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Fri, 13 December 2024

第29回 グローバライゼーション、小組織、国家

今回は、グローバライゼーション(無国籍化)と身軽な小組織がトレンドにあるという話をしたい。

これからの国家観

■ 90年代はサッチャー、レーガン政権の自由化政策の下で、企業の寡占化が進んだ。デ・ファクト・スタンダード*1が取れる上位1、2社が独占、寡占利潤を取って、3位以下は生き残れないと言われてきた。金融で言えば、インベストメント・バンク(投資銀行)のゴールドマンサックス、JPモルガン、UBS、ドイツ銀行などへの取引量の集中、英国でも4大銀行への地方銀行の収斂、薬品業界ではGSK、グラクソ始め世界的な大企業への合併、集中などが続いた。他の産業でも同様の事象が見られる。その結果、これらの大企業は多国籍企業となり、言い換えれば国家との関係を薄め無国籍化している。

こうした動きに対して、国家の中で最も敏感に反応したのは税務と独占禁止当局である。どの国で税金を払うのかは、どの国で所得や収益を立てるかに密接に関係する。それを恣意的に行われたのでは、国家は税を取りはぐれるというわけである。この欄で繰り返し述べているように、こうしたグローバライゼーションは世界の消費者のより良く、安いものをという選好の結果であるとすれば、消費税という形以外では資源配分にゆがみのない適切な国家間の税配分は難しい。生産場所を基準とする課税では、工場のない国での販売拡大に対して課税出来なくなり、企業活動の実態に合った課税とは言えない。一方、マイクロソフトに対する司法当局の訴訟は米欧で未決着である。金融当局の国際協力は情報交換までで、実質的な監督体制構築には程遠い。国家のグローバリゼーションへの対応はこれからである。

小組織の活発化

多国籍企業化、無国籍化の傾向は新世紀入り後も続いているが、一方でそうした企業から小組織の分離も進んでいる。金融で言えば、投資銀行の内部規則の多さや上司の多さに嫌気が差した2、3人が辞めてヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンド(未上場中小企業へ投資または融資して、これを上場することで利益を得ようとする投資ファンド)を立ち上げる例が2000年以降増大した。

その後ヘッジファンドはどんどんつぶれる一方で同様のペースで作られており、法人格というか組織の消長は非常に軽くなった。こうしたことを可能にしたのは、IT技術の進歩である。SOHOと呼ばれる個人事業が可能になり、インターネットを使うことで必ずしも自前の店舗やオフィスを持つ必要はなくなった。広告も今やネット中心になりつつある。加えてMIXIなどに見られる利益を目的としない仲間作りもネットを通じて拡大している。昨今のNPOの活動領域拡大もIT進歩の影響が大きいのではないか。

さらに特筆すべきは、インターネットを通じての人間関係、協働関係にはボランテイアが馴染むということである。昔から存在するボランテイア組織である町内会や趣味の会が、ITの世界では地理的国境を横に超えて出来る。こうした事態は史上ないことである。そこに大きな可能性があるのではないか。

GOOGLEも大企業になる前がおもしろかった。その上で、スペインのカタルーニャ地方の自治権拡大に見られる国家のたがの緩みも、小組織化への一例と考えられないか。もともと組織には適切な管理スパンがある。あまりにも大きくなると管理コストが大きくなり過ぎ、組織体である意味が小さくなるのである。カタルーニャの歴史的な経緯はともかくも、ITなくして独立運動が広がりを見せたかどうか。

小組織と大組織の複線化

しかし物事はそう単線的でもない。技術は小集団にとって従来の大集団並みの活動を可能にする(インターネット上に仮想店舗を開く、インターネット上に広告を出す、金融市場取引や分析をパソコンで出来るようになるなど)一方で、大規模IT投資の出来る集団を装置産業*2とし寡占化を生む。金融機関のうち小さい企業は、大規模投資が出来ずデータベース・マーケティングなどは行えない。その良い例が証券取引所の決済寡占を目指した世界的な合従連衡*3である結局、ヘッジファンドもインベストメント・バンクに決済などは依存している(プライム・ブローカーという)。そうした中で、国家の悩みは深い。こうした時こそ、ホッブスやロックではないが国家とは何であったかを問い直す好機である。

インターネットを使っている人が世界に3割、多数にとってデジタル・デバイドは深刻な問題である。それでも3割は世界中と繋がっている。その数、約20億人弱。こうした事態を踏まえた国家論、近代国家を再定義する議論は英国でもまだ見当たらない。保守党キャメロン氏がブレア政権を打ち負かすためには、それくらいの気構えでなくてはなるまい。

*1・・・多くの人に認知されることによって、結果的に標準と見なされている規格のこと
*2・・・石油化学工業などに代表される、大型の設備や装置を必要とする産業
*3・・・その時々の利害に応じて、団結したり離散したりする政策。

(2006年6月25日脱稿)

 

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