%もの高金利での国債発行を余儀なくされている。その他の国々の長期金利が2%程度のときに、これほど高いプレミアムを付けたままギリシャ経済が持つとは到底思えない。そしてギリシャに方が付いた(デフォルトした)後、市場の目が向くのは、ポルトガル、アイルランドであるが、この状況を市場は既に織り込み始めている。
だからこそ、今後の注目はスペインとなる。スペインの経済規模、不動産の上がり方、下がり方はギリシャの比ではない。スペインの大手銀行は中南米での儲けがあるものの、同国の中小金融機関は不良債権処理をまだ終えていない。独仏もギリシャ程度は財政援助できても、スペインを助ける余裕は到底ない。そもそもドイツの世論調査では、ギリシャを助けることにすら非常に強い批判が向けられているのだ。55歳での定年や、高い年金といったギリシャの諸制度は、いずれもドイツのそれよりも手厚い。働き者のドイツ人は、なぜ遊んでいるギリシャ人を助ける必要があるのか、と言っている。
これは、ユーロを崩壊へと導く論理だ。ユーロが単一通貨であるがゆえに、ドイツ経済に相応しい低い金利水準は、南欧諸国にはどうしても低過ぎる設定となり、バブルとなった。そしてサブプライム以後のバブルの破裂や、ユーロを守るための財政規律復活を求める独仏の動き、それに合わせた金利上昇は、いずれも南欧諸国に耐乏生活を強いるものとなる。その生活に耐えることができなければ、単一通貨の条件が崩れ、ユーロは暴落する。この状況を避けるために独仏はギリシャに援助を行うことを求められているのだが、スペインを助けるほどの余裕は両国にない。その時点で、ユーロは枠組みが崩壊しかねない。
政権党の最初の仕事
ユーロ危機に対する英政権党の最初の仕事は、ポンド防衛になると思う。英国の財政負担を避けるためにはEU離脱が有効だが、果たしてそこまで行くかどうか。ウィンブルドン方式によるロンドンの繁栄には、EU加盟によって欧州金融の核となったからこそという側面もあるので、難しいだろう。そうなると、ポンド防衛のためにはイングランド銀行の金利引き上げ、財政引き締めが有効だ。しかし、それは景気回復の芽を摘むことになる。
結局、この問題の根っこは欧州、英国において、金融機関の不良債権処理が米国ほど進んでいないことにある。それほどバブル崩壊の傷が深いということだろう。日本の経験でもそれは明らかだ。循環的な景気回復だけではどうにもならないのが、不動産価格の大きな下落による不良債権問題なのである。そうなると、労働党であれ、保守党であれ、欧州と英国の関係についての立場を明確化することが求められる。この点の哲学なしに選挙を勝って政権に就いても、すぐに難問に直面することになるだろう。
(2010年4月20日脱稿)
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